013
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「いや、なにかないのか? 弁明とかないのか?」
「フフフフフ」
母さんは気色悪い笑い声をあげながら去っていく。
「………………」
なんとも言えない。
いや、なにも言いたくない。
TSしてから、僕は母さんの悪いところばかり見せつけられている気がする。
僕が息子だったときにはもうちょっと頼りがいのある立派な母親だったはずなのだが、人生とはなにがあるかわからない。
いっそのこと今の出来事は忘却の彼方へ連れ去ってしまうべきだろうか?
まあ、とにもかくにも、浴室へ入室だ。
これで、ようやくゆっくりできる。
僕は浴室の扉を開けた。
ムワッと立ち込める蒸気が僕の額に水滴を作った。
お湯の温度が高いのか、なにもしていない状況でも白い湯気が上がっている。
この夏に差しかかる季節に、温度の高い風呂に入るのはなにか問題があるようなきもするが、一日の疲れを癒すという目的をもってすれば、湯に浸かりたいというのはごく自然な思考なはずだ。
僕はお湯を被る。
温かいが、急な熱に身体が反応し少しばかり鳥肌が立つ。
いつも通りのことに対し、なぜが新鮮な感覚を覚える。
そんなこんな、僕は浴槽に浸かった。
「はぁぁ」
思わず感嘆の声が漏れる。
今日一日疲れた身体に、温かいお湯が染み渡る。
「極楽極楽」
普段使わない言葉を使ってしまうくらいには僕もゆっくりできているようだ。
僕はゆっくり回復した心でもう一度、自分の置かれている状況を整理する。
僕は朝起きたら、いきなり少女の姿になっていた。
それはつまり自然的に性転換したということである。
さらに付け加えてしまえば、幼児化も併発しているということだ。
僕は朝、考えようとして結局今の今まで考えようとしていなかったことに対し、思考を巡らせる。
自然的に性転換するということは、遺伝子が変わっているということだ。
そこに幼児化という要素を加える。
つまり、細胞を若返らせたということだ。
遺伝子の逆転に、細胞の遡行。
どれも人間の成し得る行為の範疇を越えている。
そんな僕にとって重要な思考を巡らせていると──。
「お兄ちゃん、来たよ」
ガタンと扉を開けて、裸のまま浴室に入ってくる少女の姿が一つ。
僕は来るであろうと予想していた少女に目を向け、小さくため息を漏らすと同時に、頬を赤らめて目を瞬時に閉じる羽目になってしまったのだった。