010
私は決して、真面目なわけではない。
なのになぜが、周囲からは真面目と思われてしまう。
そんな所作は一瞬たりとも見せていないにも関わらず、『私イコール真面目』という方程式が完成しているのだ。
「雫さん」
先生から頼まれた資料を運んでいると、声をかけられた。
強気な印象のする声。
「なんでしょうか?」
私が振り向くと、そこには予想していた人物がいた。
金髪の少女と銀髪の少女。
守谷花恋と岩倉菫。
ちなみに、私に声をかけたのは守谷花恋だ。
「なにをしているの?」
黄金の瞳が私の手元へと引き寄せられていた。
「先生の手伝いで、見ての通り資料を運んでいます」
実のところ、私はこの人たちが苦手だ。
苦手というだけで、嫌いというわけではないのだが、私は彼女らと話すときに不思議といつも緊張してしまうのだ。
それは彼女らの放つ高貴なる者のオーラが原因である。
普通の女子小学生には見られない特別なオーラ。
そのオーラが庶民の私にとって眩しすぎるのだ。
この学校の純真無垢な少女たちはそのオーラに気づきはしても、幼さゆえに理解が及んでいないのだろう。
実に年相応だ。
だからこそ、わかってしまっている私は、緊張してしまう。
彼女らの機嫌を損ねたが最後、私の人生は終わるかもしれない。
実際そんなことなどあるはずないと思いながらも、どうしてもその可能性から目が逸らせないでいる。
だから私は彼女らのことが苦手なのである。
あと、これはちなみに程度にちなんでおくけれど、守谷花恋、岩倉菫両名ともありえないほどかわいらしくて、ときどき殺されることと引き換えに無性に抱きしめたくなってしまう。怖いからしないが。
閑話休題。
「ふうん」
興味のなさそうな返事をしながらも、その視線は私の手元から離れない。
なにかあるのだろうか?
なにかしてしまったのだろうか?
どうすればいい?
私の頭のなかは、この状況をどう切り抜けるかでいっぱいになった。
「……貸しなさい」
手を差し出された。
「? え?」
少女らしいぷっくりとした唇から発せられたその言葉に、私の脳みそは機能を一時的に停止した。
もちろん、そのまま停止したのではなく、比喩での停止だが。
活動を再開した私の脳がすぐさま疑問符で埋まる。
どういうこと?
「ああ、今のは『手伝う』、ってこと。ほら、花恋って、素直じゃないから」
岩倉菫が、私の思考を察してフォローを入れてくれた。
この状況がおかしくて堪らないとでも思っていそうな声であった。
私は岩倉菫の言葉により、守谷花恋の発言の意図が理解できた。
守谷花恋はいわゆるツンデレという人種らしい。
うんうん、と納得した表情を浮かべる私に、ツンデレ少女は再度、素直じゃない言葉を投げかける。
「いいから早く貸しなさい。(あなたの)手が疲れてしまうでしょう?」
強気な印象のする声。
けれど、私はこの声のなかに優しさを感じた。