007
というわけで、僕の服を買いにきた。
「いらっしゃいませ。なにをお探しでしょうか?」
神々しいまでのアルカイックスマイルを浮かべ、客は逃がさないとでもいうようなハンターの瞳を向けてくる店員に家族一同は引いた。
家族とは言っても、父さんは家で留守番している。
ここにいるのは、僕、憩、母さんの女の子三人だ。
「この子たちに似合う服を見立ててほしいの。料金は一人、十万円ね」
母さんが何気なく値段を提示した瞬間、背中になぜか悪寒が走った。
反射的に周りを見渡す。
僕たちを見つめる十六もの瞳が、今まで見たことがないくらいに輝いていた。
まずいと思ったが、もう遅い。
僕たち家族は囲まれてしまっていた。
アルカイックスマイルをその顔に貼り付けたこの空間の支配者、店員に囲まれてしまっていた。
パチンパチンと指が鳴らされる。
「そちらのお嬢様方に最高のお召し物を」
神々しいアルカイックスマイルの店員──今の台詞から察するに店長のようだ──の瞳は期待に満ちあふれていた。
「ささ、奥様はこちらへ」
恭しい様子で母さんを連行する店長。
おそらく、金額相談でもするのだろう。
さて、僕のほうは試練の開始である。
「なにか、着たいものある?」
明らかに十歳である少女に対し、なぜこの時間にここにいるのかという表情すら見せずに、お客様として接してくる店員にほんの少しばかりの賞賛と感謝の念を抱きつつ、僕は首を横に振った。
対する憩はというと、
「かわいくコーデしてください」
しっかりと敬語を使い、要求を述べていた。
年上の人に敬語を使う憩に、兄として心の底から抱き締めたくなりながらも、公衆の面前ということでそれは中止にせざるを得なくなった。
「はい、わかりました」
店員はそう言ってニコリと笑った。
そしてパンパンと手を叩く。
店員が手を叩いたことを皮切りに、七人の店員が整列する。
横並びに七人、その前に一際、上位の存在であるかのように手を叩いた店員が立っている。
この異様な雰囲気に僕はもちろん憩も混乱している。
やがて、手を叩いた店員が重々しく口を開いた。
「作戦コード、K、2、20。作戦開始」
は?
一瞬なにを言っているか理解できなかった。
隣にいる憩もなにを言っているのかさっぱりわからなかったようで、ポカンと口を開けている。
非常にかわいらしい。
でも、乾くから口は閉じたほうがいいと、お兄ちゃんは思う。
そんな店長の宣言に対する他店員の対応と言えば──。
「サーイエスサー!」
うん、ここは軍隊だろうか?