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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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3-1 オスティアの革命

 翌日、メリアドールたちは地上に戻った。

 久しぶりに陽の光を見て、生き返ったような心地になった。


「ロクジンさん、リアさん。お世話になりました」


 ヒサメは折り目正しく頭を下げて礼を言った。

 その姿は、どこか痛々しくさえあった。


「こちらこそありがとうございます、ヒサメさん。あなたのおかげで我々も助かりました」

「……気を付けて帰れよ」


 さすがのロクジンも、ヒサメを気遣うような声を出した。


「大丈夫です。私、これからも正義のために戦いますから」


 そう言ってヒサメは踵を返し、雑踏の中に消えて行った。


「ヒサメさん!

 もしまた力が必要な時……あなたを呼んでもいいですか!?」


 メリアドールの声に、ヒサメは手を振って応えた。

 すぐに彼女の姿は見えなくなる。


「あの子はこれから、どうしていくんでしょう……」

「分からない。これからもあんなことを続けるのかな」


 過去の傷が今を生きる人々を傷つけている。彼女の姿はオスティアという街の縮図だ――メリアドールが克服しなければならないものなのだ。


「ヒサメを気遣うより、いまはキミのことを考えよう」


 ロクジンはそう促した。


「ありがとうございます、ロクジンさん。私たちも行きましょう、早くしないと、魔導炉がいつまでもあの姿でいる保証はないですからね」


 彼の気遣いに微笑みで答え、メリアドールは商工会の建物に向けて動き出した。


 その道程で、彼女はロクジンを見て言った。


「でもね、ロクジンさん。あの子は私が、この街で救いたい人の一人なんです」







 それからしばらく歩き、二人は雑踏を踏み分けながら商工会議所に辿り着いた。これまでの道すがら、メリアドールは見てきたものを思い出した。


 ボロボロの衣服。貧しい食事。子供たちさえも生きるために働かなければならず、大人たちは日々の生活に疲れ果てている。何もかもが、限界に近付いているように見えた。


(私のプランは、すべてを解決に導けるようなものではないかもしれない)


 帝国にも貧困はあった。進歩の恩恵を受けられない人はいた。自堕落な怠け者だと切って捨てられてきた人々が、いた。彼らのすべてを救う方法ではない。しかし。


(私は私のために……オスティアの人々を助ける)


 決意を新たに、メリアドールは商工会の門を叩いた。


「ロクジン! リアちゃん!

 顔が見えないから心配してたんだよ、大丈夫かい?」


 入っていくなり、受付のミルザーネが心配そうな顔をして二人を見た。商工会でたむろしている人々も、我先にと争うように二人のもとに駆けよる。


「大丈夫です、少し地下に行ってきただけですから」

「地下に!? そいつは大変なこった!」

「なんで地下にシケこんだんだ、ロクジン!」

「やましいことは少しもないから落ち着いてくれ」


 そうやってわしゃわしゃと、二人はもみくちゃにされた。心配してくれているのだということがよく分かり、メリアドールの頬には自然と笑みが浮かんだ。


「よかった……二人とも無事だったんだな?」


 そんな人々の波の中に、ダリオも入って来た。


「心配していたんだ」

「ありがとうございます、ところで……」


 そう言ってメリアドールはあたりを見回した。ここにはいま、商工会の中心となる人物が揃っている。いまこの場を逃す理由はない、メリアドールはそう思った。


「皆さんにお話ししたいことがあります。お時間、いただいてもよろしいでしょうか?」






 それから数十分が過ぎた。

 商工会の面々はメリアドールの演説を、それぞれの立場で聞いていた。


「この街の地下にそんなものが」「全然気が付かなかった」「危険ではないのか?」「今すぐにでも対処しないと……」「いや、もう……」


 混乱する場。

 それを、ロクジンの柏手が収めた。


「いろいろ言いたいことはあるだろうけど、まずは話を聞いてもらいたい」


 シン、と静まり返った。ロクジンはメリアドールを振り仰ぐ。彼女は頷き話を続けた。


「私はこの街の地下にある魔導炉を、有効に使うことが出来ないかと考えています」

「有効に、というと……」


 ダリオはやや遠慮がちに口を開いた。


「この街に足りないものを作ります」

「その、足りないものというのは?」

「生産力」


 商工会のメンバーは、それぞれが顔を見合わせた。


「この街には食糧生産力があります。他の都市との外交があります。なんとか回っている。しかし、この街は資産を生み出すことが出来ない。このままではいずれ……」

「立ち行かなくなる、ってこと?」


 ミルザーネの質問に、メリアドールは頷いた。


「確かに魔導炉は問題を持っています。三つ首龍が使ったように、他者を抑圧するためにも使うことが出来る。ですが……」


 そこでいったん言葉を切り、彼女は全員の目を見た。


「うまく使えばオスティア繁栄の道を築けるかもしれません。いえ、必ず築くことが出来るでしょう。ですが私一人では無理です」


 そう言って、彼女は皆に手を向けた。まるで、握手を求めるかのように。


「どうかお力を、貸してもらえないでしょうか?」


 しばし、時が止まったようになった。

 メリアドールは自分の心臓が早鐘を打つのを聞いた。


「……デカいことをやろうってんなら、人がいるだろう?」


 最初に応じたのはミルザーネだった。


「私なら集められる」


 それに呼応するように、他の人々も口々に賛意を表した。


「力自慢なら大勢いるぜ」「あと頭いい奴もだ」「帝国の技術者ってやつがいたよな?」「魔法使いもいるだろ」「それなら……」


 口々に人々は「自分に何が出来るのか」を口にする。


「大きな事業を起こすなら……」

「ダリオさん」


 それに、自警団長ダリオも続く。


「統率する人間が必要だ。それに、長期的なモチベーションを稼ぐためには金も必要だろう。出来る限り、私も用立ててみることにするよ」


 そう言って、彼は不器用な笑みを作った。


「皆さん……ありがとうございます!」


 メリアドールは眦に涙を浮かべ、深々と頭をさげた。

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