俺は人を〇したい
人を〇したい男の話。
人を〇したかった。誰でもよかった。
もし、それができれば、俺の中の恐ろしい空虚もきっと満たされると思った。ただ過ぎていくだけの虚ろな毎日の、何かが変わるかもしれないと期待していた。誰かを〇している自分をなんども妄想したし、夢にも見た。人を〇せた俺の虚像は、いつも満足げで、幸せそうだった。
けれども臆病な俺はそれを実行に移すことはできなかった。俺は人を〇したかったが、本当に〇す自信はまるでなかったし、そんな勇気も持ち合わせていなかった。ダメもとで計画をしたこともあった。勢いで試したこともあった。やっぱり駄目だった。いつも、ここぞというときに物怖じしてしまう。腰が引けてしまう。「俺になんか〇されたらこいつがかわいそうだ。こいつのことが大事な奴がいるはずだ。俺が、それを奪っていいのか?」と声がする。きっと俺には、人を〇す才能が欠落しているのだ。
でも、それでも、一生に一度、たった一人でいいから、俺は。もうきっとそれを諦められない、憧れるのをとめられない。
俺はずっと、人を愛したかった。