005
今日は木本憩は休み、か。
私は委員長としての仕事を完遂するため、欠席者の確認を行った。
先生に訊ねてみたものの、連絡はなかったらしい。
大丈夫だろうか?
なにか危ない目に遭遇していたり、事件に巻き込まれたりしていないだろうか?
その真相を探るため、私はアマゾンの奥地へと向かった。
「山峰さん」
ひとまず木本憩と特に仲がいい山峰美月に声をかける。
「………………なに?」
無表情なのでなにを考えているのかまったくわからないが、声を発するまでの間から考えるに、困惑しているのだろう。
まあ、仕方がないと言えば仕方がない。
私の目から見ても、山峰美月はあまり人と話すのが得意ではない。
それに対して、私は常にひとりで行動している。
別に友だちがいないわけじゃない。
さらに弁明すれば、私はひとりが好きなのでは決してない。
ただ、ほんの少し感覚があわないだけだ。
「木本さんが休みなので、なにか言伝てなど預かってないかな、と思いまして」
「ことづて?」
表情を変化させずに、首をかたむける山峰美月。
どうやら言葉のチョイスを間違ってしまったらしい。
「なにか連絡はなかったか、ってことです」
どうやら納得したようで、山峰美月はその薄紅色の唇を開いた。
「なにも聞いてない」
なるほど。
これは完全なる無断欠席のようだ。
体調が悪い、ということにしておこう。
私は日直が書かなければならない日誌にそう、嘘の情報を書き込む。
「どうして」
「ん?」
「体調が悪いなんて一言も言ってない」
つまり、どうして言ってもいないことを書いたのかの説明を求められている、そういうことらしい。
この少女は表情に変化がなく、それに加えて口数も少なめであるため──ちなみに木本憩と一緒にいるときはよくしゃべる。今の状態はあくまで「余所行きモード」と言ったところか──言っていることにクッションが挟まれている。
遠回しな発言すぎて、一瞬のシンキングタイムを必要とするのだ。
「これも木本さんのためですよ。無断欠席なんて先生に注意されてしまうでしょう?」
これでもわかりやすく説明したはずだ。
なにも山峰美月は馬鹿じゃない。
私の言葉をなんの誤変換もなく理解してくれるはずである。
「ありがとう」
次に山峰美月はそんな言葉を発した。
表情に一切の変化は見られなかったが、その声色にはほんの微かに感情というものがこもっていた。
あまりの出来事に私の思考が三秒ほど停止してしまっていたことは誰にも言えない秘密だ。
もちろん感謝されたのだから、返事をしないわけにもいかない。
ここはなんて返すべきだろうか?
結局、私は目元まで伸びた前髪の内で目を柔らかくして、口元を三日月にもならない角度で吊り上げ、世間一般で言う「微笑み」を浮かべながら、こう言ったのであった。
「これも仕事のうちですから」