王女マリアは結婚できない。
マリア・フォルテシモは王女である。頭脳明晰、容姿端麗、総合的に見て人類最高峰の存在だ。明るい性格で社交性も高く、まさにミス・パーフェクト。
しかし、そんな彼女にもある悩みが……
「どうしましょう。また失敗ですわ」
城の中庭。お気に入りのその場所でマリアはため息をついた。
「どうなさいましたマリア様?」
声をかけたのはマリアを幼少期からお世話してきたベテランのメイドだった。
「あのね、ばぁや。またお見合いが駄目になっちゃったの」
「あら、またなんですかマリア様?」
マリアは現在二十五歳。この国の平均的な女性であればすでに第二子が誕生してもおかしくない歳だ。友達や同年代が見せに来る子どもがとても可愛くて、マリア自身にも強い結婚願望がある。
「今年に入ってから七回目ですから……ひと月に一度は失敗なさってますね」
「何がいけないのかしら……花嫁修業は先生から満点を頂いて、お父様からも太鼓判を押して貰えたのに」
美女が物思いにふけっているのは絵になるものである。今も、通りすがりの衛兵がマリアの姿を見て心を撃ち抜かれたのだから。
「ばぁやはついこの間、本当のお婆ちゃんになったのよね? 旦那さんと結婚したときはどうだったの?」
「わたくしですか? ……そうですね。あの頃はまだ魔王もいなくて今とは違いましたからね……。普通にプロポーズをされてそれを受けただけですよ」
「羨ましいわ。今は怖い魔王が手下を率いて攻めて来るんですもの。そのせいで恋愛のあり方も変わってしまったわ」
マリアが産まれる数年前……封印されていた魔族の王、魔王が復活した。
その結果。魔族と人間の泥沼の戦争が始まった。
未だ決着のつかないその争いはマリアに過酷な重荷を背負わせてしまった。
「マリア王女! 御命頂戴する‼︎」
突如、木の上から飛び降りて来たのは角が伸び切っていない若い魔族の青年。万全の状態である城のセキュリティを掻い潜って潜入していたのだ。
「危ない!」
メイドのばぁやが手を伸ばすが、暗殺者として鍛え上げられてきた青年の方が早い。この王女さえいなくなれば王家には後継ぎがいなくなる。愛妻家だったがゆえに亡くなった王妃との間に子どもはマリア一人だけ。
「他に兄弟をもうけなかった父を恨み、王家に産まれたことを呪いながら逝け‼︎」
短剣が美しいマリアの肌を……
「はっ‼︎」
傷つけることは出来なかった。
「な、なんだと……⁉︎」
何があった⁉︎ 確実に命を奪うための必殺の刃が………。
魔族の青年が事態を呑み込めない中、マリアはドレスのスカートをなびかせながらバレリーナのように美しく脚を振り上げる。
「ごきげんよう。そしてーーー」
さようなら。の言葉が耳に届く前に暗殺者は空の彼方へと姿を消した。
「あらあら、だから危ないと声をかけたのに」
何事もないかのように散らかった椅子や割れたティーカップを拾い集めるメイド。
「またやってしまったわ……あの人、かなりカッコよかったのに」
ドレスに付いた土埃を払いながらマリアは呟いた。
いかに容姿端麗であろうと最強の一撃を受けたのだからあの男の顔は原型を残さないほど醜く腫れ上がっているだろう。
マリアの姿に見惚れていた衛兵は顔を真っ青にして侵入者が飛んで行った方へと走って行った。
決して、マリアにビビってしまったわけではないと信じたい。
マリア・フォルテシモは王女である。ミス・パーフェクトと呼ばれている。特に注目すべきはその武力。傾国の美女(物理)とも言われ、取扱要注意の女。
結婚の風習が変わった乱世において、自分より優れた相手と夫婦になるべしという条件は彼女には厳し過ぎた。
中身は純真で卑怯や手抜きという言葉が嫌いなマリアは常に全力でお見合いの場へと挑む。その最後にある腕試しで相手が再起不能になろうとも。
マリア「いつになったら結婚できるのかしら」
父「娘が強すぎワロタ」
婆「いっそ、姫様を戦場に出せば?」
それから数ヶ月。魔族との戦争が終わった城には薬指に指輪をはめたマリアとダンディな魔族の王がいたとか。一生、嫁に頭が上がらない(物理的に)ながらも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし。めでたし。
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