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「さっすが先輩!」

 非番の州崎警部に会う事になった日曜日。奏はわざわざ署の方に殴り込みの電話を入れたらしい。

 はじめに、洲崎警部を呼び出し、話をつけたらしい。奏の話では、「警察としては協力できないし、仕事が優先ながらも、個人としての協力をする」と言わせたらしい。一体どんな魔法をつかったのだろう……。


 待ち合わせ場所には夕美中央駅が選ばれた。僕は部長として、10時集合にも関わらず30分前に到着した。当然、誰も来ている訳がないので、仕方なく改札前の待合室のベンチに座って待つことにした。

 僕たちの行動範囲では、バスや電車を使うことはほとんどない。それ故、夕美市の外に出る以外には、この駅もほとんど使われない。それでも、通っている線も5本あり、平日には通勤の人や乗り換えの人で混み合う。

 数分後に奏と雷夫が来ているのが見えたので、待合室を後にする。


「二人ともおはよう」

「おはよう、夏以」

「おはよう、ございます……」


 さすがうちの部活内の真面目人トップ2だ。時計をみると、僕が来てから10分も経っていなかった。

 雷夫は夏だというのに、だぼだぼの長ズボンに、ワンサイズ大きいのではないかと疑うサイズのパーカーだった。背中にリュックを背負い、標準装備の眼鏡と当然の如くかいている汗を考慮すると、さながらネットで出回るオタクの偏見画像のようだ。

 一方の奏は、半袖のベージュのブラウスに、白いロングスカートだった。きめ細かな黒い髪のてっぺんには外出限定で拝めるという赤いカチューシャをつけていた。さながら大人の雰囲気そのもので、大学生と名乗れば信じて貰えるレベルだ。

 そして、その二人を並んで見てみると不思議な感じがした。背が低く気の弱い少年オタクと、すらりとした姿で大人の雰囲気を出す女性。

 さぞかしすれ違った人は、この二人の関係に考えを巡らせたことだろう。


「雷夫君、その服装暑くないの?」

「あ、えっと……大丈夫、です……」


 奏も雷夫の服装には物申したいのだろう。ため息というより、吐き捨てるように息を吐いた。それを察して、雷夫は潤んだ目で僕に助けを求める。

 正直、フォローのしようが無い為、僕は笑ってごまかすが、きっと効果はないだろう。

 その後すぐ、不意に奏と雷夫の後ろでベビーカーを押している女性が目についた。どうやら歩道橋に登るのに悩んでいるようだった。

 一応は主要駅であるから道幅も広い。それにも関わらず、歩道橋を上り下りする為のエレベーターは存在しない。

 その様子を見たとき、僕の中でリアリスが囁いた気がした。もしくは、夢の中で言われたことがリフレインしたのかもしれない。


「ごめん、ちょっと行ってくる」


 二人にそれだけ告げて女性の元へ向かう。


「お手伝いしますよ」

「いえ、大丈夫ですから……」

「お子さんの安全の為でもありますから、手伝わせてください」

「はぁ、そこまで言うなら……」


 女性は、ベビーカーから子供を抱き上げる。その子供は器用に、そして予測不可能な動きでくねくねとさせていた。ベビーカーが窮屈だったのか、キャッキャと自由に動き回る姿は、何だか愛おしく感じた。

 僕はベビーカーを横から持ち上げ、階段を登り切り、道路の反対側の階段を下るところまで運んだ。別にベビーカーを押すのが母親の方だけとは思わないが、ベビーカーは思ったよりも軽かったので、手伝わなくても大丈夫だったかな、なんて自虐を心でつぶやく。


「すみません、ありがとうございました」


 女性は深々と頭を下げた。その隣では、女性の子供がベビーカーの中からニコニコしながら手を動かしていた。まるで「バイバイ」と手を振っているように。

 二人からの感謝を受け取って、僕は歩道橋をかけもどる。

 再び駅前に着くと、残りの二人も集合していた。


「さっすが先輩!」

「人助けご苦労さん」


 僕の様子を見ていたのだろう。僕は手厚い歓迎で迎えられた。

 果歩と浩介が到着したのだ。僕の姿が見えない事を気にしていたところ、奏に手伝っているところを指し示されたらしい。

 果歩は、半袖のティーシャツに半袖のパーカーを重ね着し、下はショートパンツだった。髪型もツーサイドアップにしており、学校とは違う雰囲気を出している。

 浩介は、白いシャツで、ポタンの付近やポケットの当たりに縫い込みで黒い部分がアクセントになってるものと、夏用のデニムだった。こうしてみると、僕の中ではイメージ通りだ。


「いや、たまたま目に付いたから手伝いに行っただけだよ」

「それがすごいんじゃないんですかぁ〜!!」


 果歩は大きな目を輝かせながら、顔を近づけてきた。


「いや、近いから!」

「何恥ずかしがってるんですか〜! かわいい後輩からの尊敬の眼差しですよ〜?」

「尊敬しなくていいから、離れて!」

「先輩ひど〜い! こんなにも熱い視線を送ってるのにぃ〜!」

「自分で言うな! それに暑苦しい視線の間違いだっ!」


 今にも抱きついて来そうな勢いに、ついつい果歩のテンションまで釣り上げられてしまう。

 この会話に水を差したのは浩介だった。


「あー、もう! 見てる方が暑苦しいわ!!」


 冷静になれば、夏のこの暑さに頭をやられていたようだ。奏も腕を組んで、こちらを睨む。雷夫は相変わらず一歩下がったところから様子を伺い、目が合うとやはりそっぽを向いてしまった。


「はぁ〜い、すみませんでしたー」


 果歩は、口を尖らせてまるで反省する言い方ではない言い方で反省の意を述べた。これには浩介もやれやれと手をあげるしかない。

 果歩に続いて僕も謝罪を済ませると、奏が考える仕草を見せた。それは、これから行こうとしているところへの配慮であり、州崎警部への配慮でもあった。


「ねぇ、五人で行くのは流石に多すぎないかしら?」

「確かに……」


 洲崎警部との待ち合わせ場所は、駅から徒歩15分程のところにあるファミリーレストランだ。

 駅から歩くにはやや遠く、車で行くには近すぎる距離だ。ましてや近場のバス停もないとなると、日曜日のお昼でもあまり混まないのも仕方がない。

 僕たちはこれが狙いで、待ち合わせ場所をそのファミリーレストランにしたのだ。しかし、流石に五人で行くには少し人が多いかもしれない。

 もっと言えば、五人と一人で圧迫感を生んでしまうかもしれなかった。まぁ、相手は警部であるから、圧迫感などは感じないのかもしれないが、礼義の上では考えなくてはならない。


「んじゃあ、俺と果歩は市立図書館で噂について洗ってみるよ」

「えぇー! なんで私なんですかぁー!!」


 浩介は果歩を指差しながら、当たり前のことを言う様に言った。果歩はそれに抵抗するものの、浩介の「さっき蒸し暑くしてくれたお礼だ」と言ったことで、その場の総意が出た。


「でも、何でこうちゃん先輩となんですか! 私、かなちゃん先輩とが良いです!」


 果歩は奏の方を見て助けを求めるが、奏は指名されたのがまんざらでも無いような笑みを小さく浮かべながらも、その提案を断った。

 その後、果歩は浩介に連れられ、ガックリと肩を落として僕たちから遠ざかっていった。浩介は大きく手を振るが、果歩は一度も振り向く事はなかった。


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