002
「お兄ちゃん、起きて……お兄ちゃん?」
うーん。
「えええええ!?」
「んあ?」
憩の喧騒で目を覚ます。
それはいつもの朝と同じように思えたが、今日に限っては少し異変を感じた。
二度寝をしたいという感情に打ち勝ち、上半身だけでも起き上がる。
寝ぼけているせいか、ベッドがいつもより大きく感じてしまう。
「憩、どうした?」
僕は驚愕の表情で立ち尽くす憩いに向かってそう問いかける。
どうやら僕は体調が悪いらしい。
声が裏返って高くなっている。
いや、そういうふうに聞こえるのか。
憩いから返ってきたのは想像を絶する言葉だった。
「誰?」
「誰って……忘れたのか? お兄ちゃんだよ。お兄ちゃん。木本憩の兄、木本蛍だよ」
本当にわからないのか?
僕は憩のほうを見る。
頭を打っている様子は見受けられない。
「お、お兄ちゃんなの?」
未だに僕をお兄ちゃんだと認めない憩に僕は手を伸ばす。
もしかしたら憩は熱があるのかもしれない。
だがしかし、僕の手は止まった。
なにかに阻まれたとかではなく、僕は無意識にその伸ばす手を止めていた。
そして自然と僕の視線は止まった手に移される。
「へ?」
今度はこちらが驚く番だった。
白く細い腕。
どう見ても二十歳の腕とは思えない。
驚愕のあまり思考が停止せざるを得ない。
「どうかした?」
憩が僕に向かってなにかを言っているが、僕の耳にはその声が聞こえてない。
妹の言葉が耳にも入らないほど、僕は余裕をなくしていた。
今現在、僕の脳は「どうして?」という一言で埋め尽くされている。
「……どう……して?」
考えてみれば、僕の声は体調不良によって声が高くなっているのではなく、声そのものが別のものへと変化していると言えるだろう。
一応、この「白く細い腕」が自分の肩から伸びていることを確かめる。
そして腕に対するものとは、また違う衝撃を受ける羽目になってしまった。
おかしいのは腕と声だけではない。
「憩。お兄ちゃんとして妹のお前に質問がある。いいか?」
憩はうなずくことでそれに応えた。
「僕は女の子になってしまっているか?」
憩が再びうなずいたとき、僕は自分の状況を完全に理解し尽くしたのであった。