めぐりあい
あてもなくぶらりぶらりと闊歩していると
むこうからあいつがやってきた
黒いシルクハットに手をあてて
無言でわたしの横をとおりすぎた
まってくれ
あいつの背中に言葉をなげると
あいつはうろんな目つきでふりかえり
わたしの影に視線をおとした
どなたですか
わたしはあなたにおぼえがない
あいつの声は冷たくて
わたしの鼻先は赤くこごえた
どうしても思い出せませんか
わたしはあなたのお世話になったものです
ある日あなたはあいさつもなく
わたしのまえから去ってしまった
あいつは井戸のように深い目をして
わたしの言葉をきいていた
そして口を動かさずに一言いった
ではさようなら
わたしはあいつを忘れはしない
いつかまた出会う日まで
あいつはわたしから逃れられない
なぜならわたしとあいつは因果なのだから