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St.コタールの日記
それは突然やってきた。
人の心に寄り添う闇と、そこに巣食う醜悪なモノ。
ソレは言った。
「神は去った」
私は言った。
「神は此処に」
ソレは言った。
「神は去った。貴様の元から」
私は言った。
「神はこの胸に」
ソレは嗤った。
「そんな身体の、どこに?」
身体中の血を失くし、腐敗しきった臓物のどこに、神は宿るというのだと。
ソレは真っ赤な口を裂けるほどに大きく広げて、地響きのように嗤う。
私は言った。
「それは。それは」
膝をつき、祈る。祈る。祈る。
ただひたすらに。
ただ無心に。
ただ一途に。
死臭漂う両の手を組み、ひたすらに祈る。
祈って、祈って、祈って、祈って。
纏う死臭から逃れるように、祈り続けて。
そうして、痩せ細った手からペンが零れ落ちた、まさにその時。
さぁさぁ皆様、どうか彼女に盛大な拍手をどうぞ。
この世の地獄は一先ず完成。
コタール妄想:自分がすでに死亡している、存在しない、腐敗している、または血液や内臓を失っているという妄想的信念を抱く精神障害である。 by Wiki