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011

「お兄ちゃん、一緒にお風呂入ろう?」

 自然に発せられたその言葉は日常の一コマのように世界に溶け込んだ。

「うん………………うん!? いやいや、入るわけがないだろう!」

 憩の口から発せられたその爆弾発言に、危うく了承してしまうところだった僕は、ソファーから飛び上がり、首をブンブンと振って、憩の要求を却下した。

「えー、けちー」

 不満げな声を漏らす憩に、僕はどうしていいかわからず、父さんに助けを求めた。

 すっ、と目を逸らされた。

 それが頼りにされた父親の態度か!

 そんなふうに心のなかで憤慨してみるものの、結局いつも通りの父さんだと、半ば諦めるような気持ちで心を鎮める。

 というわけで、自分で対処することにした。

 母さん?

 あんな危ない人にはこんな会話自体聞かせられない。

 絶対に「いいわねえ、仲がよいのはいいことよ」とかほざいて、憩の味方につくに決まっている。

「いや、そんな反応するなよ。意味はわかっているのか?」

 いくら兄貴とは言え、男と風呂に入るんだぞ。

 外見はともかくとして、僕は男なんだ。

 そう、一緒に入ってはいけない理由を並び立てる僕に、憩は頬を膨らませる。

 非常にかわいらしい姿なのだが、この状況下でその姿をされるとどうしていいかわからなくなってしまう。

 この憩の提案の一番恐ろしいところは、僕にメリットしかない点だと思う。

 この議論は長引けば長引くほどこちらの不利になるだろう。

「今までは入ってくれたのに?」

 そして落とされる超弩級の爆弾発言。

「ご、誤解のないように言っておくが、子供の頃の話な! こ、この数年は入ってない!」

 父さんが警察を呼ぼうと、携帯に手を伸ばした──このタイミングではどう見ても、どう解釈しても、そのための行動にしか見えない──のを見て、焦って弁明する。

 父さんの僕を見る目が一瞬、汚物を見るような目に変わったのは見なかったことにしよう。

 あれは息子に向けていい類いの目ではなかった。

 僕は父さんが携帯を置いたのを横目に見て、ホッと息を吐いた。

「憩、少なくとも、自分が女の子であるという自覚は持とう。持っとかないといずれ憩は、危ない目にあってしまうかもしれないからな」

 僕にしては珍しい、憩のために言ったお兄ちゃんらしい言葉だった。

 ちなみに珍しいはお兄ちゃんにかかっている。

 それを聞いた憩はというと──。

「わかったよ。あ、でもね、お兄ちゃん。あたしはちゃんと自分が女の子だっていう自覚は持ってるからね、ただ……」

 頬を膨らませたままでも、一応は納得したようだった。

「ただ?」

「ただ、お兄ちゃんが特別なだけ」

 最初から最後のほうまできっちりと聞こえたその言葉に、僕の思考回路が焼き切れたのはもはや語るまでもない。

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