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「おぉー! 良いじゃん!!」

 夏祭りの集合場所は、祭りを主催する神社の入口だった。学校の校門前の方が、河川敷からの距離が近いのだが、同じ学校の生徒の待ち合わせ場所として混雑が予想された為だ。その辺りは流石、奏の采配と言える。

 集合場所の神社は、東側の橋の方にあり、川沿いの道から道路を挟んだ反対側にある。鳥居から続く提灯が、本殿への道を指し示している。

 集合時間は17時半だった。今回は遊びが目的なので、30分集合をする程気合を入れてとは思わなかった。よって、10分前に到着する。


「おう、夏以」

「こんばんは……」


 浩介と雷夫が先に到着しており、浩介が僕に手を挙げ、雷夫は頭を下げる。珍しい組み合わせと言えばそうかもしれないが、男同士な点ではそれほど不思議でもなかった。ただ、二人が僕が来るまでの間にどんな会話をしていたのか、多少の興味はあった。しかし、取り立てて聞きたい程でもないので、黙っておく。

 浩介は、何かの模様がプリントされた白いTシャツに、膝丈までのデニムだった。雰囲気は前と変わらないものの、より一層真夏らしい服装になっていた。

 雷夫は、黒地に細い白の線が入っている甚平だった。案外、これでも雷夫は夏祭りを楽しみにしていたのだろうか。いや、オカルト研究部で行こうという話にならなくても、例え一人でも、来る予定だったのかもしれない。


「奏と果歩は?」

「まだみたいだな。雷夫が先に着いてて、俺が二番目」

「で、僕が三番目、という訳か」


 別に競っている訳でもないのに、誰が一番早く来たかを競ってしまうのは、負けず嫌いだからだろうか。言い終えた後で、僕たちは笑い合った。


「それにしても流石は雷夫、来るのが早いなぁ」

「いえ、先輩に、迷惑はかけられませんから……」

「なっ! 俺は? 俺も早めに来たぞ??」

「浩介は、これを続けないとね? 今日はたまたまかもしれないし」

「厳しいこと言うなぁ〜」


 そんなくだらない話をしているうちに、僕は珍しいことが起こっている事に気づく。


「果歩はともかく、奏まで遅いのって珍しくない?」

「あー、確かに。あいつなら早く来てそうなのに。でも、まだ時間になってないし、気長に待とうぜ」


 浩介は呑気なものだ。単にそう思った。僕は浩介のそういう部分がが嫌いではない。普通であれば、いつもの事柄がそうならなかった時、人は何か良からぬ想像をしてしまうのではないだろうか。それでも楽観的でいられる事は、余計な緊張や心的ストレスを防いでくれる。


「せんぱぁ〜い!!」


 その声に振り向くと、大きく手を振りながら近づいてくる果歩が見えた。何やら反対の方の手で奏の手を引いている様だ。

 手を引かれていたのは奏で、果歩に無理やり引っ張られているのか、危なっかしい足取りをしている。

 無事、僕たちのところまでくると、果歩は胸を張ってモデルのようなポーズをとった。


「ジャーン! 浴衣ですよぉ〜!!」

「おぉー! 良いじゃん!!」


 僕はそれほどの感動はなかったが、浩介は二人の浴衣姿に目が釘付けになっていた。

 果歩はピンクの浴衣で桜と、牡丹だろうか、花には詳しくないのでもしかしたら違う花かもしれない。いかにも果歩らしい明るい色の浴衣で、夏祭りを華やかに盛り上げる要員としては抜群だった。

 一方の奏は、藍色の浴衣で、水仙か、菖蒲か、そんな感じの花が描かれている。無論、実際に何の花かはわからない。奏の浴衣姿は、相変わらず大人の着こなしの一言で、落ち着いた雰囲気は流石だと思った。そして、私服限定の赤いカチューシャも良いアクセントになっている。

 二人とも髪をアップにして、下駄を履いている。浴衣に合わせた足元と髪型は新鮮な感じがする。並べば姉妹と言ってもわからない程に対照的で、目に入れても痛くなかった。


「かなちゃん先輩! せっかく大人っぽい浴衣着てるのに、恥ずかしがってばかりじゃ台無しですよっ!」

「だ、だってぇー……」


 奏はもじもじしながら、果歩の後ろに隠れようとする。果歩は奏を前に出そうと必死な様子だ。

 

「いやっ! 二人とも、似合ってるぜっ!!」


 浩介はそんな二人の姿を見て、歯を見せながらサムズアップする。

 取っ組み合いに近い状況に関わりたくない僕は、黙ったままの雷夫にそっと耳打ちする。いや、少しからかって見たかったのかもしれない。


「果歩の浴衣姿、どう?」


 雷夫はわかりやすく動揺して見せるので、やはり僕はからかいたかったのだ。だって、こんなにも笑みがこぼれてしまうから。

 雷夫は顔を赤くしながら僕に耳打ちを返す。


「そういうの、やめて下さい!」


 囁き声にしては息の込められた声だった。そんな反応でさえ、僕は微笑ましく思ってしまうのは、なぜだろうか。

 僕は罪悪感なく、雷夫とのやりとりを楽しんでいると、それを見兼ねた果歩が声をかけてきた。


「先輩もイーオも何話してるんですかー! 置いてっちゃいますよぉー!」


 気が着くと、また離れたところで果歩が手を振っている。僕と雷夫は少し慌ててその後を追いかけた。

 河川敷まで来ると、屋台の白色電球がめい一杯に輝いて、祭りの様子を輝かせている。それは普段は灯のない夜の河川敷に、一本の街道を作り出していた。食べ物のいい匂いは空腹を誘い、射的や金魚すくいは挑戦意欲を掻き立てる。

 何から始めて良いのかわからないでいる間にも、果歩はあっちへこっちへと僕たちをリードする。交友関係の広い果歩はこういった場の遊び方を知っているのだろう。他の四人が遊びなれていないところを見事にカバーしている。


「先輩! 一緒にこれやりましょうよ!」


 果歩がやろうと誘ってきたのは、綿あめ作りだ。自分で割り箸に巻き付けた綿あめはそのまま持って行って良いというものだった。なかなか体験できる機会もないので、挑戦してみることにする。


「ほら、かなちゃん先輩も!」

「えっ!? 私!?」


 果歩は奏の腕を引っ張って、無理やり参加させる。

 屋台の前で三人、ザラメが入れられた容器と向き合う。僕はその内真ん中で、右に奏、左に果歩が並んだ。色も選べるらしく、果歩は赤、奏は黄色、僕はオレンジを選んだ。割り箸を容器の中で一周させて、手元で割り箸を回転させていく。

 どうやらテレビか何かで見た、容器の中でかき混ぜるようにするのではないらしい。

 屋台の人に教えてもらったのは、手元でくるくると回転させるやり方だ。割り箸の先端に綿菓子を付けたい時には、下向きにして容器の中で回転させる。手元側に付けたい時には、上向きにして容器の近くで回転させる。こうやって形を整えていくのだそうだ。


「できたぁー!!」

「おぉ〜!! お嬢ちゃん、上手いね〜!」


 果歩が綺麗なまんまるの綿あめを完成させた。横目に見ると、確かに上手かった。どうやら、店主のお世辞ではないらしい。

 一方で、奏はだいぶ苦戦しているようだ。先端に綿菓子が集中し、倒さないように高く積み上げた積み木を倒した様に倒壊する。

 そんなよそ見をしている間に、僕のは手元に綿菓子が集中し、いびつな形になっていた。

 結局、僕と奏はいびつな形まま、終了した。


「二人とも不器用ですねっ!」


 果歩は勝ち誇った笑みで赤みがかった綿あめにかぶりつく。僕は悔しいという気は起こらなかったが、ただ単に自分の不器用さを呪った。ただ、奏は真っ当にに悔しかったらしく、膨れっ面を果歩にぶつけていた。

 屋台の列から少し離れたところのベンチに座って、綿あめを食べていると、いつの間にかはぐれていた浩介と雷夫が僕たちを見つけて駆け寄ってきた。


「ほぉー、お前ら綿菓子作ってたのかぁー」


 二人はいつの間にか頭の側面にお面をつけていた。浩介はひょっとこ、雷夫は招き猫か化け猫か、とりあえず猫だというのはわかった。更に、二人の両手には水風船やら、チョコバナナやら、収まりがつかないという点でカオスだった。

 僕たちが集中して綿菓子と格闘している間も、二人で楽しんでいるようだ。

 そんな時、聞き覚えのある声がした。


「あら? 井上さんと秋澤さんじゃないですか?」


 その声に振り返ると、いつだったか、この河川敷で出会った国見沙知がいた。沙知も浴衣でこの祭りに来ているらしく、薄い水色に、赤紫の朝顔の花が咲いていた。

 化粧をしているのか、始めて会った時に頰にあったそばかすが消えていた。

 初対面の奏、果歩、雷夫の三人は目を瞬いていた。その代表として、奏が疑問を口にした。


「この方は?」

「あぁ、俺たちがちょっと前にこの河川敷でちょっとあってね、沙知を助けたんだよ」


 浩介は、なるべく鼻につかないように言った。それに「いじめられていた」と言わない辺りは紳士のような気がした。夏祭りという舞台で、そんな深刻な話を出す事がはばかられたのだろう。

 僕は「俺たち」という単語が少し気に入ったので、「僕は何もしていない、本当は浩介一人で助けたんだよ」と、誤解を訂正する言葉を黙っておくことにした。


「国見沙知です。初めまして」


 それに続いて三人が名乗る。

 少し話してみると、沙知は一人で夏祭りに来ているのだった。毎年欠かさずに来るのだが、なかなか一緒に行こうと誘っても付き合ってもらえないのだそうだ。

 それを聞いた果歩は、良からぬことを考えている様な笑みを浮かべた。


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