017
「先ほどは大変申しわけありませんでした! 好みのロリが玄関を開け出迎えてくれたような構図に見えてしまい、ついつい衝動が抑えられませんでした!」
リビングのソファーに座るなり、不躾カメラウーマン(仮)はテーブルに頭を叩きつける勢いで謝罪の言葉を口にした。
ドゴォオン、というちょっと危険な衝撃音が鳴り響いたが、いったいこの人の頭はどれくらいの強度を誇っているのだろうか?
むしろ、ウーマンの頭蓋骨より机のほうが心配になってきた。
「えっと……」
「なんと、お詫びすれば……そ、そうです、土下座でもいたしましょうか?」
「いや、そこまではしな──ちょっと早い! 全体的に行動が早いよ」
「いえ、これが私が示せる最大の誠意ですので!」
僕のなかでの彼女の第一印象が「不躾カメラウーマン」だったとするなら、第二印象は間違いなく「地面に頭をこすりつけているさまが似合うウーマン」である。
さぞ、毎日地面に頭をこすりつけ慣れているのだろう。
この土下座にはそれくらいの熟練度があった。
「いっそ、踏んでください、お願いします」
第三印象は変態、と。
「お兄ちゃん、この人頭大丈夫かな?」
「そうね。蛍、病院に連れて行ってあげましょう?」
あまりの変人っぷりに母娘そろって、ウーマンを病院送りにしようとする始末だ。
「いや、母さん、ここはもうちょっとお話をしてみるのも一つの手かもしれない」
「そうかしら?」
「ほら、まだどうしてこの家を訪ねてきたのか、聞いてないよ?」
よし、とりあえず憩は踏みとどまった。
あとで頭なでなでをしてあげよう。
「そうだったわね、それじゃあ、ひとまずお話だけでも聞かせてもらいましょう」
母さんにはあとでカメラを没収してもらおう。
ちなみにこの「一瞬家族会議」の間、ウーマンはずっと地面に頭をうずめていた。
フローリングの床がミシミシと悲鳴をあげている気がするのは気のせいだろうか?
「えっと、もうその件については大丈夫ですから、顔を上げてください」
そう言えば、まだこのウーマンの名前すらも聞いていなかった。
さすがにずっと不躾カメラウーマンって呼称するわけにもいかない。
「あと、そろそろお名前をうかがってもよろしいですか?」
「あ、すみません。私ったらついつい名乗るのを忘れていました」
ウーマンはついでとばかりに、その謝罪句を含んだセリフを言ってから土下座を止め、ゆっくりと立ち上がりました。
数分前にも見たボサボサの髪。
よく見ればスーツのほうはまだそこまで着用していないだろう新品だ。
ちょっと失礼な感想になってしまうが、スーツがだいぶ似合っていない。
直接見たことないため断言はできないが、ウーマンにはスーツ姿よりも白衣のほうが似合いそうではある。
チラッと憩のほうを見る。
きっと憩がスーツ姿になったらかわいいだろうな。
こうなんというか、きりっとしたスーツなのに、憩は変わらずふわふわで、でもふとしたしぐさでドキッとさせられてしまうようなそんなスーツ姿の憩。
これほど、すばらしいものはどこにも存在しないだろう。
閑話休題。
憩のスーツ姿を妄想するのはとても有意義な時間だが、ここはもうあまり不審ではなくなった変態の自己紹介を聞かなければなりません。
ウーマンはこほんと咳をしたあと、ゆっくりと自己を紹介していきました。
爆弾を抱えて。
「申し遅れました。私の名前はリバー・シューティング・ゲーム。プロジェクト・リバースの立案者にして実行犯、つまりあなたを女の子にした犯人です」