008
店員から持たされたかわいいフリフリの服を持って試着室に入る。
僕はあまり試着室というものを利用したことがない。
服のサイズなど一度決めてしまえば、大人になってから変わることはないし、子供の頃に試着室に入っていたとしても、それはもう忘却の彼方に消え去っている。
というわけで、僕にとってこの空間は実に新鮮だ。
自然と首が動き、見渡してしまう、この四方を閉ざされた狭い空間を。
意外にも、なにもない。
ただ、目の前に大きな鏡があるだけで、それ以外には試着する際、脱いだ服を入れるカゴしかない。
だから、僕の視線は自然と集まってしまう。
鏡に。
鏡に映った自分自身に。
少女の服装を着た、外見少女の僕の姿に。
家の洗面所で一度は確認しているが、まだまだ見慣れない。
黒髪黒目、白い肌、整った顔立ちだが、どこか幼さを感じさせる。
服装に関しては言うまでもなく、憩に似合いそうな純白の服だ。
憩のために買った服だったが、意外にも僕に似合っている。
そのことには驚きを禁じ得なかったが、それほど重大なことではないと気づいたため、そんな思考は放棄した。
とりあえず、脱がないことには始まらない。
僕は服に手をかけ、そして止まった。
これを脱ぐということは、下着姿になるということだ。
僕は今、憩の下着を着用している。
あれだけ文句を言った僕だったが、結局のところ、「じゃあ、ノーパンで行く?」という母の提示した案に屈服し、憩の下着を着用することになった。
水色の下着。
それをもう一度、見なければならない。
別に憩の下着を見たくないというわけではない。
むしろ、常時見ていたいくらいなのだが……。
僕はただ、認識したくないのだ。
自分が憩の下着を着け、憩の服を纏い外に出かけているなど、認めたくないのだ。
これでは、まるで変態じゃないか!
でも、これを脱がなければ、僕の服は手に入らない。
それに、僕が出ていかなければ店員は心配してしまうだろう。
いくら金の亡者にとはいえ、人に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
僕は意を決して、服を脱ぎ、下着だけ姿になった。
できるだけ見ないように目を薄く開けるだけに留まらせ──下着を着けるときも同様の対応をした──僕は店員から持たされた服を手に取った。
否が応でも、その服が視界に入ってしまう、僕は下着を見ないようにするため格好の視線置き場である服に意識を集中させる。
僕は思わず、目を見開いてしまった。
ピンクと白を基調としたゆるふわな衣装。
これは……似合うのか?
鏡の中の僕が顔をひきつらせていた。