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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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2-10 疑惑

 魔導炉が設置された修道院、その向かいには三つ首龍の構成員がたまり場として使っている、古いバーがあった。


 そこは地下水を引いた水道があり、食料があった。休める場所があった。

 ひとまずロクジンたちはダンケルを連れ、そのバーへと向かった。


 その途中、ヒサメを回収する。


 彼女は修道院の真ん中で立ち尽くしていた。

 血の池に。


「……」


 あまりの惨状に、メリアドールもたじろぐ。屈託ない笑顔を振りまいていた少女が、突如として凄惨な虐殺を行う。その間にある断絶は、凄まじいものだった。


 それでも、メリアドールにはヒサメがまるで泣いている子供のように見えた。いやだいやだと駄々をこね、暴れ回っているようだ。例えその規模が途轍もないものだとしても。


「……ヒサメさん。お疲れ様でした。さあ、帰りましょう」


 そう、メリアドールは泣く子をあやすように声をかけた。


「……うん」


 ヒサメは泣いていなかった。

 だがその声には言いようのない悲しみが滲んでいた。


 もしかしたら、とメリアドールは思う。


 ヒサメは過去に、これと同じような体験を自らしているのではないだろうか。だからこそ、人の尊厳を踏みにじる三つ首龍の行いが許せないのではないか、と。


「帰りましょう。ここはあまりいいところではありません」

「……うん」


 今にも泣きだしそうなヒサメを連れて、メリアドールはバーへと向かった。そしてすぐ食べられそうな干し肉や果物を振舞った。ヒサメもそれでカラ元気をだし、貪るように食べた。


「それで……説明してください。どうしてあんなことになったんですか?」


 メリアドールはダンケルを睨んだ。当のダンケルと言えば、いつの間にか現れたメイド服の少女に酌をさせている。闇色の髪は周囲の暗闇の中でさえ際立つ、本物の黒だった。


「まあ話し始めれば長くなるが……リュミス」

「はい。では、私から」


 なぜかダンケルに付き従う少女、リュミスが説明するところによると以下のようになる。


 もともとドルトンが持っていた化粧箱は、地下採掘を生業とする男が持って来たらしい。彼らは古い墳墓に入り込んで墓を暴いたり、時に不幸にも地下に入り込んでしまったものたちの身ぐるみを剥いだりしている。

 そんな彼らにとって、宝石が所狭しと詰め込まれた皇家の品は垂涎の的だ。彼はドルトンに売るものを確保しながら、自分でもその中の一つをちょろまかしていた。しかし。


「あの箱に入っていた装飾品にはすべて、魔法がかけられておりました。装着から一定時間経つと、起爆するようにセットされた魔法が」


 信じ難いことだったが、しかし事実だった。メリアドールもはっきりと見た、爆発したあのネックレスを。誰かがああなるように仕向けたのだ。


「あんな厄介なもの抱えてるなんて、キミいったい何者なんだい?」

「私は……」


 自分の正体を伝えるべきではないか。少なくとも、ここまで危険を冒してくれたロクジンには。メリアドールはそう思ったが、しかしダンケルがいるいまそれは躊躇われた。


「どうしてこんなことになっているのか、私にもわかりません……」

「ふぅん……」


 まだ興味津々、というふうだったが、ダンケルはいったん引き下がった。


 メリアドールは状況を整理し、誰がこの魔法を仕掛けたのか考えた。


 やっていることは恐らく、宝石や金属を魔石に仕立てたものだろう。装着時、あるいは人間の魔力が接近したときに起爆するようになっている。


 問題は、それを誰がやったか、ということだ。この宝石は首都を発つ前に渡されたものであり、細工を出来るものはそれほど多くない。


 兄と姉、その姿が脳裏に浮かぶ。

 しかし、最も蓋然性が高いのは――


(まさか、姉さまが……?)


 この宝石は姉に渡されたものだ。必然的に姉が一番接する時間が長い。彼女なら中身を爆弾に入れ替えて渡すくらいのこと、造作もないだろう。


 しかし、動機が分からない。少なくとも、いい家族関係を維持してきたとメリアドールは思っていた。それとも、目に見えない理由があったのだろうか。


(私の死を望んでいる人が、帝国にはいるということ……)


 メリアドールは思った。

 このまま帝国に戻っていいものだろうか、と。


 このまま戻れば、また同じことになる可能性がある。しかし戻らなければこの地で……オスティアの地で果てることになる。愛すべき人の多いこの土地で。


 悪くはない、そうメリアドールは思う。

 しかし、答えは決まっていた。


(もう何も知らないままではいられない。私に出来ることをするためにも……)


 帝国に戻る。

 それが今の彼女にとって、一番大事なことだった。


「それよりも……ダンケルさん、ありがとうございます」

「んっ、さすがに放っておくわけにはいかないからなぁ」


 リュミスに注がれたワインを傾けながら、ダンケルは答えた。


「まあ無事で済んで何よりだ。いろいろ迷惑をかけてしまったが……」

「とんでもないです。またもし何かあったら、力を貸していただけますか?」

「考えておこう」


 そう言ってダンケルは立ち上がり、リュミスとともに闇へ消えた。


 そしてメリアドールは考える。

 いままでより強く――故郷へと帰るための方法を。

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