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洋裁店の女主人ローズ・ラクロワの語る

 ええ、わたしがエレーヌのドレスを作ってきました。

 エレーヌと出会った頃、彼の女は若くて、容姿も姿勢も良かった。身のこなしがしなやかで、どんな意匠の服でも着こなせそうな素材でした。

 自尊心と向上心の高さに何よりも心惹かれました。彼の女ならわたしの作り出すドレスで輝きを放ち、世の中の注目を浴びるだろうと確信しました。ですから、何着でもドレスを縫製する、もし希望があればそれにも応えると約束したのです。それ相応の報酬はいただきましたが、お互い様です。

 欧州のあちこちで政変が起こり、巴里ではオルレアン家からの王様が追放され、フランスの第二共和制が始まりました。ごたごた続きの選挙の結果、ルイ゠ナポレオン・ボナパルトが大統領となりました。その大統領はクー・デタで皇帝の座に就きました。第二帝政と呼ばれる時代です。

 巴里の大改造があり、またそれとは別に享楽的な雰囲気がありました。

 エレーヌはその波に上手く乗って、半社交界(ドゥミ・モンド)に君臨しました。半社交界、それは堅気のご婦人の出入りしないという意味です。男性たちと玄人の女性たちの社交界。

 金髪で、整った冷たい美貌からエレーヌは冬夫人、もしくは“Mademoiselleマドモワゼル・ d’hiver(ディヴェール)”と呼ばれました。

 数々の殿方が彼の女の屋敷に出入りしようとし、外出すれば声を掛け、近付こうとする。視線一つで有頂天になる殿方がいるかと思えば、睨まれて肩を落とす殿方もいました。

 どんなに澄ましていても所詮は何処から来たのか知れない娼婦と侮って、金に物言わせて言い寄ってきた男性もいましたが、そういう相手は鼻にも引っ掛けませんでした。幾ら袖にしてもしつこく言い寄ってくるので、一万フラン紙幣で用意してきて、それに火を付けて、紙幣が燃えている間だけ相手をしてやると答えたそうです。

 男性が本当に一万フラン持ってきたので、約束だからと仕方なくお相手をしたそうですけど、灰になった紙幣を前に、男性は偽物だよ、上手く騙されたねですって。

 エレーヌは烈火の如く怒り出し、男性は命からがら逃げだしました。

 どちらも褒められたものじゃありませんが、これは男性側にとって名誉でもなんでもないでしょう。自らの品性を貶めているのじゃございません?

 そんなエレーヌでしたが、常に胸を張って凛としていました。優雅に装い、シャンパンやマディラ産の葡萄酒を飾り棚に並べ、会話術で殿方を楽しませる腕は見事でした。

 遊びではなく、真剣になっていく男性が出ても不思議でもなんでもありませんでした。でも、エレーヌは半社交界に身を置くと決めていたようでした。

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