元雑誌記者で作家のジェラール・グラモンの語る
エレーヌね、後援者と正式に結婚して旦那の領地の田舎に引っ込んだと聞いていたが、亡くなったんだね。巴里で数々の高級娼婦が名を馳せても、貴族の奥方にまで納まった女性は少ないから、エレーヌは成功した部類の女性だろう。
私が彼の女と初めて会ったのは大分昔で、お互い若かった。そりゃ若いと言っても、エレーヌの正確な年齢は知らない、だが、田舎から出稼ぎにきた世間知らずの小娘じゃなかった。二十歳を出てそんなに経っていなかっただろうが、充分に女だったよ。
巴里はナポレオン3世の第二帝政時代に、産業革命や植民地での農園経営で貿易の収支、それに科学の発展や鉄道の敷設などで目まぐるしく生活が変わっていた。皇帝がオスマン知事に命じて巴里の大改造があり、人口に見合う、近代的な設備の整った街並みになった。
元々の貴族や大地主が首都に戻り、経済の隆盛で伸し上がってきたブルジョワ層、そして都会で働く人々がどっと集まってきて、あっと言う間に花の都と呼ばれるに相応しい場所になった。
人間は易きに流れる。皇帝は女好き。そして自由にできる現金や資産を持つ男がどんな娯楽を求めるかとなると、資産を増やし続ける為の投資先を開発する、芸術家の助成を試みるばかりじゃない。
社会を支える底辺の人々に少しは目を向けてくれりゃあいいものものを――ブルボンの王様よりもナポレオン3世が巴里の街並み整備のほかにもきちんと労働者の権利や保護を考えようとして実行してくれていたがね――、金の使いどころが女と遊ぶ方に回ってしまうご仁が沢山いた。
それで、巴里の美容や服飾の業界、飲食業、それに従事する労働者が潤ったのだから、皮肉なものだがこれも一つの産業かね。それで財産を使い果たすご仁がいようが、決闘沙汰になって命を落とす羽目になったご仁がいようが、こちらは記事を書くのが仕事だから、飯の種、庶民に娯楽を提供できる。有難い話さ。
エレーヌとはブルボンの王様の時代に、巴里の安宿で出会った。なんでも、配偶者同然に暮らしていた男性がいたのだが、その男性が亜米利加に仕事に行っている最中に、小姑から家を追い出されたと言っていて、すっかり弱り果てていた。
エレーヌが付き合っていた男性を私は知っていた。おまけにエレーヌの金遣いが荒いから、幾ら稼いでも追い付かないと、大西洋を渡らなきゃいけなかったと情報を得ていた。事情が事情だから、同情できなかったが、このまま安宿で朽ち果てていくには惜しい女性だと思ったんだ。エルツ――その男性の名前だ――に生きて再会できるかどうかはともかく、身一つで何処からか流れてきて、巴里で成功したいと望む女性がどこまで到達できるか、好奇心があった。エレーヌはただ美人だってだけでなく、途方もない野心を抱いていたからね。頭も良かった。
それで、養生する間の金を貸した。貸した金は額面以上の価値になって返ってきた。
なにしろ、エレーヌは巴里で有名な女性になったのだからね。