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行くぜ!鉄研。  作者: 縫川
2/12

午後。

初めての中学校生活が始まった長良。入学式以来の中学生活初日となるこの日、長良はホームルーム中の自己紹介で「鉄オタ」であることをクラスメートに告白する。

「鉄道が好きなのか…」

 ‎

 近くに座る男子が口にフィルターを通したかのような口調で呟いた。恐らく彼はマスコミが毎日のように流す教えの通りに頭が動いているのだろう。すると、向かいでモヤモヤそうにしていた女子がそっと口を開けた。

 ‎

「東善部って何線?」

「あぁ。相急泉塚線にあるんだけど…知らない?」

「ごめんなさい分からないです。」

 ‎

 ‎出た!相武急行鉄道(通称:相急)を知らない奴!まあ、この学校の立地があれだし僕らはまだ中学生だから今のような一言が出ても当然なのかもしれない。しかし、この「相急を説明すること」は私のみならず歴代の鉄道オタクにとって指折りの難関とされている。いいぞ。そんな難問を受けて立とうではないか。僕の持つ鉄道オタクとしての謎の闘争心が脳内で稲妻の如く燃え広がった。

 ‎

 ‎「えーっと。二方川ってところ分かる?両親が免許を取ったり更新したりするときに降りる駅なんだけど」

 ‎「うーん。帰ったら親に聞いてみるよ。」

 ‎あーこりゃ伝わってねーな。始終点から攻めるか。

 ‎「えーと相武急行鉄道ってのはあの大都会である横浜駅から…ほら、観光地で有名な丹沢山地ってあるじゃない。その近くの蟹川ってところと途中の二方川から分岐して湘港台まで行く路線のことで。」

 ‎「…色々と詳しいね。」

 ‎「で、東善部駅って言うのはその隣の駅なんだよ。」

 ‎「あ!あぁ、なるほどね。」

 ‎

 アレルギーを見せる子・真面目に聞く子・首を傾げる子。この4,5人程度の少人数グループ内で明るい顔を保てていたのは長良のみであった。グループ内での発表が終わるとクラス全体で「他己紹介」が始まった。クラスメートによって「長良浩太」「鉄オタ」「趣味は電車の乗り潰し」と言う情報が瞬く間に伝わった。こうして1, 2限は終了し、その後は学校の設備や担当教員の等が紹介がなされてこの一日が終わった。

 ‎

‎「姿勢を正して。さようなら。」

「さようなら!」

 ‎

 ‎さて、先ほど私が「立地があれだから」と言ったのは何故だろうか。勿論、最寄り駅に「鴨ヶ峰駅」の文字があるがその記載はほぼ釣り文句であり、本当は鴨ヶ峰駅のバスターミナルから特定の系統のバスに乗って20分揺られた先の終点「南森の台」停留所まで行く必要がある。ただ、南森の台停留所から学校の入り口までは徒歩一分程度の距離なのでそこは「不幸中の幸い」である。しかも、先ほどご紹介したルートは単なる「二番手」であり僕の見た限りでは「永山駅から徒歩15分」と言うルートを選択しているクラスメートがほとんどだ。「クラスメート」が少ないことに僕は心配している。

 ‎そうこうしているうちにバスが鴨ヶ峰駅に到着した。車窓から車内に目を移すと先頭にいる乗客がすし詰めになっていた。中程には空気が出来ていたのにだ。一周回った申し訳無さを抱えながら改札を通った。


「あ、長良くん?」

‎「うんそうだけど…あぁ!都築くんか。」


 先ほど話しかけてくれたのはクラスメートの都築くん。話のノリが良くて会う度に仲良くさせて貰った。


「長良ならさ…ほら!電車の音だけで何系なのか分かったりするの?」

「出来るよ。じゃあ目隠ししてみ?」

 ‎

 ‎僕の発言通り、彼は僕の目をしっかり覆った。すると丁度接近放送が流れた。


「間もなく、1番線に電車が参ります。黄色い線までお下がりください。」

 ‎

 ‎奥から聞こえてくる甲高いジョイント音。目の前で「ヴヴヴヴヴ…」と高い唸りを上げるモーター。奴で間違いなかった。

 ‎

‎「8系だろ?」

「えーっと…正解!ホントすげぇな。」

 ‎目隠しを外され車両下部のプレートを見ると、右から「(モハ)82-2」「(モハ)81-2」「(サハ)86-1」と車両番号がしっかり記載されていた。


「どうして分かるの?ふつーに凄くね?」

「まあ、慣れって奴かな…。」


 ‎いや8系のあの音はこいつしか流さないから!分からなきゃ鉄オタとして恥だよ。一般の人には分からないことだろうけど!ほら、ドア開いたじゃん!乗るよ!

 ‎

「そう言えば都築は何が趣味なの?」

「楽器とかもそうだけど身近な音楽とかに神経が行くのよねー。」

‎「じゃああの『お風呂が暖められたあの音』とか『新幹線の安全柵が開く時の音』とか?そう言う類い?」

‎「その通り。昔からピアノをやっていたから絶対音感が自分を阻害するんだ…職業病みたいな?」

「はえ~。」

 ‎

 彼は東善部よりも西にある和泉塚に住んでいるとのことなので僕が先に下車した。

 ‎家に着くといつも通りの母親と弟妹がいる。どういう訳かいつもの自宅が不自然に感じた。



 4月も末となり、いよいよ仮入部期間が始まった。どの学校でも言えることだが生徒数が多ければ運動・文化部共に部の種類が比例する。ここは中高一貫校だから尚更である。僕が志望する文化部をとっても、オーケストラ・理科・合唱・演劇・美術・歴史研究・漫画研究・囲碁将棋・技術工作家庭科とどれをやってもまあ出来そうな物が多かった。しかし、問題は活動日だ。毎週のように土日が潰れるようでは話にならなかった。

 ‎活動日的に当然オーケストラ、演劇部はパス。絵心が無いのと女子率の高さ故に美術・漫画研究部もパス。合唱・囲碁将棋部はあと回しで。結局回ったのが理科・歴史研究・技術工作家庭科部の3つであった。

 ‎まず理科部。確かに入りたい感じはあった。人も多いし専門の教師がいるので活動はかなり円滑に進むことだろう。しかし、「使い捨て」の意識が強いことが私を少し困惑させた。まあまあまあまあ。

 ‎次に歴史研究部。理科とは違い少々手狭な印象である。しかしながら顧問の居ないなかである部員が「ここならスマホやり放題だよ!」と言われたのが残念だった。そもそも俺はケータイ持ってねーし。

 ‎さて、残りの技術工作家庭科部に向かうことになった。

2つの部活を回った長良。次に向かうは技術工作家庭科部となるわけだが果たしてどのような部活なのか。そして「鉄道研究部」の文字が無いまま2回目を迎えたがこれでフラグを回収出来るのか?

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