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腐り姫と鉄の城  作者: 遠森 倖
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その者は赤き奈落と共に生まれ出ずる 06

 鼻にティッシュを詰めたフォルトは、アイビスと共に王座の前で直立不動の姿勢でいた。軍服の胸元をフォルトが賜ったばかりの勲章で留めた第九王妃は、バツが悪そうな顔で視線を空へ投げている。

「だから、そんな服装で公務を行うなと言っていたのだ。王宮内では目を瞑っていたから図に乗ったか?お前の行為が結果として私を貶めるのだ」

「……申し訳ございませんでした」

 王の怒りを察してかアイビスは殊勝に謝る。フォルトはハラハラしながらその行方を見守る事しかできない。

「――まあ、お前の故郷は豊かな場所ではない。嫁入り道具も碌に揃えられなかったお前に女らしくしろというのが無理だということも理解している」

 遠巻きな侮辱にぎゅっとアイビスの拳が握り締められた。表情こそ希薄だが、彼女にも感情はあるのだと、フォルトは当たり前のことに今更気が付いた。

「何時からまた戦地を巡るのだ?」

 不意に王が話の方向を変えた。不思議に思いつつ「明日には発ちます」とアイビスが応えると、王が「ふむ」と顎鬚を撫でる。

「ではそろそろ頃合だな――よし、お前がこれから巡る戦地の程近くは様々な特産品がある。実はそこにお前の為の品々を作るよう頼んであるのだ。モワノーでは絢爛とした髪飾りを、湿地帯ヴァローナの近郊の村では最高級の絹で織った瀟洒なドレスを、高い山々で国境を守るラーストチカでは山で飼われた美しく稀少な鳥の尾で文雅な扇をな――その嫁入り道具と勝利を掴み城へと戻ってこい。その頃には年で一番盛大な宴が催される頃だろう。せめてそこにはきちんとした身なりで参加するのだ」

 その時の自分の主の表情を、フォルトは捉まえられなかった。呼吸さえ止めて、目を見開いて――なんだか、泣き出す寸前のような、そうかと思えば呵呵大笑してもおかしくない。そんな複雑な表情だった。

「…………有難きご配慮。必ずすべての戦いを征し、ご用意頂いた品を手に入れて戻りましょう」

「ああ、美しく着飾ったお前を見るのを楽しみにしておこう」

 戦地に出る妃と、采配を揮う王との会話はこんなものなのだろうか。フォルトは喉に引っかかるものを感じながら、任命式の終わりを告げる大臣の声を聞いていた。

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