表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き翼に誘われ  作者: 月龍波
44/53

四十三翼:ケフェウス

「よおおぉぉこそ、いらっしゃいました皇帝陛下に黒騎士殿」


 町全体が武器生産工廠とも言える帝国の領地が一つ、アルキオネの中でも最大規模を誇る一つの建物へとベテルギウス皇帝ヴィルヘルムとその護衛である四覇将(しはしょう)の一である黒騎士が足を踏み入れた。

 その瞬間にいつの間にか現れたのか、四覇将の二である狂気の道化師スクッラが聞く人によれば神経を逆なでする声と共に仰々しいお辞儀を見せる。

 その口調と態度といい、芝居染みており、彼の性格を考えれば確実にわざとやっているのだろう。


「無駄な臣下の礼など不要。早急に例の新兵器とやらの所まで案内せよ」

「アッハイ。すんません。こちらでございます」


 鬱陶しく感じたのか定かではないが、ピシャリと遮ったヴィルヘルムにスクッラは急に真顔となって謝罪し自ら先導するように歩き始めた。


 ――この道化は相変わらずだな。


 僅かにキリキリとコメカミを締め付けるような頭痛を感じ、溜息をつきたくなる衝動を堪えながら黒騎士は心の内でそうぼやく。

 付き合い自体は長いが仲が良いかと言われればその真逆であり、皇帝派であるスクッラとイリスティア派である黒騎士は水と油のような関係であり水面下で火花を散らし合う始末だ。

 だが、そんな派閥的に争う相手の行おうとしている事を知れるというのであれば頭痛と僅かな心労など我慢せざるを得ない。

 そんな事を考えていれば、気付けば自身達が向かっているのは地下へとどんどん向かっているのが分かる。

 地下へと続いてゆく道は魔源石が発する頼りない光で照らされており全体的に薄暗く、進んでいく内に何かがおかしいと黒騎士は感じ始めていた。


 以前の招集によって行われた報告会では自身に送られたスクッラ主導で行われている魔導兵器の資料では凝縮させた魔源を圧縮させ、撃ちだすというものであった。

 しかしそれの視察というのであればこんなに地下深くまで足を運ぶ必要などないはずだ。

 それでもこの身は地下へと歩を進めているという事実から、自身が知らない別の何かを開発しているという事になる。


 ――さしずめ、陛下が極秘でスクッラに開発させているものか……ならばこそ何故今更私に見せる……?


「さぁさぁお着きになりましたよぉ。これが新兵器でございます」


 何か嫌な予感がしてならない、そんな感情が過ったところでスクッラの声がそれを遮り目の前へと視線を移す。

 ふざけているような声が一転してドスの聞いた低音の声を発したのを聞きながら黒騎士は兜の奥の瞳を大きく見開いた。

 仕草等に出すことは何とか避けたが、見せられたソレは何重にも考えていた予想外を上回る衝撃であった。

 そして地下に移動していた理由も分かった、ただ単純に地上近くでは巨大過ぎて秘匿もできなければ収まらないからだ。


「中々愉快なものに出来上がろうとしているな。それで、実際はどれ程の完成度なのだ」

「完成度としては80%といったところでしょうか。と言っても外装と内部を弄ってあとは最後のパーツを入れれば完成です」


 聞こえてくる二人の話声で我に返ったが、聞こえたのは聞き間違いではないかと疑いたくなるものであった。

 愉快そうに言うヴィルヘルムにそれに返答しながら口元を歪めるスクッラの雰囲気からして運用を前提としているようだ。


「……お待ちください陛下。これ程のものはもはや兵器の類では済みません。運用をするとなれば条約を確実に違反することになります」


 待ったを掛けざるを得なかった、自身の知識が正しければ目の前のそれは国を亡ぼすどころでは済まないからだ。

 もはや戦争どころの話では無くなる、ヴィルヘルムがどれだけ目の前に鎮座する存在を知っているのかは定かではないが何とか思い留まらせる必要があった。


「ふむ……黒騎士よ、何も心配はない」


 そう言うなりヴィルヘルムは一歩前に進み、“それ”を撫でた。

 その手の動きはまるで愛しい我が子を愛でるかのようなものであり、一撫でし終わると黒騎士の方へと向き直る。


「全ては勝てば良いだけの事。うわべの約束など勝利の前には塵も同然だ」

「えぇ、そうですとも。昔から言うではないですか? 『勝てば正義』ようはどんな手を使っても勝てば良いのですよ」


 狂っている、そう思わずにはいられない程の光景であった。

 しかしヴィルヘルムはあくまでも正気であった、正気で大陸中に存在する生物を亡ぼしてでも勝つつもりであった。

 兜の奥で眉間に皺を寄せると同時に、奥に存在する“それ”は僅かに怪し気な光を発した。


 ※


 イリスティアとレナータと別れ二日が経ち、エル達は一つの街の入り口付近まで辿り付いていた。

 本来であればラティエの翼を再生させたあの塔の最上部に【(ゲート)】と呼ばれる大昔に【天界(ヴァルハリア)】が作った装置があり、それを使えば【天界】に行くことも可能だそうだ。

 しかしイリスティアを救出するために大きく移動してしまった事から最短でこの街の先に存在する遺跡に存在するとの事だ。


 ――もしここから先のケフェウスという街に行くのであれば気を付けた方が良い。どこの国にも属さない中立の街だが、いつの間にかあそこは帝国の支配が進んでいるという情報がある。


 別れ際にそう伝えられたレナータの言葉を思い出す様に繰り返され、エルは入り口となる門を睨みつけた。


「此処がケフェウスか……ラティエ、大丈夫か?」

「……はい。少し窮屈ですけれど、大丈夫です」


 そう問うエルに目深に被ったフードを押し上げる様に首を持ち上げてラティエは答える。

 今の彼女は全身を覆い隠すローブの着込んでおり、間近で見ても彼女の白髪と特徴とも言える大きな白い両翼が見えることは無い。

 見えるとすれば海を思わせる深い青色の瞳と整った顔くらいだ。

 帝国の支配が進んでいるというレナータの情報を信じれば彼女がそのままの姿でケフェウスに入るのは危険だと判断してローブを買い着せているのだが、口では平気と言ってもやはり窮屈そうであるのは変わりが無いようだ。


「けれど、翼があるのに良く着込むことができたわね」

「元々“これ”のサイズが大きいのもありますけれど、体を包む様に翼をたたんでなんとか……といったところです」


 ローブを着込む際に確実に障害となる彼女の翼は彼女が言うように体の前面を包む様にした事で問題を解決していた。

 ただし、そのせいなのか両腕を動かし辛い事と正面の布が少しでも破れたりすれば翼が見えてしまう事だ。

 おまけにローブを着ている事を考慮しても体の正面が若干ながら膨れており、見ようよっては何かを隠している様にも見え、怪しいというところだろう。

 ただ彼女曰くそれは些細な事で、どうやら太って見えるのが気になるらしく他二名の女性が遠い目で同意しているのが記憶に新しい。


「ひとまず街に入って宿を確保するぞ。ローブを脱ぐのも一息つくにしても他人の目を避けられる場所に移動しなければ話にならん」


 痺れを切らしたかのように言うカルヴァに同意しながらエル達は門を潜りケフェウスへと足を踏み入れる。

 街の中は帝国の支配が進んでいるという情報から導いた予想に反して存外に平和そうに見えていた。

 争ったような痕跡が目立たないどころか一切見当たらず、民家等の建造物も無傷だ。

 支配が進んでいるという情報じたいがデマではないのかと思うような穏やかさではあるが、ならば平和であるのかと問われれば違和感を覚えざるを得ない。


 ――なんか街の人の活気が無いな。


 エルが感じたものはそれであり、一目見た感じでは人々の活気が無い、というよりは疲れているような印象を持った。

 おまけに全員がそうであるかと言えば否であり、一部では活気に満ちている者も居る。

 本来街が正しく栄えているのならば、全部とは言えずとも大半は人に活気があるものだ。

 それが一部だけしか見えないとなれば、この街はきな臭い何かがあると察するのは難しくないだろう。


「…………」

「ん……?」


 そんなとても明るいと言えない街の雰囲気を感じ取ってか、元々帝国の者がいるという事前情報からラティエはキョロキョロと首だけ動かして周りの様子を伺っている。

 傍から見れば挙動不審であり如何にも怪しいのだが、不安からそのような行動をとっているというのはエル達には分かっている。

 とは言えどあまり目立つのも良くないことは事実であるために何か声をかけて気を紛らわせようかと思った時だった。

 自身の腕を抱くように身を寄せた彼女の行動にエルは思わず声を出し、それを聞いた彼女はきょとんとした顔でエルの顔をマジマジと見ているが、自身がかなり密着している事に気付くと顔を赤くして素早く離れるのだった。


「ご、ごめんなさい……」

「いや……いいけど」


 記憶が戻ってから記憶喪失の時に見せていた距離の近いスキンシップを見せる事がなくなっていたはずだった。

 しかし、彼女が先ほど見せたのはそれに近いものであり、なぜ今になってそれをみせたのかエルには分からなかった。

 僅かにぎこちなくなった二人を傍目に四人は肩を竦めたり面白そうに微笑を漏らしたりと反応は様々であったが、ふと宿屋の看板が目に入った事で視線がそちらに集まる。

 入って直ぐ近くにあったのは僥倖と思い、直ぐに中に入って男用と女用でそれなりに大きめの二部屋を借りる事にする。

 受付を済ませて物を置いたりと落ち着き次第にエル達が使う部屋に集まる事を伝えてから部屋に入り、エルは直ぐに持ち物の点検を行い眉間に皺を寄せる。


「どうしたんだ坊主?」

「ちょっと困った事が……全員が揃ってから話す事にします」


 何気なく聞くアインハルトに濃くさせた眉間の皺をそのままにやんわりと答える。

 良く分からないがエルがそういうにはそれなりにマズイ事なのだろうと、心だけは準備をして女性陣が部屋に来るのを待つ。

 そして待つこと数分程、扉をノックする音が聞こえ、エルが扉を開けるとそこにはセフィーリア達が立っており部屋に招く。


「……此処ならローブを脱いでも平気でしょうか?」

「カーテンは閉めてある。誰かに見られる心配はない」


 部屋に入るなりにそう言うラティエにカルヴァは窓のカーテンに指を指して言う。

 それを聞いたからか、僅かに安堵の息をついたラティエは身に纏っているローブを脱いで身を包む様にたたんでいた翼をゆっくりと広げた。

 深く溜息をついたところから相当に窮屈だったのが感じられるが、時間が惜しいからかセフィーリアは彼女を他所に口を開く。


「さて、此処で一泊するにしてもこれからどうするかよね。正直に言えば私の身の都合とラティエちゃんの事もあるから長居はあまりしたくないわね」

「それについてですけど……ちょっとマズイ事があるんです」


 開口一番で今後の指針について話題を出したセフィーリアにエルは先ほどよりも濃くなった眉間の皺を見せながら手を上げた。

 皆の視線が集中したのを感じながら溜息をついたエルはベッドに腰を預けながら重い口を開いた。


「此処までやってきて、人数が増えて消費品の消費が激しくなってそれを補充した影響で金が底を付きかけています」


 思ったよりも深刻な内容に全員が深刻な表情を見せて、エルは再度溜息をついた。

 一党の金銭管理はエルが行っている都合上、金銭に関してはエルに話を通す事になっているが、そのエルが金欠を言い出したのだ。

 金が無ければこの後の旅に支障が出る為にイの一番で解決しなければならない案件だった。


「因みに聞くけど、後いくら残っているのかしら?」

「……共有用で残り3G(ゴル)程です。個人用に皆が持っているのを全員の分を集めてもおそらく6Gも満たないかと」


 思っていたよりも少ない金額に更に全員は頭を悩ませることになった。

 6人で行動をしている以上、全部で合わせて10Gも満たないのでは圧倒的に足りない。

 移動するにも何もかもが金が必要となる以上は、最低でも50Gはあった方が良いだろう。

 しかし問題はどうやって金を稼ぐかであり、運よくこの街に【傭兵組合(ソルジャーズギルド)】が存在して依頼を受けられれば良いがそれでも多少は足止めされる事になる。

 帝国の者がこの街に存在する可能性がある以上アクイラエに所属する身であるセフィーリアと天使であるラティエがこの街に長居するのは危険だ。

 二重の問題に頭を悩ませていた時にアインハルトが何か思いついたかの様に声を上げた。


「手っ取り早く稼ぐってんなら、この街にカジノがあるらしいぜ」

「カジノ……? 賭博場ですか?」

「おう。なにやら最近できたようだが、うまくいけば直ぐに金が増えるだろうよ」


 言いたいことは理解できるが、エル自体はその話には首を捻って即答はしなかった。

 それどころかセフィーリアとカルヴァは気が乗っていないようだ。


「そんな美味しい話な訳ないじゃない。そういう場は基本は元が儲かるようできているのだから」

「あぁそうだな。だからこうしようぜ。俺と坊主と嬢ちゃんがカジノに、エルフと剣聖と猫の姉ちゃんが他に稼げそうなもんが有ったらそっちに行くってのは」


 呆れた様子で言うセフィーリアに対してその様に返すアインハルトに彼女は更に呆れたかのように溜息をついた。

 話だけ聞けばアインハルトがカジノに行きたいだけの様に聞こえるのだ。


「……エル君はどうするの?」

「まぁ……長居できない状態ですし、一か八で試す分には構いませんが……」


 ――あ、ダメね。この子地味に賭け事に興味持っているわ。


 エルの反応を見ただけで察したセフィーリアは無駄だと諦めたのか肩を竦め、それを横にアインハルトがニヤリと笑みを浮かべた。

 それに対しては軽く流し再度思考を巡らせるが、メンバー的にもエルとアインハルトがいるのであれば揉め事が起きようともラティエを守る事はできるだろう。

 おまけに金銭管理等がしっかりしているエルと真面目なラティエがいれば最悪な状態になる前に区切りをつけることはできるはずだ。


「まぁ、決まってしまった以上は仕方ないわね。セフィーリア」

「そう、ね……なら、エル君とラティエちゃんと狂犬さんが遊びに行ってる間に私達は別で考えましょう」

「おいおい、遊びに行くんじゃなくって稼ぎに行くんだっての」

「実際に稼いでから言って欲しいものね」


 その様なやり取りをしている時に不意にこの部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 その音を聞いた瞬間に全員が目を鋭くさせ、ラティエにローブを着込ませる。

 今自分達に用があるような人物など心当たり無く、どこの誰かも分からない者に警戒が出るのは当然だった。

 ラティエがローブを着込んだのを確認してから、エルが扉の方へと近づきゆっくりと開ける。

 しかし扉を開けた先に存在した人物にエルは意表を突かれ絶句する。


「やぁやぁ、見た時にもしかしてと思って付いて来てみたらやっぱりエル君か」


 そう気さくな笑みを見せながら言うのは肩辺りまで伸ばした銀髪を結い、どこか気品のある雰囲気を纏う糸目の男であり名を呼ばれたエルにも見覚えのある顔だった。

 酷く懐かしさを覚えながらも、最後に顔を合わせた時と同じようにエルは溜息をついた。


「……()()、なんでこんなところに居るんだよ」

「それはこっちの台詞さ。今頃はナスルでゆっくり過ごしているかと思ったら随分と離れたところにいるんだからさ。あ、部屋に入っても良いかな?」


 どうやら彼の中では自分はナスルに居ると思っていたようであり、それでいて自身が此処にいるのを見た為に確認するために自身達の部屋に来たようだ。

 そして何を思ったのか部屋の中に入りたいと言っており、正直部屋の広さ的にかなりギリギリなのだが話す分には問題ないだろうと半身をずらして部屋へと招く。

 手で礼を示しながらエアが部屋に入れば、エルの知人だと知ったからなのか他の者達の警戒心が薄れていくのが感じる。

 しかしセフィーリアだけは彼の顔を見た瞬間に目を丸くして唖然としていた。


「……エアさん?」

「やぁやぁ、その声はラティエちゃんか。お久しぶり、元気にしていたかな? それにしても少し大人びた?」


 ローブに身に纏った状態でラティエは数か月ぶりに見る彼に声を上げたが、エアは気さくな笑みのまま記憶に残る彼女の声のトーンが違う事に問う。

 それに対して彼女はローブを脱いで、その下に隠された純白の両翼を見せると彼は僅かに見開いて瞼の奥に隠された金色の瞳を見せた。


「そう、か……エル君は翼を元に戻すことができたんだね」


 エルへと視線を向けながら言うその声は、優しさで満たされておりどこか祝福しているようにも聞こえる。

 エルはというと目を閉じてフッと笑みを見せ肯定するのを見て、彼は微笑を浮かべた。


「……エルとラティエの知人か?」

「あぁ、お仲間の皆さん初めまして。僕は……あっ」


 蚊帳の外で繰り広げられる会話にカルヴァが痺れを切らしたようにエアに向かって問うが、気さくな笑みへと戻ったエアは自己紹介しようと口を開いたとたんに素っ頓狂な声を上げて固まった。

 一体なんだと皆が思う中で、そのエアの視線の先にはセフィーリアがあり、彼女は半目でエアを睨んでおり、その視線は非難が混ざっている。


「国を抜け出してブラブラしているかと思えば、いったいこんな所で何をしているのかしらね?」

「いやぁ……ははは……まさかラ・バロンス先生がエル君に同行していたとは……」


 この会話で全員がセフィーリアとエアが知り合いだという事に気付くのと同時に、彼がアクイラエの関係者であるのを察した。

 そんな中でエルは彼と初めて会ってから感じていた一つの疑惑に殆ど確信を得た。


「で? 何をしているのか教えて頂きたいわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殿()()?」


 ――は?


 セフィーリアの発した彼、エアのフルネームに続く王子殿下という言葉にエルを除いた他の者が一斉にそのような声を上げた。

 当の本人であるエアことエレアードは、バレたかとでも言いたそうに心底困ったかのような表情で後頭部を掻いている。


「おいおい、エルフ。この糸目の兄ちゃんがアクイラエの王子? 冗談だろ」

「残念ながら本当の事よ狂犬さん。3年くらい前に城から出ていって一時期大騒ぎだったのだから。証拠となるものなら……荷物のどこかにしずく型の瑠璃宝石があると思うわよ、それにはアクイラエの紋章が掘ってあって、それは王族にしか身に着けることを許されないものだから」


 最もな疑問であろうアインハルトの言葉を一蹴したセフィーリアはエレアードに視線を向けながらそう言う。

 そうすると観念したかのように彼は懐からセフィーリアが言ったものと同じしずく型の瑠璃宝石を皆に見せる。

 その宝石にはアクイラエの国旗にも描かれている白い大鷲が彫られており、彼の身分を証明するものとなっていた。


「それにしても、既に知り合いだったエル君がこの王子様の素性を知って驚いていないって事は元々知っていたのかしら?」


 皆が唖然としている中でエルへと視線を移したセフィーリアはその様に問うが、エルは鼻で笑い首を横に振る。


「初めて知りましたよ。ただ、初めて会った時から行商人という割には貴族みたいな雰囲気を纏っていましたから、どこかのお坊ちゃんだろうとは思ってはいましたけど」

「えぇ……エル君、最初から気付いていたのか……」

「田舎者を舐めんなよ。雰囲気や振る舞い、あと匂いで良い所の出の奴なんざ直ぐ分かる。俺ら田舎者と違って正反対だからな」


 肩を竦めながら溜息をつくエレアードにエルは再度鼻で笑いながら意地の悪そうな笑みを見せる。

 そんな二人を見ながらも、大きな問題が二つある状態で更に嵐のようなものが舞い込んだと錯覚し、誰かは分からぬが大きな溜息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ