#13 樹木医スフィ・ミーミル
領都オースチンの仕立て服屋の個室の中で、デイアンドル姿のエルフの少女が女性店員にサイズを計測されて困惑していた。
アベルの注文は現在のサイズに合わせてもう1着作って欲しいということだ。
衣服は前開きで袖なしの深緑の胴衣と白い半袖ブラウス、緑のスカートと薄緑のエプロンと革靴を履いていた。
衣服のデザインや色彩は本人によると同じものでいいそうだ。
隣の個室ではメイド姿の夜刀姫がやはり女性店員にサイズを計測されていた。
夜刀姫はアベルの指示どうりにメイド服作りに淡々と協力している。
アベルは別の店員にアベルと夜刀姫とスフィの新しい下着を7着程注文していた。
仕立てた服は3日間もあれば出来るので後日引き取りで前払い清算した。
エルフだろうがゴーレムだろうが汚れていない衣服を常に身に着けるべきなのだ。
夜刀姫の身体の歪みについては帰りの野営時の検査装置では異常は出なかった。
◇◆◇
続いてアベル達がいったのはオースチンの冒険者ギルドだった。
今後ともにスフィ・ミーミルと行動を伴にするのであればスフィの冒険者登録とパーティー結成にむけての条件を受け付けのフラウさんから聞き出す必要があった。
ギルドの扉を開けてアベル達3人が1階フロアの中に入ると、受付には順番待ちの人影もなくすぐに受付のフラウさんの前に立てた。
「アベルさんこんにちは、オーガロード討伐の件でお待ちしてました。おや、新人さんの冒険者登録希望ですか? 」
「はい、こちらのスフィ・ミーミルさんの冒険者登録をしたいのですが? 」
「冒険者登録に種族制限はあるのですか? 」
「いいえありません、エルフ族の方は年齢制限は外されています」
「それでは冒険者登録を先に処理しましょう、この用紙にお書きください」
記入していたスフィが書き終わり、申し込み用紙を受付けに提出した。
「ヒーラー枠での申し込みですね、技能者が少ないので歓迎します」
受け付けのフラウさんが申し込み用紙をチェックして、カウンターの下から水晶球を出してきた。
「スフィさんはこの球を触ってください」
「この球はなんですか? 」
「この球は犯罪の処罰歴を示すのよ」
スフィが水晶球を触ると、青く輝いた。
「これで登録完了です、登録料金はF級のヒーラーで50銅貨になります」
アベルは50銅貨をフラウに差し出した。
フラウは50銅貨を受け取り1枚のギルド会員規則集を手渡してきた。
フラウ「スフィさんのギルドカードが出来るまで1時間程度かかります、それとアベルさんにはクラス昇級とオーガ砦の懸賞金が出ています」
「昇級は今回のオーガロード討伐でC級になるのでギルドカードを出してください。懸賞金はトリッシュ伯爵家から1白金貨が出ています」
周囲にいたギルド職員と数名の冒険者たちがどよめいた。
“うわ、1白金貨(億円)だって! ”
アベルはフラウにギルドカードを出して、懸賞金1白金貨を受領して魔法袋に入れた。
そのあと3人は壁に張られた数多くのランク別依頼票を眺めた。
アベルは近くの壁の依頼票を眺めていると、帝都ベルブルグまでの隊商護衛の依頼票を見つけた。
この護衛に参加出来れば帝都への道順も盗賊対策も心配ない。
帝都行き隊商の出発は5日後だった。
受け付けのフラウさんに聞いた。
「この帝都までの隊商護衛の依頼票は2人でも受けられるのですか? 」
「その帝都までの隊商護衛の依頼はパーティー限定ですね」
「パーティー結成は何人以上なら認められるのですか? 」
「パーティー結成は正規メンバーが3人以上なら認められます」
「隊商警護は荷馬車の数も多くなり、前衛と後衛に分かれるから複数のパーティー参加を依頼主も希望しています」
「なるほど、ここの冒険者でパーティーを探しているソロの方はいますか? 」
「はい、最近ソロになりたての探索者の方がそこの酒場にいますよ」
アベルはとりあえずその探索者に会いたいとフラウに伝えた。
アベルは職員フラウに案内されて同じフロアの酒場コーナーの片隅でエールを飲んでいる白猫のミーナの所に着いた。
「ミーナさん、こちらがパーティー募集しているアベルさんですご紹介します! 」
「え、前にギルドへの道聞いた少年にゃ、探索者が欲しいのかにゃ? 」
「そうです、帝都までの隊商護衛のパーティーを作りたいのです」
「相方が結婚で引退して、新しいパーティーを探していた所で助かったにゃ」
「よろしくお願いいたします。報酬は3等分にしますね」
「帝都までの暫定加入でね、フラウの紹介なら受けるにゃ! 」
「では受付でパーティー申請してください、リーダーはアベルさんで良いですか? 」
「リーダーはアベルにゃ」
「リーダーはアベルさんで」
「え、俺がリーダー? 」
「「はい! 」」
「当然」
「・・・」
「ではリーダーのアベルさんが申請用紙に記入してくださいね」
用紙にはパーティー名の欄が最初にあった。
「パーティー名はどうする? 」
「「リーダーにお任せします、にゃ」」
くそ、なら勝手に書くぞ。
パーティー名:“迷宮の指輪”
リーダー:アベル・エデン 搬送人 C級
構成員:ミーナ・ツゲ 探索人 C級
構成員:スフィ・ミーミル ヒーラー F級
(従魔)
ゴーレム:夜刀姫 メイド?
即席の片道限定冒険者パーティーがオースチン支部で登録された。
続いて帝都ベルブルグまでの隊商護衛依頼に3人パーティーとして応募した。
もちろん1時間後にスフィとアベルのギルドカードは二人に無事手渡された。
◇◆◇
スフィのノーマルスキルは 炊事と洗濯と掃除であり、メイドに向いている。
それ以外では固有スキルとして「樹木医」が特異である。派生スキルの「森林セラピー」もできる。
派生スキルの「森林セラピー」は樹木エキスによる心の癒しである。身近にある植物からスキルにより、フィトンチッドを含むマイナスイオンが周囲に降り注ぎ、精神安定、疲労回復、風邪予防、抗菌作用、防虫効果、酸化防止などのリラクゼーション効果が期待される。
固有スキルの「樹木医」は、樹木や草花を見て生育環境や用途を分析鑑定でき疾病対策にも役立つものである。
特にスフィの作る薬草を原料とする傷薬は高い治癒性能を有する。
エルフ族特有の固有スキルであるが名産品の開発には威力を発揮する。独り農業試験所みたいなものである。
アベルの空間収納庫に入れてあったテンサイやゴムノキ・カカオの木は、いずれ広大な畑が入手したなら、テンサイの根は砂糖に抽出され、ゴムノキからは長靴や車輪のタイヤ原料として、カカオの実からはチョコレート原料としてこの異世界で価値を見いだす予定だ。
スフィは常に持ち歩く霊樹で作られた移植ごてにより見つけた薬草等貴重な樹木・植物の苗・種はすべて採取してある。
移植ごては木の精霊ドライアドに与えられたものだ。
スフィは木の精霊(Dryad)ドライアドの加護を受けている。旅の途中で森の古木のそばでスフィが緑色の美少女と話しているのがアベルに目撃されている。
スフィの母親の遺品の植物図鑑は、アベルからもらった茶色の腰バックの中に大切に入れてある。
◇◆◇
これはアベルが救出したエルフ少女スフィのステータスです。
聖樹の見習い巫女でもあり緑の伝道師となり剣の大陸の西端にまで来ています。
エルフ族は1000歳が寿命とされており、130歳程度では人間の13歳扱いにされる。
このエルフの少女スフィの特色は、ユニークスキルと生活スキルに植物の環境改善が出来る能力があることです。
同時に周囲との関係改善のためのノーマルスキルと派生スキルを持ちます。
彼女の異言や異種交流によりアベルの危機が予知されて何度も助けます。
ノルデア帝国オースチン冒険者ギルド 組合員原簿
名前 スフィ・ミーミル
年齢・性別 130歳・女性
種族 エルフ族
職業 ・ランク 樹木医(F級)
【鑑定石ではここまで表示される】
ユニークスキル: 樹木医(鑑定・復元・治癒)、遺伝子操作(植物能 力)、言語力(異言・異種交流)
ノーマルスキル: メイドLv5
(炊事・洗濯・掃除・裁縫・接客)
生活スキル: 霜取り火魔法・散水魔法・種蒔風魔法
・栄養土魔法
派生スキル: 花咲き人(森林浴)
これは臨時パーティー結成した猫人族少女ミーナのステータスです。
ナデシュ半島クマリ王国の山中にあるイガの里の村長の娘であり、王国の暗部でしたが今は遺臣の孤児院建設に奔走しています。
ノルデア帝国ベルブルグ冒険者ギルド 組合員原簿
名前 ミーナ・ツゲ
年齢・性別 15歳・女性
種族 猫人族
職業 ・ランク 探索者(C級)
【鑑定石ではここまで表示される】
ユニークスキル: 忍術(気配遮断・同化迷彩
・忍び足)上忍、 空間魔法(移転)
ノーマルスキル: 索敵・罠感知(狭域透視・解除)
・夜目・吹き矢
生活スキル: 着火魔法・飲み水魔法・乾燥風魔法
・堀削土魔法・地図
派生スキル: 全毒耐性(鉱物毒・動物毒・魚毒
・爬虫類毒・植物毒)
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