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行くぜ!鉄研。  作者: 縫川
6/12

夜間。

本入部が始まって数日。長良浩太はまた新しい1日を迎えようとしていた。

「ジリリリリリリリリリ!」


 布団から降りて時計を見ると時刻は6時40分を指していた。また今日も平日か。早く明後日にワープしてぇなぁ。


 この学校は本入部期間に入ってから数日でゴールデンウィークが始まるようになっている。「今のうちに休んどけよ」と言う学校からの通達のようなものかな?でも、そんなことは気にしたら負けだ。






 さて、この日の授業も終わりいよいよ時刻は18時に近づいているところだ。この日の部活は以前と変わらず動物作りの日で、完成して先輩に見せたら…まあいいよ。僕の目の前に7系が到着した。窓のアルミサッシから白い塊が析出していて、まるで涙のようだった。

 ‎乗り込んでから車内の中吊り広告を見潰していると、しれっと大切な広告を発見した。なになに、『ゴールデンウィーク限定!豊田線乗車体験会』…!?マジか!豊田線の乗車体験会をやるのか!


 「相急豊田線」とは、豊田―浅川を結ぶ全線単線の貨物線で戦時中は中央線―豊田―浅川から鶴岡線の東奈良(今の「こどもの国」)までの貨物輸送をしていたことで知られている。その後も豊田線は国鉄線から及び国鉄線への荷物列車を走らせる為の連絡線として使われた他、豊田駅を鶴岡線の車庫として使うなど非旅客的な面ではかなり重要な路線だ。しかし、旅客列車が存在しないことで近隣住民から「旅客化しろ」と再三怒られている路線である。今回はそんな路線の乗車体験会をするようだ。


 ‎チラシにはこんなことが書かれていた。


 【相急線で「北の観光」をしよう!1日乗車券による豊田線乗車体験会!】

 ‎(中略)

 ‎豊田線1号:浅川駅9時37分→10時12分

 ‎豊田線2号:浅川駅11時37分→12時12分

 ‎豊田線3号:浅川駅13時37分→14時12分

 ‎豊田線4号:浅川駅15時37分→16時12分

 ※ご利用の為には当日有効の1日乗車券が必要です。

 ‎ 豊田駅にはホームが無いため乗降出来ません。

  1,4,5,8号車へご乗車予定のお客様は浅川駅改札外の専用レーンにお並びください。

 


 浅川駅自体は折り返し、待避設備の両方が完備されているので分岐点の始発駅に置いてもなんら問題はない。しかし、浅川駅には留置線が存在しない。つまり、どこかへ列車を「押し込み」しなければならないのだ。俄然興味が湧いたぞ。当日は朝飯を食ってから1日中張り込むことにしようじゃないか。これでゴールデンウィークの予定がほぼ決まった。

 

 家の時計を見ると、時刻は既に18時30分を回っていた。中学受験生の時より帰りが早まったはずなのに何故か今の方の帰りが遅いと感じ始めた。風邪でもひいたのか?


 ‎さて、話を戻すと、今回の体験会には体験会当日有効の「一日乗車券」が必要だった。それと道中の飲食店で計500円の散財をするとなると…お年玉を削るがこれは仕方ない。あとは夕食の時くらいに「外出する」程度の声かけをする位かな。さて体系の…。


「ご飯よー!もう何回言ったら分かるのー!?」


 どうやら僕はまたやってしまったようだ。ここ最近は自室のドアを締め切って机に留まることも増えた。ある意味で一人になりたいのだ。そのせいか周りの少しの音では反応しなくなっていた。

 向かいには母親、隣には妹が座り母親は

「先に食べてるよ。」

 とだけ言った。僕はいただきます、と言って取り皿に残るキャベツサラダをつまんだ。キャベツの上を染めていたとうもろこしは僕の喉を一粒ずつ通過するのだった。


「今日ね、りょうすけがね―。」

「あ!仲島君と遊んだの?」


 妹の世間話のおかげで食卓にかかった圧力は解かれていった。母親との会話が終わり僕は「本題」を聞いてみることにした。


「ねぇお母さん。明後日なんだけどさ。」

「どうしたの?相急の一日乗車券を買って豊田に行きたいんだ。」

「豊田?どんなルートなの?」

「ほら、相急豊田線って浅川駅から分岐していく路線が~」

「へーそんなのがあるんだ。」

「うーん。そこなんだけど…。」

「お小遣い、上手く使ってね。」


 私の手の平に一枚の500円玉がポンと置かれていた。光輝いている訳でも無いのに、思わず目を閉じてしまった。

 いつもこうして鉄道ファンを名乗る僕だけど、実は一日をかけて鉄道趣味に費やすことはこれが初めてなんだよね。過去の事例を振り返っても受験勉強のストレス発散にこっそり海老名や横浜へ行ったことくらい。つまり、「ドケチ」だったのさ。だけどそろそろ中学生だし周りのファンより鉄道を愛さなきゃ負けじゃない?愛さなきゃその鉄道は生き残らない訳だし。


 <ッピトン!


 あれ?‎クラスメートから"NINE"の通知が来てる!?いやまさかこんな僕にお誘いが?一応僕も暇だし…うん!んうん!


 通知欄をプッシュする。トーク画面が出る迄の読み込みはあっと言う間だった。


 ‎(ねーねーながら~)


 このクラスメートは文章をまとめずに言葉を小分けにして送るタイプだ。


 ‎(あした、舛浜の〇〇ランド行きたいんだけどさ)


 まさか…?




 (東京駅)


 …!?









 (の乗り換えめんどいじゃん?もっと太尾から舛浜までのらくな行きかた教えてよ)




 ………




 (渋谷迄東横線。渋谷~新橋迄山手線。新橋~船橋迄横須賀・総武線。船橋~舛浜迄武蔵野・京葉線。)





 (せんばし?ってなに線?)




「あ、車だ。」


 ‎中にいたのは運転手ただ一人。音楽も漏れず、その道をゆっくり通過していっただけだった。私はその子へと私への2つの怒りがじりじりと込み上げて来た。しかし、それもほんの5秒程度のものですぐに収まってしまった。

 因みに、太尾駅は神奈川県横浜市港北区にある駅だ。


 こんなことをしているうちに時計の短針はもう4分の1を切っていた。目覚まし時計のスイッチをセットしてそのまま床に着いた。結局、この日の夜はノートに何一つ書き込まない状態で就寝していた。

結局目覚まし時計は弄らずに就寝した長良くん。この日の彼の動きを見て何か心配になってきました()。

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