001
「紹介します。転入生の木本蛍さんです」
齢十歳の少女は担任教師により紹介された。
「木本蛍です。よろしくお願いします」
少女の発したその言葉と、はにかむような笑みは、クラスの男子の心を一気に鷲掴みしたようだ。
男子が色めきたっているのがわかる。
そんな男子の様子を見てか、少女は少し身体を固くし、担任教師のことを見る。
まるで縋るような視線だった。
そんな少女の視線からなにかを読み取ったわけではないだろうが、担任教師は行動を起こした。
「じゃあ木本さん。あそこの空いている席に座って」
担任教師が示した場所は、一番後ろの窓側の席だった。
いわゆる主人公席で、私の隣の左隣だ。
「わかりました」
小学四年生にしては異様なほどに丁寧な言葉を使う少女はゆっくりとした足取りで、自分の席に向かう。
艶やかな長い黒髪と、吸い込まれるような黒い瞳。
その薄紅色の唇は今すぐ噛み付きたいくらいにぷっくりとしている。
顔のバランスも黄金比を体現したかのように美しい。
袖の先にある細長い腕は華奢ながらもしっかりとした美しさ。
ショートパンツを穿いているのがおかしなほどに白い足。
そのすべてがクラスの全員の視線を引き付ける。
少女を例えるなら……そう、白百合だ。
歩いているからという安直な理由ではない。
少女の醸し出すすべてが白百合を連想させたのだ。
少女は静かにゆっくりと座った。
いちいち動作が美しい。
しかしながら、そこに嫌な感じは存在せず、ただただ少女の儚げな美しさが際立っていた。
「あの、すみません」
少女は隣の席に座る私に声をかけた。
少女の声はまさに鈴と言っても間違いがないほどだった。
耳に心地よいその声に、いつまでも聞いていたいという感覚に襲われる。
私は精一杯の理性を使い思考を少女との会話に切り替える。
「どうかしましたか?」
私がそう返すと、少女はかわいらしく笑う。
言葉を返すだけでここまで笑顔になってくれるなら、私はいつでも、どれだけでも、この少女に言葉を返したい。
「お名前うかがってもいいですか?」
自分自身の名前を言うだけのはずなのに、私の喉は今までにないほど、言葉を発しようとはしなかった。
緊張して声が出ない。
私の心がこの少女に名前を言うのを躊躇っている?
いや、そんなはずはない。
私がこんなにかわいらしい少女と関わる機会をみすみす逃すわけがないのだ。
なにか別の理由があるはずだ。
でも、それを考えるのは今じゃない。
私の使命はこの少女に名前を言うことなのだ。
「川村雫です。よろしく」
普通に言えたかどうかは心配だが、少女の様子を見る限り、大丈夫だったようである。
「僕は木本蛍です。よろしくお願いします」
私が今まであったなかで一番かわいい少女、木本蛍は何度見ても色あせることのない素敵な笑顔でそう言った。
とても小学生とは思えない少女。
明らかに異質なこの少女。
私はこの少女の異質さに見覚えがある。
そう、これは私と同じような……。