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ノイブランデンブルク家の城で勤める従僕リヒャルトの語る

 ノイブランデンブルク伯爵、プロイセン王国からドイツ帝国になってからご主人は国王陛下、いや皇帝陛下からこれまでの功績を褒められて、侯爵の位を賜った。使用人の一人に過ぎない俺だが、こうなると嬉しいものだ。

 ノイブランデンブルク侯爵家が元々持っている城を、ご主人は改造して建て直した。東のヴェルサイユ宮殿なんて呼ばれるくらい広くて、立派なお城で、バイエルン国王が建てた数々のお城よりも趣味が良いらしい。あちらの王様はお城に税金を()ぎ込み過ぎて、家来にとっちめられる破目になったが、こちらの殿様は領地の経営や工場の儲けの中から自分に配分された金を使ったのだから、道楽としても非難はされない。鉱山に工場に大きな食堂や休憩所を設けていて、他所の工場に勤めている奴らがそれに見習えと資本家に要求運動しているくらいだから、がめつい殿様じゃないんだ。お育ちがいいから気前がよろしくていらっしゃる。

 気前がよろしいと嬉しいばかりでもない。ご主人は巴里で知り合った元娼婦を情婦にして囲っていた。フランスとの戦争になった時には、その情婦が城に避難してきた。ご主人のご両親はもうお亡くなりになっていたから、その情婦が城の女主人の立場になっちまったから、なんとなく面白くなかった。

 五十は過ぎていたと聞くが、四十路に入ったばかりのご主人と同じくらいの年齢に見えた。花の都でのらくら遊び暮らしていた情婦と、貴族なのに一生懸命に仕事をしていたご主人とでは苦労の仕方が違うから、姿に出てしまったんだろうけど、俺から見ればオバサンなんだよなあ。そりゃあご主人が知り合った頃はまだまだ若くて綺麗だったんだろうが、囲い者にするほどかなあと頭を捻りたくなる。俺にはそんな金がないからね。

 戦争が終わったら、ご主人は情婦と正式に結婚した。

 お隣のナポレオンの初代は、皇帝にまでなって、跡継ぎが欲しいだの、箔を付けたいだの理由を付けて、古女房と別れて、名家の、ハプスブルクの若い大公女を嫁さんに迎えた。ご主人は戦争で重要なお役割を果たしたし、それまでの働きを認められて侯爵様になった。情婦は情婦のままにして、いい家柄の若い嫁をもらっても良かったのにそうしなかった。そこまで情婦――奥様と呼ばなきゃいけないんだがどうもねぇ――が大事だったのか。巴里で情婦はご主人のお金で贅沢三昧していたから、ご主人のは情婦を今まで使ったお金が勿体無いと捨てられなくなっていたのか。もう長く連れ添った夫婦の気分になっていたのか。

 俺たちがご主人に訊く訳にゃいかないから、仕事の休憩中に仲間同士で喋っているくらいさ。ご主人が本当にどうお考えになっていたかなんて、だあれにも判らない。

 ご主人より歳上の女性といっても、気持ちは若いつもりらしくて、結構気紛れで、物を壊したり、怒って大声出したりしていた。鏡に映った姿が気に入らないからって、鏡を割ったって、姿が変わるものでなし、これは育ちの違いかね。

 とにかく夫婦のことは他人にゃ窺い知れないよ。

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