014
「憩、せめて前は隠してくれ」
今現在僕は、先ほど見えてしまった憩の神聖な部分を思い出し、ゆでダコになりそうなほど顔を赤く染めていた。
今日一日で僕は何回顔を赤くするはめになっただろうか?
男のときでもこんなに顔を赤くするようなことはなかったぞ。
「うん、わかった」
そして自分の手で神聖な部分を覆い隠す憩。
そのかわいらしくも、扇情的な姿に、僕は今現在相棒がいなくなっていてよかったと初めて思った。
「一応、訊くが、どうしてここに?」
「お兄ちゃんと一緒にお風呂に入りたくて……えっと、ダメだった?」
そんな言葉を上から目線で言われてしまえば、世の中の男は全員堕ちてしまうだろう。
その世の中の男の一員であり、一員だった僕としては、そのしぐさに、首を横に振るという選択肢しか残されていないことを悟った。
「ありがとう、お兄ちゃん」
TSをしてよかったことその一、憩との距離が今までと比べ物にならないほど近づいた。
正直に言って、こんなかわいい憩と裸のままここにいると、いくら相棒が失踪中と言っても我慢が効かなくなって襲ってしまうかもしれないため、早めに風呂を出てしまいたい。
僕の理性のためにも、本当にそうしたほうがいいだろう。
──ッ!
「お兄ちゃん、失礼します」
いつの間にか身体を流したらしい憩が僕の言った通りに前を隠しながら、僕の浸かる浴槽に入ってきた。
な、なんか今日はお風呂に長く入りたい気分になってきたな。
意志薄弱。
僕の心を表現するならまさにその言葉しかないだろう。
「お兄ちゃん、温かいねえ」
しかし、そんな僕の下心満載の思考回路とは違い、目の前にいる憩はとても幸せそうな表情をしていた。
この顔を見ることができただけで、僕の今日一日の疲れは吹っ飛んでしまった。
実際には、現在進行形で襲ってしまいたい欲望を抑えているため、精神がガリガリと削られているのだが……。
もう、そんなことすらもどうでもいい。
僕の脳はドロドロに溶けきってしまったかのように考えるのをやめて、今ここにある最高の幸せを享受しようとする。
そんな脳の状態の僕には、最早なにも、見えても聞こえてもいなかった。
「お兄ちゃん、襲ってくれてもよかったんだよ?」
だから、憩が頬を膨らませて、そんな言葉を口に出していたことなど、そのときの僕にはまったくと言っていいほど聞こえていなかった。