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「さっ……ちゃん?」

「それじゃあ、一緒に回りましょう!」


 果歩が何かを企んでいるのは間違いなのだが、反対する根拠もないので受け入れざるを得ない。しかし、次の提案は根拠無しでも反対する価値のあるものの様に思えた。


「丁度男女が三人ずつなので、ペア作りましょう!」


 それは、その場にいる五人を巻き込んだ大胆な案だった。

 豆鉄砲を食らったのは、僕だけではないらしい。

 しかし、不思議と異論を唱える人は現れず、沈黙が訪れる。周りを見渡すと、満更でもないような表情をしている人が数人見受けられた。

 果歩は再びニヤリと笑うと、ペアの組み合わせを言い放った。


「じゃあ、こうちゃん先輩とさっちゃん!」

「さっ……ちゃん?」


 初対面にも関わらず、いきなり沙知にあだ名をつけて、即呼ぶ辺りは流石は果歩だ。しかし、本人の了承は得ていないから困るだろう。と思い、沙知を伺い見る。初めは目を瞬いていて戸惑うような表情だったが、小さな声で「さっちゃん」と反復している沙知の表情を見るに、今ではとても嬉しそうな表情をしていた。

 これは想像だが、初めてのあだ名にすごく感激したのかもしれない。


「先輩とかなちゃん先輩!」


 僕は奏と同行することになった、らしい。奏に何か一言話そうと思い、視線を合わせると、そっぽを向かれてしまった。

 何やら今日は、奏の様子がおかしい。気にする方が変なのかもしれないが……。

 そして、残った雷夫と果歩がペアとなった。僕は雷夫に黙ったまま視線でエールを送るが、顔を赤くするのを隠すためか、うつむいて眼鏡の位置を直す仕草をした。


「それじゃあ、花火までは各ペアで行動すること! 解散っ!」


 そう言うと、果歩は雷夫の手を引いて、祭りの喧騒に消えていった。雷夫のことを考えればとても良い考えだと思っていたが、流石に付き合わされる身としては迷惑な話だ。

 現に浩介は沙知に気を使っている。


「沙知さん、ごめんね。後輩が勝手に言い出したことだから、気にしなくて良いよ?」

「いえ、でも……ご一緒しても、良いですか?」


 沙知は上目遣いで浩介に尋ねた。それは、男心をくすぐるようなもので、中学生という後輩としての可愛らしさも上乗せされているものだった。

 浩介は少し照れながら、頭の後ろのあたりを掻いた。


「別に構わないけど、まぁ、よろしく」


 あまり乗り気でない様な態度をとりつつも、満更でもないのがよくわかった。沙知の方も、浩介を気に入っているみたいだった。

 まるでヒーローみたいに劇的な助けられ方をすれば、例え初対面でも女心は動くものだろうか。それとも、ピンチという状況が吊り橋効果的に働いたのだろうか。どちらにせよ、僕はその魔法が解けないことを祈った。

 二人も喧騒の中に消えていくと、僕と奏の二人きりになった。


「なんだかんだで、みんな乗り気なんだね」

「夏以は、嫌なの?」


 再び、奏に視線を戻すと、今にも泣き出しそうな、不安にも似たような表情をしていた。

 僕はその表情に思わず黙り込んでしまう。


「嫌なら、良い。夏以一人で楽しんで来なよ。私は花火の場所取りするから」


 なぜ、こんなにも奏が不機嫌になっているのか理解できなかった。しかし、僕がペアになるという提案に否定的なところで機嫌を損ねたなら、まずは謝るべきだろう。


「ごめん、そんなことないよ。せっかくだから奏も楽しも?」

「て……」

「へ?」

「手! 人が多くてはぐれそうだからっ! 下駄に慣れてないの!」


 予想外の言葉に驚かされつつも、そういう言われれば確かにそうかもしれないな、と不思議な納得感があった。僕が手を差し出すと、それに奏が応じた。

 屋台の方に歩を進めると、喧騒が激しくなり、相対的に奏の下駄のカランコロンという音も次第に小さくなっていった。

 手を引いて奏をリードする。しかし、会話が生まれない。どこか適当な屋台にでも入って話題を作ろうか。そんな時、奏に手を引かれた。


「夏以、あれ」


 奏は一軒の屋台を指差していた。そこは輪投げ屋さんで、点数に応じて景品が選べる方式を取っていた。その景品が気になったのだろうか。


「輪投げ、する?」


 奏はコクコクと頷く。

 五本の輪っかを渡されて、縦一列に並べられた棒に輪っかを通す。近いものは点数が1点、遠いものは5点と高くなる。そして獲得した点数によって景品を選べる仕組みだ。

 何気なしに見ていると、輪投げをする浴衣姿の奏がちょっと色っぽく見えた。お目当ては合計15点の子豚のぬいぐるみらしい。上手いこと獲得できるように祈る。

 一つ目、外れ。二つ目、3点。三つ目、2点。その次は5点に入れなければならなかったのだが、横に外れてしまった。奏の願いも、僕の祈りも届かなかった。結果的に、夏祭りオリジナルのうちわを受け取った。


「やっぱり浴衣は動きにくいね」


 奏は悔しさを滲ませながらも、苦笑いをする。


「でも、その浴衣、奏らしくて良いと思う。とても似合ってるよ」


 ただ単純に、純粋に思ったことを口にしただけなのだが、奏は目を丸くしてそっぽを向いてしまった。僕はまた何か変なことを言ってしまっただろうか。

 とにかく、その贖罪と自分の興味から、僕も輪投げに挑戦することにした。もちろん狙うは子豚のぬいぐるみだ。

 一つ目、外れ。二つ目、3点。三つ目、3点。四つ目、4点。この最後の一投が五点に入れば、お目当てのものを獲得できる。

 いけっ!

 ここ最近では一番強い思いを込め、投じた。

 しかし、惜しくも五点の棒に輪っかの外側が当たって外れてしまった。

 結局、僕もオリジナルのうちわを受け取った。


 その後は、早めに花火会場に到着し、みんなを待つことにした。花火が打ち上がるまではまだ20分もあったが、ちらほらと場所取りの人が集まりつつあった。きっと、10分後には更に混み合うだろう。

 僕たちは、下から見上げる為に用意された、ブルーシートの小さな椅子に並んで腰掛けた。何気ない会話をしながら時間を潰す。


「あの5点の位置遠すぎだろ……」

「まだそんなこと気にしてるの?」


 奏は、僕の考えとは裏腹に笑った。

 僕としては恥ずかしいの一言だった。「君が取れないなら僕がとってあげるよ」みたいなセリフを思いつかないでもなかった。しかし、それは屋台の主人に言われたセリフで「お兄ちゃん、惜しかったな!」なんて大きく笑われる。赤っ恥どころではない。完全に痛い人だ。

 それにしても、奏はお目当ての子豚のぬいぐるみが取れなかったというのに、上機嫌になっていた。まるで、先ほどとは別人のようだ。

 今日の奏はやっぱりどこかおかしい。


「機嫌直った?」

「うん。ごめんなさい。本当は浴衣なんて、初めて着るから、似合うかどうかもわからなくて。果歩に付き合ってもらって、見立ててもらったけどやっぱり自信がなかったの」

「それで不機嫌だったの?」

「まぁ、そんなところよ。夏以に『似合ってる』と言ってもらって、ホッとした」


 僕が本心で褒めた時の反応はどうやら照れ隠しだった様だ。案外、奏にも弱い部分があるのは意外なことだった。いつも、大人びた服装を着る奏の事だから、こういう大人びた浴衣もバッチリという自信があるものだと思っていた。

 女の子にとっては、やはり浴衣と私服ではテーマが同じでも違うものなのだろうか。まぁ、奏が一概に大人びた服装をテーマにしているかはわからないけど。


「後、子豚のぬいぐるみを取ってくれようとしたのも、嬉しかった」

「結果、取れなかったけどね」

「ううん、良いの。取ってくれようとしただけでも嬉しいものだよ」

「そういうのものなの?」

「そうだよ。結果より過程が大事! それに、うちわもお揃いだし……」


 お揃いで嬉しい、か。なんだか本物のカップルみたいだ。そんな風に思ってしまうのは、男の性分だろうから余り口にしないようにする。セクハラじみた言葉で気持ち悪るがられるのは本意ではないし、奏に嫌われて立ち直れる精神は、多分ない。


「お待たせ致しました! 間も無く花火大会の開幕でーす!」


 話し込んでいる間に、そんなアナウンスが流れた。僕は慌てて浩介に、奏は果歩に連絡を取ろうとスマホを取り出すが、果歩が既に先手を打っていたようだ。


『花火もペアで見ることにしましょう! なんだかんだで思い出になりそうですし!』


 そんなメールが届いていた。いや、なんだかんだって何だよ。言い出しっぺは果歩だろうに。ツッコミをそこそこに、冷静に物事を考える。

 恐らく浩介の所にもこのメールは渡っていて、沙知を困らせているだろう。いや、もしかしたら乗り気かもしれないが……。


「奏、どうする?」


 スマホの画面から奏に視線を移すと、頰を赤らめて固まっていた。


「奏ー! おーい!」


 肩に触れてようやく我を取り戻した様だ。

 どうするとは尋ねたものの、内心では再び集合するのは難しいだろうと腹をくくっている。奏も同意見だったようで、僕たちは花火が上がるのをこの場所で見ることにした。

 数分後、夜空に一つの線が打ち上がり、力強い音と共に大きく花を咲かせた。それを皮切りに、次々と花開く様は、星々の煌めきと同じに見えた。花開いては静かに消えていく光が寂しく感じる。その寂しさを感じさせぬよう、次々と主役の光が移り変わっていく。

 僕は不意に奏の横顔を覗いてみた。その、つもりだった。

 奏も僕の方を見ていた。花火の光に照らされた奏の姿も花火の煌めきを吸い込んで美しく輝いていた。

 僕と奏は目が合ったまま、お互いに逸らすことをしない。今、目の前で燦然と輝く光があるのにも関わらず、僕たちはただ見つめ合っていた。

 どれくらいの間見つめあっていただろう。それでも、余り長い時間ではないはずだ。沈黙を破ったのは、奏だった。


「私、ずっと前から夏以の事……」


 奏は一旦ここまで行った後、少し言い淀んだ。その少しの間で、別の声が飛んできた。


「危ないぞぉー!!」


 次の瞬間、目の前が真っ白に染まり、爆発するように火花が飛び散った。すぐさま、見物客の金切り声が上がった。

 数秒して、再び爆発が起こる。僕と奏も立ち上がり、その場を後にして走り出す。よく見渡すと、近くの川縁の草が燃えている。少し焦げ臭い匂いも漂ってきた。

 まだ光が炸裂する中を走っていると、丁度隣を走っていた小学校低学年の子供が、逃げ惑う大人たちにもみくしゃにされて転ぶ。僕は大人たちをかき分けて、子供の元へと向かう。

 それと同寺に、光が子供に向かうのが見えた。光は子供の手前で炸裂したが、その衣服から火が登り始めた。慌てて服を脱がし、燃える衣服から解放してやる。

 光の炸裂が収まるまで、僕はその子供を抱えて逃げた。


「ひぃーくん!」


 安全なところまで来ると、そのお母さんらしき人が駆け寄って来た。しかし、その形相はとても険しく僕を突き飛ばすように、子供を奪い取る。


「あんた! うちの子になって事してくれたのっ!? 服を脱がせて、どうするつもりだったの!? この混乱に乗じて……あなた、頭おかしいわよ!!」


 僕は次々と罵声を浴びせられた。それを聞いていた周りの大人たちも、徐々に僕を責める声を上げた。楽しいはずの祭りがこれでは、その矛先が僕に向けられるのは当然だろう。

 数分後、救急隊と消防隊が到着し、僕は後日、事情聴取を受ける事になった。

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