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「惜しい?」

 こんなにも赤いのは実際の夕日と違うな、と思った。本物と見比べるたびに、ここが夢の世界であるという実感が湧く。

 僕はまた夢を見ている。ただ、今回は教室ではなかった。


「君は、黒崎真珠にと初めて目が合ったとき、どんな気持ちだった?」

「特には何も。ただ、その数秒後に飛び降りるだなんて思いもしなかった」


 リアリスは、いつもの笑顔で僕に話しかけてくる。

 僕たちは、学校の屋上にいた。風はない。暑さも、寒さも感じない。本当にここは外だろうか。

 僕は屋上の真ん中で立っていて、リアリスは塔屋の上に腰を下ろして、こちらを見下ろしている。


「黒崎真珠が飛び降りた理由は何なんだ?」


 率直にその質問を口にしていた。しかし、リアリスは質問には答えず、質問で返してきた。


「私を信用してくれたんじゃないの?」

「一応はしているよ。それでも噂の有無を確認するためだけに命を絶ったとは思えない。確かに彼女は孤独だったかもしれない。それでも、優しい人柄だった。それに、部活のポスターを眺めていた。つまり、人とのつながりを持ちたいと思っていたという事なんじゃないか?」


 リアリスは笑ったままの表情を変えない。時折、足を振り子のように降っている。

 僕は黙ったまま、リアリスを見つめる。


「うん、すごく良い。でも、惜しい」

「惜しい?」

「君たちが部室で話していたことも、だいぶ良いセンいってるよ。私が与えたヒントであそこまで考えられるとは思わなかった」

「それは僕自身も驚いているよ。ただ、僕を見て楽しんでいるだけの君がなぜヒントを与える気になったのかがわからない。君が黒崎真珠に代わって結末を確認をしたいのならば、真実を直接君の口から言えば良い。もし、それができないならば、僕に真実を教えれば良い」

「体験しないとわからないこともあるんだよ。例えば、障害者の人の気持ちは、それを体験した人にしかわからないでしょ? それと同じだよ。どれだけ理論を突き詰めた所で、わかるのは頭でだけ。そこに実際的な所は含まれない」


 僕はリアリスの言い方に、一つの仮定を見出した。もしもその可能性が正しいならば、僕は一番自分では考えられない方法で死ぬことになる。

 ──リアリスはその結果を待ち望んでいるのか?


「君は僕に、黒崎真珠の軌跡を辿らせようとしているのか? それが、黒崎真珠の確認したいことなのか?」

「そうだとしたら、どう?」

「黒崎真珠は、噂の証明をしたかった、という事になる。ただ、それが証明されようがされまいが、死んでしまってはどうにもならないんじゃないか?」

「私はあなたを見ているだけ。別にどうしろとは言わないよ。見て楽しむ。それが私だからね」


 リアリスは、塔屋から飛び降りて、僕と同じ高さの位置に降りてきた。とは言っても、僕の方が背が高いので鋭角で僕が見下ろす形となる。

 優雅に着地したリアリスはフェンスの位置まで歩いて行く。僕もそれに続いて、フェンスに近づく事が出来た。

 屋上から見下ろす景色は、全てが赤色に染まっていた。所々影があったり、ピンクらしかったり、紫に近い色になっていたりするが、一色で言い表すならば誰しもが赤と答えるだろう。

 校庭では運動部が掛け声を出して、走ってボールを追いかけたりしている。校庭の端の方では、校門に向かって下校する人も見える。しかし、現実の学校でなら聞こえてくる吹奏楽部の音が聞こえてこない。やはりここは現実とは違う場所だ。


「ここの夕日はどう?」


 フェンスの外を眺めているリアリスが、目を合わせずに聞いてきた。

 僕は横目にリアリスを見ていたが、再び校庭に目を落としながら答えた。


「余り綺麗だとは思わない。実際の夕日の方がずっと綺麗だ」

「現実のものが綺麗だなんて、そんな風に思えるのは幸せな事だね」

「君にとっては、僕の夢の中が全てだからね。現実世界の事を疎ましく思えるのもわかるよ」

「何それ、嫌味?」


 リアリスは笑いながら僕の方を見た。微かに彼女の赤い瞳が揺れる。そう思った途端、熱も冷たさも運ばない不思議な風が正面から吹いた。

 彼女の短い髪が空気の流れにそってなびく。それはまるで、目に見えない櫛で撫でられているようだった。

 風が通り過ぎた後で僕は口を開いた。


「黒崎真珠は孤独だった。それでも僕には、一緒にいる人等がいる」


 去年から一緒の浩介と奏、今年から一緒の果歩と雷夫、きっと一度接しただけではわからないそれぞれの個性を、僕は見ている。同じ目的を持って、同じ方向に向かっている。彼らがどう思っているかはわからないが、僕は心から信頼している。


「本当にそうかなぁ?」

「違うのか?」

「いや、ごめん。君の言い分は正しいかもしれない」


 リアリスが間違えるだなんて珍しい。そして、一度否定した事を肯定した。リアリスも、黒崎真珠も、僕たちのたどり着いていない大きなものを知っている事は間違いない。ただ、それを明かさないのは、リアリスの遊び心だろう。僕たちはリアリスによって弄ばれるコマでしかない。


「一つだけ教えて欲しい」

「うーん、答えるかどうかは、ものによるかな……」


 リアリスは人差し指を顎に当てて言った。

 本当は幾つもはっきりさせたいことがある。その根幹とも言える部分は、一つの質問でカタをつけることができる。そうでなくとも、これを知らなくては始まらない。


「とりあえず、言ってみて?」

「噂は人為的なものによるものなのか? それとも、怪異的な何かか?」


 質問をすると、リアリスは険しい表情をした。答えるか、答えないかという事ではなく、どのように答えようか迷っているようだった。

 僕は彼女の次の言葉を待つ。


「両方、とも言えるし、どちらでもない、とも言える、かな」

「それはどういう事?」

「だって、そうでしょ? 君の考えでは噂の前例は存在しない。それでも、噂に沿うような出来事が起きている。怪異か人為的かなんてことは、両方根拠がないじゃない。だから、その質問には答えられない」

「僕たちの調査の総括をしてほしいわけじゃない」

「だから、その聞き方だとこう答えるしかないの。これで質問は終わり!」


 リアリスは膨れっ面でそっぽを向いてしまう。

 彼女は全てを知っている訳ではない、ということだろうか。先ほどの否定からの肯定と良い、リアリスはどこか人間的だ。全てを知っている前提で話をしようとするのがいけないのだろうか。

 僕は中途半端な返答に違和感というよりは、気持ち悪かった。腑に落ちないのが不快でならなかった。そしてその不快は、僕自身がリアリスを信用仕切っていると自覚していることでもあった。


「わかった、もういいよ。やっぱり夢は夢だ。現実の僕たちは既に噂の問題を解決させた。これ以上の情報があっても使われるかはわからない」


 自分に言い聞かせるように言った。そう。リアリスからもらったヒントで、解決したのだ。答えにたどり着いたのだ。だから、この質問に答えて貰う必要はなかったのだ。

 リアリスは僕に向き直ると、再び笑顔になる。


「これからも、君は考え続ける。そして、答えを見つける。楽しみだなぁ!」


 ──目が覚めた。


 僕の中で一つの仮定が生まれた。それは、リアリスについてだ。確証はあるが、根拠がない。


「論より証拠、か。僕の周りは、不完全で欠けているものが多過ぎる」


 根拠も証拠もない。それでいてどうしろって言うんだ。だったら考えるしかない。考えて、答えを導き出さなきゃならない。それが人間というものだろ?

 夢の中で感じた不快感は、自分でも気づいていたそのことを、リアリスから教えてもらったような気がしたからだと思った。


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