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「無実って事だ」

「夏以は無実ですっ!」


 僕たちは警察署にて事情聴取を受けていた。最初の聴取内容は夏祭りで起こった花火の事件だ。最も、花火が観客に向かって飛んできたことというよりも、僕が助けた子供の母親が怒っているということについてだった。

 部屋に案内され、席に着くなり奏はいの一番にこう言ったのだ。


「あ、あぁ、わかったから……」


 またまた事情聴取をするのは州崎警部だった。

 州崎警部は、僕たちとの事情聴取を重ねた顔見知りということで、「同じ人の方が色々と話しやすいだろう」という警察側の配慮だそうだ。部屋に入って来る際にも、別の部屋で沙知の事件を担当する同僚に何かからかわれていたようだ、その別室には浩介と雷夫がいる。


「確かに、君たちの言うように河川敷で発見されたあの子供の服からは、花火と同じ成分が出た。もちろん、君の指紋も。ただどちらが先についたのかは検討もつかない」

「夏以は子供を助けたんです! 私が見てました! 目撃者がいるのに、見てない人の意見を聞くんですか!?」


 奏は机に手をついて言った。僕の無実を訴えてくれるのは嬉しいが、確かに、冷静になれば他のやり方もあっただろう。例えば、風呂敷みたいなもので火を鎮火させるとか、一緒に川に飛び込むとか、今考えてみればただ服を脱がすというのは強引な手段だった。

 冬であれば上着を一枚脱がせるだけで良かったのだろうが、あいにく今は夏場でみんな薄着だ。その辺りに配慮がなかった僕の落ち度と言っても良い。

 州崎警部は後頭部を掻きながら、冷静に言葉を返した。


「だから、俺は夏以君が悪いことをしたなんて言ってないだろう。それで、話の続きなんだが、花火をスマホで撮影していた人がいたんだ。それで、花火の事故が起こったとき、逃げるのに必死でスマホを落としたらしい。そこにちょうど、夏以君がバッチリ映っていたんだ」

「それって、つまり……」

「無実って事だ」


 奏が隣で大きく息を吐き出して、安堵するのがわかった。

 その後は前に事情聴取を受けたときと同じ様に、事故の状況などについて幾つか質問を受け、それに答えるだけの流れ作業に変わった。前と同じく、質問には奏が積極的に受け答えをしていた。

 そして、一通り質問が終わると、州崎警部はメモしていたものをファイルに戻し、もう一つの別のファイルからA4サイズの紙を取り出して言った。


「じゃあ、次、ビル転落事故の件なんだけど……」

「それも私達は何もしてません! むしろ引き止めたんですよ!?」


 再び奏は不機嫌な顔になり、来るもの全てを受け付けない様に腕を組む。こういう流れが続くと州崎警部も大変だろうな、と僕は思った。


「いやだから、事故って言ってるじゃないか。こっちも屋上の防犯カメラで一部始終を確認済みだよ。だから、聞くこともない。ただ……」

「ただ?」


 州崎警部は少し表情を曇らせた。こういう表情になった次の言葉は何か良くないことを言おうとしている時だろう。僕たちは次に発せられる言葉に身構える。


「奥さんが見当たらないんだ」


 あの屋上で最後まで泣いていたあの女はが見当たらない? まさか、本当に子供達を捨てたつもりだろうか。だとすれば、本当に身勝手な人だ。少しでも同乗した自分が馬鹿みたいだ。



「それで、お子さんは?」

「あぁ、俺も詳しいことは知らないが、一時的に児童相談所に保護されている。その後は孤児院といったところか……。俺たちも彼女の家に行ったら、子供たちしかいなくてな、何とか食べていたそうだ。」


 あの女は本当に子供を捨ててしまった、という事は、おそらく仕事もやめたのだろう。収入源がない、家事をやる人がいない、払うものが払えない、そんな事が重なればネグレクトを理由として児童相談所が一時保護するだろうということも納得がいった。

 その州崎警部の言葉の中に、奏は疑問を見出したようだ。


「防犯カメラで一部始終わかっているのに、どうしてわざわざ探し出して彼女の聴取を取る必要があるんですか? 私たちと同じく、何も聞くことがないように思うんですけど」

「いや、それもさっき言ったけど、ネグレクトの疑いがあるからだよ。警察としては彼女を起訴するかどうか決めなきゃならん。そのために事情聴取がいるんだ」

「つまり、ビルの転落事故とは別件、という事ですか?」


 州崎警部は頷いた。

 時々思うのだが、州崎警部は話す順番が曖昧になっている時があるなと思った。相手に伝えようと思えば、もっと噛み砕いてわかりやすく話すことができるような気がする。確かに、質問されなければ自分でも気づかない事もあるだろうが、流石に相手の察する事を過信しすぎているのではないだろうか。


「俺たちの調べでは、最後に姿が確認できたのが夕美中央駅の防犯カメラだ。ただ、どの駅のホームには写っていなかった」

「つまり、どの路線に乗ったかわからない、という事ですか」


 僕は州崎警部の言葉の補完したつもりで言ったが、これは流石に奏も察しているだろうと気づく。


「そうなんだよ。人の出入りは少ないのに路線が5本もあるもんだから、どの方向に行ったのかわからないんだ。だから、今は他の部署と連携しながら探してるところだ。一応、実家に帰った可能性も視野に入れて実家の前にも交代で張り込みしているらしい」


 女は電車に乗った、そして別の街へ行ってしまった。しかも、三人の子供達を置いて。

 僕は、男が言ってい女の“本命”の事が思い当たったが、実際、顔も名前も住所も国籍すらわからない為、口に出す事はしなかった。


「ま、ないとは思うけどさ、もし街で見かけたら教えて欲しい。まだ犯罪者じゃないから指名手配とか出せないんでね」


 「まだ」という含みが気になったが、虐待というのは犯罪に含まれるのだろうか。最近のニュースや新聞を見ていれば分かった事なのだろうが、高校生である今はもっと他にしたい事がある為敬遠してしまう。


「それじゃ、奏さんはここで終わりね。車で家まで送ろうか?」

「いえ、結構です。それより、夏以はまだ何かあるんですか?」

「あぁ、もう一件事件があってね。その参考人として聴取を受けてもらうんだ」


 奏は僕の方を振り向いて「そうなの?」と言わんばかりに首を傾げた。

 僕はそれに頷いて答えた。


「さ、二人とも、次が待ってるから部屋を開けてくれないかな」


 僕たちは扉を出たところで分かれ、先に浩介と雷夫が聴取されている部屋に向かった。その通路を州崎警部と歩いていると、妙な事を聞いてきた。


「なぁ、君は死神かなんかじゃないのか?」

「はい?」


 これは本当に、全く質問の意味がわからなかった。


「いや、君の周りではよく人が亡くなるからさ」

「それは心外ですね。僕だって、被害者みたいなものなのに」

「君が死神でも逮捕なんて出来んよ。裁判で負けて無罪を勝ち取られ、不当逮捕だといわれるのがオチさ。でも、噂でも死神でも、なんでもいいけどこんな形で人が死ぬところを見たくないな」

「はい、全くです」


 部屋の前に着くと、先に州崎警部が入り、浩介と雷夫を聴取していた担当の人と短く言葉を交わした、担当していた人は退室し、僕も部屋の中へ招かれた。


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