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腐り姫と鉄の城  作者: 遠森 倖
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毒の沼底に沈む光をそこに見た 03

「ちょっと隊長に聞いたらまぁー話す話す。軍内では相当有名な話だったみたいだぜ」

 シエルがコーヒーを啜り、その苦味に顔を顰めた。ビールの苦味は良くてコーヒーは駄目だというのがいまいちフォルトには理解できない。少し飲んでから大量のミルクを入れ、カフェオレに近い状態にして落ち着いたのかシエルが再び話を続ける。ブラックコーヒーがおすすめの喫茶店での暴挙に、やたらこだわりの強いマスターの眉間の皺が深まった。

「グローリエス家は名家だからな。近衛騎士隊でも最悪の死に方だってんで、腐り姫が決定的に王族の中で孤立した出来事になったらしいぜ。表向きは戦場で戦死ってことで亡骸はすぐに回収されたんだけど、あんなことになっちまったから正式な墓には入れてもらえず、結局横に小さい墓を隠すみたいにこさえて埋めちまったんだと」

「見たよ。酷いものだ。二度と蘇ってくれるなと言わんばかりだった」

「そりゃそうだろう。そのせいでグローリエス家は悪い噂ばかり囁かれているんだから」

 フォルトは仏頂面でコーヒーを口に運んだ。

「というか、そこまで話を知ってるガルマン隊長が私を次の騎士にね――」

「そこはお察しだろ」

「悪意はなかったと思いたいだろ」

「あいつに期待してどうすんだよ――と言ってはみるものの、実際にお前を指名したのはもっと上のやつらしいぜ。近衛騎士隊は最初全員妃付を拒否したらしいからな。王が強引に輿入りを決めたこともあって、親衛騎士隊に一時はお鉢が回るかとも言われてたんだが、それはそれで王以外の王族を守護するという近衛騎士隊の存在意義が危うくなっちまう。そんなジレンマで近衛騎士隊がうだうだしてるうちに、そのやんごとなき御方が軍部のお前を一本釣りしてアイビス妃付に指名しちまったんだと」

 隊長もお前のことは心配してたんだ、シエルの表情に嘘は無さそうだ。何も知らなかったフォルトに余計な事を言えなかったのだろうか。優しさと情報伝達の重要さを秤にかけて、優しさを取るのがガルマンだ。ありえなくはない。

 だが騎士隊同士のごたごたでこの役目が与えられたのは理解しつつも、やはり腑に落ちない。先日の王室での一悶着を思い出す。騎士を降りろと言ったあいつらも妃付きを一度は拒否しているということなら、今更なぜ役目を譲れなどと命令してきたのか。

 状況が変わったのか?だとしてその要素がフォルトにはわからない。

「……まあ、考えても仕方がないか」

 それでも前任の騎士の末路を聞けただけ良かった。フォルトはシエルに礼を言って立ち上がった。去り際に、ふっとあの時湧いた疑問をフォルトは口にする。

「――墓でさ。奥さん、泣いてたんだ」

 フォルトの言葉にシエルがぴくりと眉を上げた。

「私には、あの涙の意味がまだわからない……何かがすごく引っかかるんだ。私達は、そもそも大きな勘違いをしているんじゃないか?」

 喫茶店を後にするフォルトを見送り、薄くてぬるいコーヒーを啜ってフォルトは溜め息をつく。

「そんなの、悲しいからに決まってるからじゃねえの」

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