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#11 藤棚とランプと幻想的な夕べ



 ノルマン帝国地方都市ローレンに居城を構えるトリッシュ女伯爵の館の応接室で紅茶のティーセットを前に5日間の休養明けのアベルはソファーに座っていた。

 もちろん侍女の夜刀姫はアベルの背後に控えている。



 今朝はアベルもオーガ砦征伐の正式出発日だということは覚悟していたが、目の前のソファーに座っている当主アンナ・フォン・トリッシュ女伯爵の表情からは、やっと討伐当日になった事に安心した心境が伺えた。


「実は、アベル様のキャンプしていた林を城壁上から見たのですが建物の中が見えずに焦っていましたのよ」


(あの鋼板ブロックは高さ5m以上あり遠くから見えずらかったはずだ)


「あのキャンプ施設は今回のオーガ討伐の旅に初めて使うもので、全ての機能を展開していまして、不安を与えたとしたら申し訳ありません」



「アベル様は不思議な力をお持ちなのですね、オーガ討伐からお戻りになったら一度キャンプ施設にお伺いして中を見学してよろしいかしら? 」


 彼女は好奇心が強いので予感はしていた、やはり来たかと・・・


「もちろんのことです、討伐から生きて戻れば俺のキャンプにお迎えいたします」


「あら、いけないわ!肝心のオーガ討伐の話に戻りましょう。机上の小さな略地図に記載してある元のシホン王国の国境の廃砦が今回の攻略目標です。これはお持ちください」


「魔物オーガに占拠されて、そこを根城にわが領土の7ケ村以上で人々を襲っています。以前から送っている領軍の討伐隊も何度も壊滅させられています」


「今回の長女アナを襲ったオーガ達も位置から分派した仲間の疑いが濃いです。首領は火を纏う魔剣を使うオーガロードだとの事です。是非、アベル様に討伐をお願いしたいのです」


(オーガロードはまだ倒したことはないな、早く討伐して、早く帝都に行こう)


「分かりました、やってみましょう。オーガロードを倒した証明はどうしますか? 」


 トリッシュ女伯爵はニッコリと笑ってうなずいてからから、


「首領のオーガロードが使う火を纏う魔剣を証明部位にしましょう」


「証明部位は了解しました。あと砦まで日数がかかりそうなので、馬と馬車などをお借りしてよろしいでしょうか? 」


「当然の事です、なお馬丁も1人付けますので、御者の方法とか馬の世話とか道々お聞きください! 」


「これは何から何までありがとうございます」


「応募者はいませんが、オーガ砦討伐はギルドに懸賞金で依頼中です」



「それでは廃砦までの経路を説明しますので、こちらにどうぞ」


 すでに隣りの会議室により詳細な大きな地図がテーブルに広げてあった。

 トリッシュ女伯爵の指揮棒で砦までの道筋を地図の上で示して説明を受けた。


「この距離がありますから馬車で片道2泊3日ほどかかります、今回は御者1人を付けます。ただこの馬丁は今回だけの地元出身の道案内人です」


「有難うございます。これで早く行って早く帰れます」


「砦までの往復時間で馬の世話の仕方や馬車の運転のやり方などを馬丁から習得出来ると思います。では馬車と水や飼料・食料と用意するように命じておりますが確認しますのでアベル様はいましばらく此方でお待ち下さい」


「分かりました」


 やがて、ロッシュ執事が来て馬と馬丁の用意と箱馬車横に水樽・食料等の準備が済んだとアベルに知らせてきた。


 城内の中庭に引き出された2頭曳きの中型箱馬車と1人の馬丁をアベルは近づいて見た。

 御者席が2名掛けで箱馬車に差し向かいで4名の乗客が乗れる中型箱馬車だった。


 1頭曳では重たいのか、後日帝都へはアベル製作の輓馬ゴーレムといフレーム箱馬車にしよう。


 今回の準備としては箱馬車横に1週間分の食料や飼葉や水樽が山積みされていた。

 アベルの空間収納庫についてトリッシュ女伯爵は完全に把握してこの物資を準備した。


 ロッシュ執事に確認してからアベルは空間収納庫に食料や大量の飼葉や水樽を積み込み、トリッシュ女伯爵に挨拶して、ローレン城の城門を通り城外に出た。


 昼近くの日光を浴びて夜刀姫が座る箱馬車の御者席に案内役の馬丁と並んで座り、アベルはオーガロード討伐の旅へと出発した。



 ◇◆◇



 ローレン城を出てからしばらくは何事もなくのんびりとウインドと荷馬車の旅は続いた。


 アベルは暖かい日差しの中、18歳ぐらいの若い馬丁と御者台の上でとりとめのない雑談をしていたら、ふっと話し相手の馬丁の名前をまだ知らないのに気がついた。


「馬はウインドだよね、ぇ~とあなたはなんて名前ですか? 」

「ギルバートです、ギルと呼んでください! 」


「ギルね、よろしく、俺はアベルです、アベルと呼んでください」

「いえいえ、やはりアベル様の方がいいです」



 若い馬丁は他の馬車とすれ違う箇所とかで巧みに若い輓馬を手綱でリードしていた。

 馬は見た目、性格も従順で良い馬らしい。


「アベル様はオーガ砦に征伐に行かれるのですか? 」

「はい、夜刀姫と二人で征伐します」


「ヤトヒメですか? 」

「はい、メイドの名前が夜刀姫といいます。俺が作ったゴーレムです」


「え~、すごいな、まるで人間に見えますよ」



「ありがとうございます。それと今夜の宿営はどうしますか? 」

「はい、街道途中にある宿泊予定地でテントを張りますが! 」


「その事なのですが、俺の空間収納庫の中に既に組み立てた小屋が保管してあり、今夜はそこに泊まりませんか? 」

「それはすごいな、勿論お世話になりますよ! 」


(若いからのりがいいね~)



 やがて1日分の距離をこなして時間も夕方近くになり、街道脇の草原で小川の流れる傍に数多くのキャンプ跡のある区域が右側に見えてきた。


 アベルは早速、箱馬車から降りて、少し離れた小川の傍の草地に300㎡程度の平坦で四角い空地を土魔法で整地した。


 早朝に出発するときには整地した敷地を現状に戻し地上排水溝や地中浄化槽も盛り土して現状に回復する予定だ。


 アベルが空間収納庫から出したコンテナユニットは4つのモジュールで構成されていた。


 1つのユニットは60㎡18坪程度のオンドル兼用の鋼鉄箱の上に構築されている。

 300㎡の四角い平坦地の上に4つのモジュール240㎡の宿泊施設を乗せた。


 追加で既存の厩舎と車庫もコンテナユニット横に出して、2頭の馬と箱馬車を入れた。


 今夜は晴れなので屋根の心配はない。



 アベルは厩舎の中に空間収納庫から飼葉の入った箱と飲み水の入った樽も配置した。


 ギルさんは馬のブラッシングなどの手入れをしたり床に藁を敷いたりしている。

 今夜はコンテナユニットに最初のゲスト宿泊の記念すべき夜だった。


 4つのモジュールの周囲には高さ5mの窓無し薄鋼板の外壁が延々と続き、入り口は見えないが実は玄関部分と裏口部分の地面には1㎡の鉄板リフトの踏み台が出ている。


 外部からは巨大な鉄の箱にみえるコンテナユニットの異様に、ただただ驚くギルさんを促して、アベルと夜刀姫とギルの三人は、玄関部の入口の鋼板ドアを開けてさらに庭側の引き戸から庭園内に入った。



 日も落ちて周囲が暗い中でも藤棚に吊り下げられた20個の5色の魔石ランプの光が、藤花や庭園の床に浮かぶ白い円形テーブルを照らし出していた。


 そこは幻想的な空間を浮かび上らせており、非日常的な映画のロケセットみたいだった。

 これは前世の神社の祭りにも似ている、周囲は真っ暗なのに明るい夜店が連なる不思議な空間を思い出した。


 周囲は薄鋼板で覆っているし、上空は空間ブロックが光線を屈折させているから空が薄ぼんやりと光るくらいかな。


 とりあえずアベル達は8棟のコンテナハウスの囲まれた空間にいるので、ギルさんにはゲスト用の寝室ユニットに連れて行き使用方法や入浴方法を案内しながら説明をした。


 事前に浴槽とかトイレとかの使用方法を説明しないとね。それぞれの引き戸には絵文字で表示はしてあるが案内説明は必要だよね!



 もちろん左右の2台のボイラー機器には地上に展開している間は作動を続けてもらう。


 ギルさんとの夕食は簡単に庭園中央の円形白テーブル上にセットした。

 アベルとギルさんが椅子に座り、空間収納庫から出した料理店の深胴鍋に入れたポタージュスープと調理場で焼いたオークの厚切りステーキだ。



 飲み物ではアベルはオレンジジュースで、ギルさんにはワインをグラス

1杯分だけ出した。

 まだアベル15歳でギルも18歳だもの、自制しましょう。


 ほかには市場から購入した大量のパンと果物だった。食器やホークとナイフは新品だった。

 夜刀姫はスムーズにメイドとしての動きをしていた。館の侍女たちの動きを学んでいるな。


 食事も済み、食後のお茶を飲んでいると、夜刀姫が椅子に腰かけて竪琴リラを6曲ほど30分間演奏してくれた。


 パチパチパチパチ・・・ギルが盛大に拍手した。


「素晴らしいですよ、城にもこれだけ演奏できる人はいません。ヤトヒメさんありがとう! 」


 舞台装置もよく、演奏も心にしみて満足できる夕食の時間となった。

 あとはお風呂に入り石鹸で体を洗いシングルベットで寝るだけだった。


 2日目も順調でオーガ砦までの2泊目の旅を終えた、明日は目的地に着く。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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