祝福の風の匂いは甘く 01
その日を、私は忘れることも、祝うことも、しかして後悔することも無い。
空は抜けるように青く、地上を埋め尽くす鈴蘭は、我が主の有り様のように白く可憐だった。
りぃぃぃぃぃぃぃん―――りりぃぃぃぃぃぃいぃぃぃいぃん―――
主の指先一つで鈴蘭は風にその身を委ねて絶唱する。この地上で花を楽器に交響曲を奏でられる人間など主だけだろう。主の力はこの世で最も美しい力だ。だがそれを知る者は殆どいない。
主の力は裂き、圧し、吹き飛ばす力。全てを虚空に帰す力だと王は言う。
その言葉通り主は齢十の頃から、何年も何年も、ずっと力を行使し続けてきた。
その表情には倦んだような疲れが滲むのを、私は何もできずに見守り続けてきた。
主にとって戦いは殺戮でしかない。高揚も研鑽もそこには無い。
主にとっては戦場を蹂躙するということは、蟻の群を踏み潰すのと同じ事なのだ。
それを聖戦だと、王家の聖なる力の賜物だと象徴化され、信仰化されることに如何ほどのストレスを感じてきただとう。
ずっと、ずっと、さぞ御辛かったことだろう。
生きることが、さぞつまらなかっただろう。
今日の主は、一段と綺麗だった。
マリアヴェールの下、結い上げられた青い髪が透けて見える。白い肌に真珠の粉を叩き、頬には珊瑚色の頬紅がふんわりと乗せられている。
甲冑を着けて戦姫として戦うことしか許されなかった主の晴れ姿に、私の胸も躍る。
「じゃあ後の事はお願いね。私の愛しいナイトさん」
主は輝かんばかりに微笑んで手を振った。
鈴蘭は主の門出を祝うように歌い続けている。




