004
この身体では仕事に行くのは無理だろう。
この時間帯に外に出るだけで、補導されてしまう。
中身はともかくとしても、外見は純粋無垢な小学生でしかないのだ。
いつ襲われるかわからない。
今の僕は顔面偏差値が高かったとは言えない男の頃と違い、憩に負けず劣らずの美少女になっていた。
もちろんながら、僕の美しさなど憩の美しさには敵わない。
「そう言えば、憩、学校はいかなくてもいいのか?」
この時間帯に僕のような少女が出歩いてはいけないように、憩の場合は学校で授業を受けていなければならない時間であるはずなのだ。
「学校はサボったよ。お兄ちゃんの一大事なのにあたしが傍を離れるのは嫌」
あれ?
おかしい。涙が出てくる。
心からの大量の涙が溢れてくる。
僕は思わず憩を抱き締めた。
憩と同じ少女の身体なので、憩の身体がいつもより大きく感じる。
「お、おお、お兄ちゃん!?」
憩の戸惑った声が耳元で聞こえる。
僕はその声の安心感に浸りながら、心の言葉を紡ぐ。
「僕は、お兄ちゃんは、幸せ者だ。憩が僕の妹でよかった。ありがとう、憩!」
「……お兄ちゃん」
憩も僕のことを優しくふわりと抱き締める。
二十歳にもなって妹に抱きつくのは正直、情けないと思うがこんな兄思いの妹が目の前にいたら誰だって抱き締めざるを得ないだろう。
いつまでそうしていたかわからないが──。
「こほん」
母さんがわかりやすく咳をしてくれたおかげで、なんとか二人の世界から脱出することができた。
急に恥ずかしくなった僕は思わず、憩を抱き締めるのをやめてしまう。
「あっ」
憩はなぜか、不満げな声を漏らしていた。
しかしながら、冷静になると憩も自分が行っていたことに気づいたのだろう、それとも僕の真っ赤になっているであろう顔を見て気づいたのか、まあ、どちらにしろ憩の顔はトマトもかくやという赤みに一瞬にして染まっていった。
「………………」
「………………」
お互い、無言になってしまう、それも顔を真っ赤にさせて。
そんな二人の様子を見て、小さく呟く声が二つ。
「若いって、いいわねえ」
「……まあ、そうだな」
「百合って、いいわねえ」
「…………まあ、そうだな」