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#14 ノイマン湖畔の襲撃 



 城経由で、修理依頼していた箱馬車の内装用の化粧板も張られて、皮製クッションの座席と御者席用の座席・背もたれクッシが取り付けられて引き渡された。


 流石専門業者で御者台にも魔石ランプを取り付けてあり、車体も黒色塗装をされている。


魔石はあるし馬ゴーレムを召喚した、色は栗毛で足首の白い"ウインド"そっくりな輓馬にした。


 指定日前だがギルドに呼ばれた、会議室で参加者全員の顔合わせだった。

 今回、護衛に応募したのはC級の冒険者3チームになった。

 アベル達も呼ばれたが、ギルド職員の紹介で空間収納持ちの搬送人で馬車持ちだと紹介されたら商人達は大喜びだった。


 結局アベル達が中央荷馬車役で前後の馬車が食料持参の商人達で、前衛と後衛の荷馬車に他の2チームが同乗警護する役割となった。


 護衛料は各チームともに帝都までの片道2泊野営で40万ギルだ。

 アベルはその場で商人の馬車荷物を時空収納庫に全部収納した。


 ギルド職員から帝都への途中岩山で盗賊に襲われた事例が報告された。


 総勢20人近くになりコンテナは使えず、アベルは大型テントを購入した。


 指定日の早朝にギルド前にゴーレム輓馬“ウインド”とフレーム箱馬車で近づくと幌馬車の行列ができていた。

 ギルド職員もテキパキと馬車隊列の整理に大忙しであった。


 アベル達3人がゴーレム輓馬で箱馬車を曳いて行くと早速中央に配置された。



 ◇◆◇



 アンナ・フォン・トリッシュ女伯爵の領都であるオースチン市から出発して、右手にノルマン湖を左手に岩山沿いの街道を馬車20輌のキャラバンは足並みを揃えてゆっくりと進んでいる。


 延長5㎞の1本道は極めて危険な場所だ、前後を挟めば逃げられない。

 しかも領都を出てからずうっと尾行している騎馬数頭が遠望されている。


 アベルはクロスボウを撃てる状態にした、1本道出口と側面岩山に40人以上の人間が魔力感知されている。

 御者席に並んで座る夜刀姫には鉛玉を持たせて異変即応を命じてある。


 まだ右手のノルマン湖に反射する朝日の輝きを楽しめる余裕はある。


 アベルは御者席に夜刀姫と座り、新箱馬車内にスフィとミーナを座らせてある。

 御者席後ろの小窓が開いてミーナの顔が覗いた。


 「そろそろ仕掛けてくるにゃ~! 」


 「仕掛けてきたらミーナは岩山のアジトの場所だけ調べてくれない? 」

 「分かったにゃ」


 「姫は賊が攻めてきたら攻撃していいからね」

 「了解しました」


 アベルも直に始まる予感はした。

 ノルマン湖周辺域はノルマン帝国発祥の地域で風光明媚な地域でもあった。



 ◇◆◇



 このノルマン湖沿いの街道は風光明媚だが逃げ道のない1本道で警備上の難所といわれている場所だった。


 すこし前よりアベルたちの馬車を付けていた7騎ほどの賊の姿がはっきりと姿を現して退路を断っている。

 この街道をこのまま行くと両側の岩山と湖が尽きて森の中のカーブした見通しのきかない場所に入ることになる。


 アベルは自分だったらどう襲うかを考えると、前方カーブの先に大木を倒して通行止めにして、樹木の上から弓矢で脅して、街道側面の岩陰にも伏兵を伏せさせて矢を射かける。

 後ろからは騎馬でふさぐ手で完成だ。

普通ならばここでキヤラバン側は詰みの場面だ。


 やがてアベルたちの馬車は岩山と湖が尽きて森の中のカーブした見通しのきかない場所にさしかかった。


 やがて、アベルの予想どうりにカーブの先に大木が倒れて通行止めにしてあるのが目に入ってきた。


 樹木の上から弓矢で狙う賊が3人気配がする。街道左手の岩陰には30人以上の伏兵の気配がする。

 馬車の後ろを付けている7騎の賊が抜剣して近づいてきた。


 「アベル様、スフィが「迷い霧」を出しますからその隙になんとかしてください! 」

 「お、いいねそれをお願いするよ」


 スフィが両手を合わせて祈りの姿勢になると、アッという間に湖面から白い霧が湧きたち流れてきて街道の周囲が霧で覆われた。


「なんじゃ~この霧は方向が分からなくなったぞ~! 」


「霧で方向が分からないから弓矢はつかえないぞ~! 」


 盗賊たちの喚き声や後ろの馬のいななきが周囲から聞こえる。

 矢の飛ぶ音がしても方向違いで影響がない。


 「姫は岩陰と樹木に人影が見えたら投的していいよ」


 「前の馬車は倒木をどかせろ~! 」


御者席左の夜刀姫が3回腕を振るとドサドサドサと落ちる音がした。

やがて隊列は徐行だが進み始めた。


 霧の中をそろそろと進むとアベルたちの馬車は除かれた倒木地点まで着いた。

 アベルたちの馬車はそのまま無事に1㎞ほどの森林地帯を抜けて草原の街道まで出た。


 後ろを振り返ると白い霧に包まれた森林と岩山が見える。

 前方は見通しのいい草原で、先ほどのノルマン湖ほどではないが街道脇右手に多くの沼が点在して見える。


 この開けた草原なら鉛玉が使える・・・

 街道上にキャラバンは停止した、速度は騎馬のが早いからだ。

キャラバンは円陣を組んだ。


 やがて霧が晴れた森林の中から7騎と37人の盗賊たちがアベルたちの馬車隊列を目指して剣を煌めかせて駆けてきた。


「「「「「「「「「「「「「ウォォ~コラ~逃げるな~殺すぞ! 」」」」」」」」」」」」」」」


 「姫は後衛に行って賊が150m内にきたら攻撃をしていいよ」

 「了解しました」


 夜刀姫は御者席から降りると、隊列の後ろに歩いて行った。

 やがてシュー、シュー、シューと高速の物体と空気との擦過音だけが聞え始めた。

 やがて先頭の7騎の盗賊が悲鳴とともに馬上から落馬しだした。


 “グァ ” “ギァ” “オァ” “ゲッ” “ギァ” “ウァ” “ゲッ”


 夜刀姫の腰バックには100個の鉛弾が入れてあるから余裕でしょう。

 途中で立ち止まり反転して逃げ出した盗賊たちもバタバタと転倒していった。

 やがて44人の盗賊たちの身体は街道周辺に倒れてもがいていた。


 痛いよ~~~~~~~~! ウ~~~~ン!


 44人全員の手足が消失したり、折れ曲がっていた。

 あとは主人を失ってさまよう7頭の馬たちを確保する作業があるだけだ。


 箱馬車の中にミーナの姿が消えているのでアジト探しに行ったはず。


 アベルは時空間収納庫の中から鉄インゴットを取り出して鉄フレームで格子型の台車枠を製造した。

 商人たちが眺めている中で鉄の車輪を4本作り台車の下の車軸受けにはめ込んだ。


 4頭分の軛をセットすれば牽引できるはずだ。

 商人達と護衛の冒険者たちが近づいて来た。


 「この鉄荷馬車で盗賊たちを運ぶつもりですか? 」


 「そりゃあかんわ!手下たちの首は刎ねて賞金首クラスだけ帝都に連れていけばよろしゅうおすがな」

 「そうや、根城の財宝とか奴隷とかのほうを運びまひょう! 」


 「そうですか、根城のほうはメンバーに探索させてます」

 「さすがです、手下の首切りは他の冒険者たちにさせましょう」


「この鉄荷馬車はもっと小さくてよろしゅうおす」


 2チームの冒険者たちは淡々と盗賊たちの選別に入った。

 この世界ではそれが常識なんだろう。

 斬首の前に盗賊たちの武具と武器と金品をまとめて商人達に渡された。

 幹部たちを除いた37人の盗賊たちは沼に引きずっていかれた。


 大穴が掘られて、処刑は始まった。

 大根みたいに首が刎ねられて、体が穴に倒れていく。

 やがて終り土魔法で掘られた大穴に土が被せられて首切り作業は終わりだ。

 やはり慣れているのか手際がよい。


 盗賊の幹部7人は非武装を確認して、薬草ポーションを飲ませて傷を全員治療した。

 そのかわり、鉄の輪と鎖で手足を拘束した。


 迷い馬を回収して、盗賊が乗った鉄の荷馬車を引かせる軛に4頭をセットして残り3頭に冒険者2人と夜刀姫が騎乗した。

 まだ本拠地に拉致された旅人たちや守備の盗賊がいるかもしれない、確認をしている途中だ。



 ◇◆◇



 賊の馬7頭と鉄荷馬車を先頭に商人隊列が岩山の根城に向かった。

 やがてミーナが戻り案内された場所は岩山の中に盗賊の砦が巧妙に隠されてあった。


 帝都に2日の距離に盗賊団の砦があったのだ、信じられないだろう!

 岩山の複数の洞窟で柵も二重に備えた砦で、重なり合う岩山の盆地にあった。


 アベルの箱馬車と鉄荷馬車と商人隊列が砦の構内に到着すると、洞窟の中から若い女性たち6人が両手を上げて飛び出してきた。

 留守番を任せられるほど盗賊達から女性たちは信用されていた。


「「「「「「奴らを殺してくれてありがとう~! 」」」」」」


 しかし歓声を上げて踊る女性たち・・・案内で出された縛られ盗賊幹部7人をひたすら殴る女性たち。


 村々から拉致されて盗賊の世話をさせられていた、見て分かるほど2人が妊娠していた。

 彼女たちの名前はジーン、メアリ、スージィ、マリー、タバサ、アンネと名乗った。

 監禁されていた期間は2年から10年間とバラバラだった。子供を何人も産まされて売られて地獄だったろう。


 “野獣死すべし”だな!


 帝都まで2日ほどの距離なのに帝国の討伐隊は来なかった。

 ここは自力救済が原則で、弱い者に厳しい世界だ。

 本拠地の炊事場は洞窟外の砦内に石材で築かれてあり、崖下が天然のトイレだったみたいだ。


 ここから湖と街道が見える、見張りが街道を通行する小規模の商人の馬車を見つけると待ち伏せと追い立て騎馬の二手に分かれて仕掛ける。

 裏手の間道を伝い、出口の森と岩に人数を伏せて入口から馬で旅人を追い立てる作戦か。


 この岩山の砦が湖畔街道を見渡せる絶妙な位置にあるなとアベルたちは感心した。


 アベルたちは洞窟の中の部屋とつながる通路を1部屋1部屋丹念に捜索した。

 今まで捕らえた旅人たちや商品はすべて結託した奴隷商人に売払つていたと自供した。


 洞窟のすべての部屋は中でつながっており、最深部で地下水脈につながっていた。

 その結果、発見したおびただしい樽や箱の中に金貨470枚、銀貨1382枚、大銅貨753枚、銅貨903枚を発見した。


 麦などの穀物256t、ワイン74樽、干し肉59t、古着寝具類多数、武器防具多数、水樽多数、薪多数、飼葉多数と馬7頭と若い女性6名が押収したすべてだった。

 アベルたちは1泊2日かけて物質をアベルの空間収納庫の中に入れてまとめた。


 翌早朝、アベルは2頭立て鉄製馬車をインゴットから製作した。新造した鉄製馬車1輌に女性6名を乗せて、4頭立て鉄荷馬車1輌に盗賊7人を乗せて帝都に向けて出発した。


 途中2野営泊をして、アベルと女性たちは食事付きで大型テントの中に寝た。不審番は輪番制だ。

 盗賊達は水だけ与えて足首も鎖で縛り地面に寝かせて、トイレ時だけ足首の鎖は解いた。

 それでも騒ぐと斬首されると覚悟しているのか全員従順だった。



 ◇◆◇



 翌日早朝に出発して午後に街道の帝都検問所に無事たどり着き、対応する警備兵に事情を話して盗賊7人・馬7頭・女性6人と収納庫から武器防具・盗品金品多数を全て出して引き渡した。


 警備兵も驚き、すぐに警備隊長を呼んできて詰所の地下牢に盗賊を入れるなど対応してくれた。


 いずれにしても本拠地封鎖や盗品処分・犯罪者処断は治安部隊にさせるべきだ。

 鉄荷馬車1輌と鉄製馬車1輌はアベルがインゴットに戻し回収した。


 アベルたちは帝都に到着してから1週間程毎日滞在している隠れアジトから警備隊詰め所まで出頭させられて尋問された。むろん馬も生きている人間も財宝も一つ一つ入手経緯を聞かれた。


 誘拐された女性達や商人・冒険者・盗賊からの証言自白聴取も終わり、岩山の実地検分も終わり、隠匿物質の照合も終わり、10日後に警備隊長から処分結果が商人達と冒険者達に言い渡された。


 1.盗賊団首領キッドの他の懸賞首が6名おり、討伐参加20人に金貨200枚が支払われる。

 2.盗賊団討伐により獲得した馬・貨幣・武器防具は報奨金として討伐参加全員に引き渡される。

 3.盗賊団討伐により押収した食糧・衣類・寝具等の盗品はすべて帝都内孤児院に寄付する。

 4.捕虜にした盗賊7名については検問所外街道での公開斬首とする。

 5.処刑後の盗賊の7首級については検問所外街道での3か月間のさらし首とする。

 6.拉致されていた女性6人については親元か村長のもとに返す。

 7.妊娠している女性2名については出産まで教会で保護する。


 討伐参加全員は獲得した財宝の中より親元のところにいく4人の女性については旅費として1人金貨10枚を贈呈した。

 妊娠して教会に保護される2人の女性については出産費用として討伐参加全員で金貨20枚を贈呈した。


 商人達は冒険者3チームに契約達成確認書にサインしてギルドから冒険者の各チーム毎に報酬で40枚の金貨が支払われた。

 これでギルドの護衛依頼はすべて完了した。


 獲得した馬・貨幣・武器防具は代表商人が売却して、後日参加全員に均等割でギルド経由で支払われることになった。

 アベルは今回受領した金品はすべて3分割して自分、スフィ、ミーナに分配した。


 「これでアベルパーティーは解散にゃ」


 「パーティー参加賞としてこの黒の腰バックを上げるよ、忍者には便利だよ! 」


 「え、・・・なんで分かったにゃ」

 「ウッフ、当たりか俺も転生人なんで名前からカマかけた」


 「ずるい!自分にはクマリ孤児院運営の夢があるにゃ、運営資金を稼ぐための冒険者稼業にゃ!アベルには夢があるにゃ? 」


 「俺にはオッタル大公を打倒する夢があるよ」


 「お~、その夢はミーの夢と限りなくシンクロしているにゃ、アベルと一緒に再び夢を見るにゃ! 」


 「え~、なんでそうなるの」





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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