表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐り姫と鉄の城  作者: 遠森 倖
46/49

祝福の風の匂いは甘く 09

「――はあっ、はあっ……」

 荒い息をつきながらフォルトが天剣を腹から離す。突き刺した場所からは血の一滴も出ていない。その代わり、そこから鉄の腕が生え、王の剣をフォルトの頭上で掴んでいた。ウィズダムから選別に貰っていた、鉄の鎧。体にぴったりとフィットして胴を守るタイプのもので、軍服の下に着こんでいたのだ。

「危なかった……死ぬかと思った……」

 蒼白になってフォルトは息をつき、バックステップを踏んで王から距離を取る。鉄の腕と天剣が限界を超えたのか、大きく震えると砂鉄ととなって崩れ落ち、王の剣だけが姿を残したまま床の上に転がった。

 本当は、間合いに入ってから剣技で戦い、隙をついて暗器代わりに鉄の鎧を天剣で変化させて王を仕留めるつもりだったのだ。それが結局自分の命をぎりぎりのところで守る盾にしてしまった。

フォルトは片手だけになった天剣を構えながら、じりじりと摺り足で王との間合いを取った。立ち止まればまた気圧で体を拘束される。そもそもどの位技のリーチがあるのかわからないのだ。油断なく王の一挙手一投足を観察していると、耳から手を放した王が忌々しそうにこちらに視線を送る。

「ぐあっ!?」

 それだけで、フォルトの身体は吹き飛ばされた。一撃目の空気の弾がサッカーボール位だったのに対し、今の弾のサイズは自分の身長よりも大きい。

「これが……空気を操るということ」

 まさに胃の中の蛙大海を知らず。大きく仰け反りながらフォルト口からこぼれた言葉は、新鮮な驚きに満ちていた。何とか仰向けに倒れることだけは避け、立ったまま凌ぐ。剣を捨て、顔を覆ってフォルトは肩を震わせた。

 勝てるわけがない。数ガロンの砂鉄を限られた場所でしか操れない自分と、この世の全てが武器となる相手とでは。

それでも、工夫次第で何とかなると思っていたのだ。だから無謀にも特攻し、結果一蹴された。

「――やっぱり、駄目ですね」

「遅かったな。ついに諦めたか」

 剣を拾い上げた王が、フォルトの異変を見て眉をあげた。

「ええ……私のこういうところが駄目なのだと、よく妹には叱られました」

 フォルトが、再び天剣を抜く。それは、光さえ吸い込む漆黒の柄を持つ【虚空】だった。

 すっ、と剣を握った瞬間にフォルトから表情が消える。

「未練がましいと、ずっと言われていました」

 立っていた王の身体を、虚空が薙いだ。

 いや、本来であれば虚空は人を害さない、そういう意味ではこの表現は適切ではない。だが王は何の前触れも無く宙を舞い地に落ちた。

「なっ……なんだ!?」

 王の額は割れ、血が一筋流れている。悪鬼のごとき顔でフォルトを睨みつけると、視線の流れに合わせて王が操る空気が透明な刃となり、目標へ滑るように迫った。

 だが、その刃は彼に届く前に間抜けな破裂音を立てて空気に霧散した。フォルトの前にはもちろん彼を守る鉄の壁など無い。

 しゅるり、しゅるりと絹を遊ばせるような音が鈴音に交じる。鼓膜を撫でるその音に、王が驚愕の表情を浮かべた。

「はっ――?まさか、そんな……お前」

 衣擦れのようなささやかな音は、目の前に立つ、砂鉄使いの元騎士を中心に起こっている。

「ええ王よ、大変畏れ多く、恐縮の次第なのですが――ここからは、貴方と同じ力で以って、貴方に挑ませていただきたく存じます!」

 恭しく頭を垂れ、フォルトは王に言い放った。

「さあ、ここまで無能を相手にさぞ退屈だったでしょう――いざ尋常に、勝負!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ