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腐り姫と鉄の城  作者: 遠森 倖
8/49

その者は赤き奈落と共に生まれ出ずる 07

「父上!!どうしてあんな女に贈り物などするのですか!?」

 マディスの苛立ちを隠そうともしない声が人の疎らになった謁見の間に響く。玉座で頬杖をついたままの父はぴくりとも動かない。マディスは王の心に訴えかけるように拳を握って声を荒げる。

「あれは王家を穢す恥ずべき異端者。それを――」

「それに、依存しているのはどこの国だろうな?」

 じろり、と王が玉座から王子を見下ろす。その視線は明確にマディスに告げていた。

 この、役立たずが、と。

 マディスはまるで心の支えかのように剣の柄を握り締めた。

「そ――そんなことはありません!我等が剣士は日々鍛錬を積み、敵を打ち倒す力を保持しています!王の命令とあればいつだって勝利の御旗を奪って参りましょう」

 だが王は一瞥の後に、興味を無くしたように視線を虚空へと向けた。

「つまらぬ。所詮お前は髪色だけだ」

 窓の閉め切られた謁見の間に、旋風が一陣天上へと巻き上がって消える。

「我が望むは有象無象の軍隊蟻ではない。たった一駒で戦局を掌握する戦神よ――」

 王の目には、国を継ぐ息子も、天賦の才を持たぬ凡人にしか見えていなかった。

「腐り姫、良い名前ではないか。妃と呼ばぬは民もあれに私が手をかけていないと判っていると見えるな。だからこそ偶の褒美もやらねば妃として余りに憐れだろう……まあ心配するな。お前にはあれば御しきれんかもしれんが、腐臭も風が吹けば千々に散るものよ」

 肩を上下させて低く王が哂う。マディスは耐え切れなくなり「失礼いたします」と乱暴な足取りで部屋を出た。両開きの装飾過多な扉を叩きつけるように締めると同時に、礼儀正しそうな外見に似つかわしくない舌打ちが零れた。

「くそっ!!」

「マディス王子……」

扉の向こうに待ち構えていた白い甲冑姿の近衛騎士達が心配そうにマディスを窺い見る。

「何が依存しているだ!!替えの効かぬ能力者に傾倒して軍を弱体化させたのは父上ではないか!!だからあんな事が起きた時、方々に能力者を探し回り選択の余地なく腐り姫を輿入れさせることしかできなかったのではないか……我等が王のお側にいるというのに――!!」

 剣の柄を握り締めてマディスは屈辱に耐えるように俯いた。近衛騎士達が何と声をかけていいか分からずに黙り込む中、やがてマディスが重苦しい空気を振り払うように首を振り頭を上げた。そこには何時もの精悍な王子の顔があった。

「すまない、取り乱したな。ここで待っていたのは何か報告が?」

「はっ――親衛騎士隊(くろあり)の動きを追っていた者から、また一つ回収されたとの連絡が」

「執念だな。ミレーユをこちらで押さえているというのに、ここ数年破竹の勢いで蒐集が進んでいる――十年という月日も、やはり父の心はあの人のもののままか……」

 マディスは深く瞠目すると近衛騎士達に指示を出す。

「どんな手段でもいい、阻止するのだ。幸いにしてこの計画を止める手立てはいくらでもある」

「あの新任の騎士については――?どうやら没落貴族の主のようです。つけ入る隙はありそうですが……」

「まだ止めておけ。父の肝煎りで近衛騎士隊に軍人が入るのは異例だ。あの男の思惑がわからない……確か、バーリオルという家名だったか」

「はい、あの男も天賦の才を持つようです」

 それを聞いて忌々しげにマディスはまた舌打ちした。近衛騎士達はそろそろ悪癖になりつつある主のその姿に胸を痛め、命令を可及的速やかに達成する為に足早にその場を散っていった。

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