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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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2-6 人体実験

 ヒサメを連れて三つ首龍の拠点へ向かおうと、三人は入口へと戻った。


「……取り出したるは、この鉄缶」


 そこで、彼女は子供たちに囲まれていた。子供たちは車座になっており、ヒサメの一挙手一投足を見守っていた。


 彼女は鉄の塊を片手で持ち上げ、自分の頭上に高々と掲げた。


 そして、投げる。


 ほとんどためを作らなかったが、それでも3m以上ある天井につくほど高く飛んだ。


「『立花爪』」


 目にも止まらぬ速さで剣を抜いた。

 だけに、メリアドールには見えた。


 しかし一瞬にして彼女は五度の斬撃を鉄缶に繰り出していたのだ。


 まるで花が咲くように鉄缶が割けた。彼女はひょいと落ちてきた缶を避けた。子供たちから歓声が上がる。


「すげえ!」「姉ちゃんすげえ!」「これもやってよ!」


 あっという間に、ヒサメは子供たちの心をつかんだ。

 缶切り代わりにされているともいえるが。


「なんというか、すごいですねヒサメさん……!」

「彼女には大暴れしてもらおう、どうせそうなるだろうからな……」


 二人はタイミングを見計らい、ヒサメに声をかけた。



※※※



 下水道から数時間、入り組んだ道を進んでいく。


「あなたたちのねぐらからこんな離れたところにあるんですか?」

「ま、あそこにいつも帰ってるわけじゃないからな。必要ならその辺で寝るし」


 ローンは小さな体をするすると滑り込ませて、狭い道を歩いていく。大人たちでは通り辛いが、子供なら問題はないわけだ。


 右に左に道を曲がっていくため、いつしか平衡感覚が失われていく。自分がどこに進んでいるのか、誰にも分からなかった。


「ついた、ここだぜ」


 ローンは壁に描かれた三つ首龍のシンボルを見せた。


「どうやら、ここがあいつらの本拠地で間違いないらしいな……それにしても」


 ロクジンは額から落ちてくる汗をぬぐった。


 異常にこの辺りは、暑い。

 ロクジンばかりではなく、四人とも滝のような汗を流していた。


「これは……どういうことでしょう、ロクジン師匠。地下は一年中気温が安定しているはずなのに」

「分からない。もしかして、さっきローンが言ってた……」


「魔導炉、のせいでしょうね。あれは魔力を取り込んで別のエネルギーに変換します。その変換の過程で大きな熱が出るはずですから……」


 言葉をつないだのはローンではなく、メリアドールだった。


「魔導炉、というのはいったいなんなのですか?」

「マドラサ帝国で使用されているエネルギー機関です。大きな魔力を集約することで、より効率的な運用が可能になります。ただ、あれはマドラサの最新技術ですから……」


 どうしてそれがこんなところにあるのか、メリアドールにはそれが分からなかった。


(国内の技術が流出している?

 いいえ、だとしてもこんなところに作る理由が分からない。ということは、まさか……もしかして)


 メリアドールの脳裏に一つの可能性が浮かんだ。

 最悪に近い可能性が。


「……多分、ここにあるのは試作型の魔導炉です」

「試作型?」


 何のことだか分からず、ロクジンはオウム返しにした。


「流れてくるルーナとマドラサの技術……それは流出したものだけではなく、意図的に流したものがあるのかもしれません。国内で試すには危険過ぎる技術などが、です」

「危険、って……魔導炉ってそんなあぶねえものなのかよ?」


 ローンは青ざめた。

 自分もそこに関わっていたのだから当然だろう。


「初期型の魔導炉はシールドが不完全です。大量の魔力を浴びると、強い倦怠感を覚えたり最悪の場合全身が麻痺する、という報告もあります」

「そんなものが……!」


 ヒサメはキッ、と闇を睨み、駆け出した。慌てて三人も後に続く。


 やはり、三つ首龍の拠点もカタコンブに建てられていた。広いドーム状の空間、その中心に魔導炉はあった。


 むき出しの炉心は魔力を吸い上げ、青白い輝きを放っている。ここで生成されたエネルギーが一体何に使われているのだろう、メリアドールは考えようとした。


 もっとも、それだけの暇はなかった。ヒサメはスピードを落とさずに進んでいき、魔導炉へと向かっていた。


「この先どんな危険があるか分からない。ローン、お前は帰れ」


 そう言って振り返ると、すでにローンの姿はなかった。


 ちなみに金は前金で払っている。


「いい子だ」


 大きなため息をつき、ロクジンとメリアドールは走り出した。細い曲がりくねった路地を進んでいき、大通りに差し掛かろうという時、ロクジンが制止の合図を出した。


「……ヒサメと、三つ首龍の連中が接触したみたいだな」


 顔を少し出してみると、ヒサメは魔導炉がある建物の入り口で二人の組員に止められていた。石壁造りの建物、やはり教会だろう。しかし、その周辺はあまりに異様だ。


「うっ……」


 見慣れているはずのロクジンも、思わず顔をしかめた。


 教会の壁に人が座り込んでいたのだ。それは、男女の識別も出来ないほどやせ細っていた。枯れ枝のような手足をだらりと下げ、虚空を見上げている。


 一人や二人ではない。大通りいっぱいに置かれた荷車にもたれかかるもの、壁に縋りつくもの、あるいは道で大の字になるもの。中には荷車で轢かれたのか、あり得ない方向に足を曲げたものさえいる。


 誰もが虚ろな表情で、背景と一体化していた。


「……あれが強い魔力に晒された影響なのか……!?」

「いえ、多分違います。いったい、どういうこと? ここでは何をしているの?」


 それはすぐに分かった。


 入口にいた組員がいきなりヒサメに掴みかかった。ヒサメは掴んだ腕を捻じり上げ離すと、その腹に強烈な蹴りを入れた。


 蹴り飛ばされた男は扉にぶつかり、閉まりの甘かった扉が鈍い音を立てて開いた。



 そこには、手枷足枷で自由を奪われ、魔石を握らされた人々がいた。



「あれは……!」

「強制的に魔力を徴収されているのか……!」


 人々の目は虚ろだ。魔法使いは魔力欠乏により体の自由が利かなくなることがある、彼らは強制的にそうされているのだ。


「この、外道ども!」


 ヒサメの叫びがカタコンブに木霊した。

 メリアドールの目には、彼女の体が陽炎のごとく揺らめいたように見えた。


「薄暗い地の底に隠れ、逃れたつもりか?」


 剣を抜き、切っ先を男に向けた。


「有象無象の区別なく、正義の刃は悪を断つ!」

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