天空神ルシフェル
巨大な氷の大鳥は攻撃を繰り出す素振りもせず、ジッとソフィア達を見つめる。
左右別の色をした大鳥の瞳は、宝石の様に輝きを放っていた。
『フェル、鳥の様子がおしい。とりあえず攻撃は無しだ』
「グォン? (いいの? )」
『うん』
(シェルちゃん、この鳥がお告げの鳥で間違いないの? )
──はい。ですが……
(やはり何かが変、ということか? )
──邪悪な気配がありません……私も困惑しております
(となると、このまま討伐するわけにはいかないか……シェルちゃん、この鳥と会話する事は出来ないか? )
──わかりました。試してみます
シェルは返事をすると同化を解き、氷の大鳥へとヨチヨチ歩き始めた。
近づくシェルに対し、大鳥は頭を下げるとゆっくり嘴を突き出す。
突き出された輝く嘴にシェルは小さな手で触れると、鳥と同調し始めた。
『こんにちは! あたししぇる! とりさんのおなまえおしえてなの! あい! 』
「クルルルルル (私の名はアイシア。はじめまして女神の御使い様)」
『あい! そふぃあおねーさま、とりさんとおはなしできるようなったの! 』
そう言うとソフィアとフェルにこっちこっちと手で招く。それから二人と一匹は大鳥と会話をしはじめた。
『このとりさんはあいしあってなまえなの! あい! 』
「シェルちゃんありがとう。はじめましてアイシア。私はソフィア・ヴィクトール。それでこちらがフェルちゃんだ」
「ヴォン! (よろしくね! )」
「クルルルルル (こちらこそよろしく) 」
挨拶を済ませたソフィア達はさっそく疑問に思っていた事を聞き始めた。
「所で……アイシアは氷結の大地に住まう氷の大鳥で間違いないのだな? 」
「クルル (はい)」
『でもわるいかんじないなの……ほんとうにとりさんなの? 』
すると大鳥は目を閉じ、悲しみを零す様に語り始めた。
「クルルルルル クルルル クルルルルルル……(実は私は元々この姿ではなかったのです。それと言うのも……)」
アイシアはかつて鳥ではなかった。しかし、自分が何者なのかを憶えてはいない。
自分をこの姿に貶めた者についてもだ。
ただその者に告げられた事だけは覚えていた。
「クルルルル クルルル……(ここ氷結の大地に女神の御使いが現れる。その時が私の死する時だと……)」
話しを聞いたソフィアはアイシアに向けて質問をする。
「アイシアよ、すまぬが其方の羽を数枚譲ってもらう事は可能か? 」
アイシアは突然の提案を受け驚くと、青と赤に輝く瞳をソフィアへ向けた。
「クルルルル (えぇ、問題ないですけれど)」
そう答えると巨大な翼を広げ、数回羽ばたく。
──バサッ バサッ
すると、キラキラと輝く羽が数枚大地へと落ちていった。
羽を拾い上げたソフィアは、今度はシェルに対し質問しはじめる。
「シェルちゃん、この羽で問題無さそうか? 」
『あい! これでだいじょうぶなの! 』
「ふむ……」
シェルの返事を聞いたソフィアは羽を見つつ、考え始めた。
あっさりと目的の羽を手に入れたソフィアだったが、先程のアイシアが語った事が引っかかっていたからだ。
「氷の大鳥であるアイシアと戦う事なく、我々は羽を手に入れた。つまり、アイシアの死に関する原因が我々では無いと言う事。ならば何が死の原因──」
何が死の原因なのか? そう言葉にしようとした時であった。氷結の大地に不吉な音がこだました。
──ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン
「シェルちゃんこの鐘の音は!? 」
『そふぃあおねーさま、じゃしんがくるなの! 』
シェルは慌ててソフィアと同化し、光白貝の鎧を現出させる。
『まさか……氷結の大地で邪神と遭遇する事になるとは。フェル! 周辺警戒を! 』
「ヴォンヴォン! (まかせて! )」
ソフィアとフェルが周辺を警戒しはじめると、アイシアが羽を震わせ何かに怯えはじめた。
「クルル……クルル……(ヤツが……ヤツがくる……)」
アイシアが異常に怯え始めた時であった。その頭上から透き通った声が響いたのは。
『私に恐怖するとは失礼なヤツだな。数百年ぶりの再会だと言うのに』
その場に居た者達が一斉に天を仰ぐ。そこには真っ白いローブを着た黒髪の青年が、空よりソフィア達を見下ろしていた。
『アイシアの魔力が神域に触れたのを感じてわざわざ降臨してみれば……女神の使徒が何故ここに居る……あぁ、そうか。大昔に誰かが予言していたな……予言……? 誰か……? 誰だ? 』
黒髪の青年は降臨した理由を述べると、突然自問自答しはじめる。
『ここは……氷結の大地……女神……使徒……私は、私は一体……わからぬ……わからぬぞ……』
その様子を見ていたソフィアは警戒しつつ彼へと話しかけた。
『おい貴様、貴様は一体何者でアイシアに何をした!? 』
『アイシア……? あぁ、鳥の事か。少々邪魔だったもので、氷の鳥にしたのだ。それにしても……使徒風情が生意気な。私を誰と心得る……私は……そうだ、でかした小娘! 私は──』
──私はルシフェル。世界の空を支配する唯一無二の天空神
◇
魔の森にある良所の家へ二匹の竜が降り立った。その為庭で熊肉の料理を食べていた三人は急いで家の中へ避難する。
赤と黒の巨体はギリギリ庭に収まるが、料理がその巨体に押しつぶされてしまった。
その様子を見て、壮年の騎士が竜達へがなり声をあげる。
「おい、ジークフリード! 着地する時は場所を選べ! せっかくの熊肉が台無しじゃねーか! 」
怒鳴るオースロックとは対照的に、グリードとクレイグは穏やかな声でジーク達を迎える。
「気にすんなジーク。むしろ助かったぜぇ」
「ご無事の帰還でなによりです」
オースロックの怒声で不味いと思ったのか、料理を潰したベリアが急いで人化しはじめた。
『ライラおねーちゃん、アタシ何か悪い事しちゃったみたい……』
「ベリアちゃん気にして落ち込まないで──」
気を落とすベリアに対しライラが慰めようとした時、ジークが叫びながら全力で駆けよってくる。
「シャルロットォオオオオオオオオオ! そんな悲しい顔をしないでくれぇえええええええ」
「「「なっ」」」
ベリアが人化した事もさることながら、それに奇声を発して駆け寄るジークの姿を見たオースロック、グリード、クレイグ等は驚きの声を上げる。
今まで寡黙な印象しかない帝国の騎士。その際たる人物の奇行は言葉を詰まらせるのに十分だった。
『ライラおねーちゃん、やっぱり無理ぃ! 』
駆け寄るジークに対し、ベリアは急いでライラの背後に隠れる。ライラの背中を掴んだベリアの体は恐怖でフルフルと震えていた。
「ジークいい加減にしなさい! ベリアちゃんが怯えているでしょう!? 」
ライラの眼前までせまっていたジークは急に足を止めると、四つん這いになり嘆き始める。
「何故だ……何故私はシェルロットに恐怖を与えてしまうんだ……」
溜息をつき、呆れながらその様子を見ていたライラ。
理由をジークへ話そうとした時、側面から聞きなれた老人の声がしはじめる。
「ふぉっふぉっふぉ。不敗のジークとあろう者が童一人に何を取り乱しておるのじゃ。もっと普通に接すれば問題なかろうにのぅ」
「「上皇陛下! 」」
突然現れたディオールドに対し、ジークとライラは驚きつつも駆け寄り跪く。
「ふぉっふぉっふぉ。楽にするが良い。それよりそこの童よ、ここには其方の敵になる者は居ない故安心するが良い」
ライラにくっついて離れないベリアに対し、ディオールドは優しく声をかけるとゆっくり歩み寄る。
そしてその小さな頭を撫でながら話し始めた。
「ほれこの通り余は只の気の良い爺さんじゃて、緊張する必要はないぞ。たとえお主が竜であったとしてもじゃ」
ディオールドの言葉に偽りは無いと感じたベリアは、漸く笑顔を見せて口を開いた。
『お爺さんありがとうなの。アタシはベリア! 竜王の一人娘でお山に住んでいます! 』
「ふぉっふぉっふぉ。まさかドラグーン山脈に住まう竜の王の娘とは思わなんだ。余はディオールド・ラドルア。ベリアとやら、これから宜しくたのむぞい」
『わかった! 』
ディオールドとベリアが仲良く談笑している最中、ライラはその後方に怪しげな人物が居るのを発見した。
「上皇陛下、お話の途中申し訳ありません。その……うしろにいる布に巻かれた御仁は……」
「あぁ、これはヘルダーじゃ」
「ヘルダー様でございますか!? もしや、魔導国で戦闘になり負傷されたのですか!? 」
「たしかに戦闘にはなった。じゃが負傷ではない故安心せよ。それよりもだ、其方らは集めた素材を御使い殿に渡したのかのぅ? 」
その言葉にはっとしたジークとライラは、ディオールドを先導しつつ森の家へと入って行った。
──
───
────
室内に入ると、オースロック達が話しかける前にアコヤが姿を現した。
『私ハアコヤ、ナイト様ノ眷属。オ告ゲノ品々ヲ回収イタシマス』
アコヤの言葉に従いライラとディオールドは、それぞれ古龍の涙と血の雫一滴と言われるグリーディアライトを差し出す。
素材を受け取ったアコヤは静かに吸収すると、二階の寝室へと向かおうとした。だが、ライラが急に呼び止める。
「アコヤ様、少しよろしいでしょうか! 」
『ハイ。夜戦ノ女王ヨ、ドウカシマシタカ? 』
思いもしなかった返事に顔を真っ赤にしたライラであったが、気を取り直して話を進めた。
「あの、アコヤ様。この子の角を治して頂く事は可能でしょうか? 」
ライラに促される様に、角の欠けたベリアが背中からひょっこりと現れる。
『切レタ角ハ持ッテイマスカ? 』
『はい! 持っています! 』
元気良く返事をしたベリアは持っていた角をアコヤに差し出す。
差し出された角を吸収したアコヤは、ベリアの頭に手をかざすとあっという間に修復してみせた。
『すごいです! アタシの角があっという間に治ったの! ライラおねーちゃんみてみて! 』
「よかったですねベリアちゃん。アコヤ様有難うございました」
『アコヤ様、ありがとうございました! 』
『ドウイタシマシテ。夜戦ノ女王ト、竜ノ娘ヨ』
そう言うとアコヤは良所が寝ている二階へと上がって行く。
「夜戦……」
なぜかアコヤに冷やかされるライラは、赤い顔を皆に知られないように冷ますのであった。




