戦いの予兆 不穏な帰路・ドラグーン山脈の死闘
エルフの森にある結界。
その境に居るグリードとクレイグの近くへ二人のエルフが近づいていた。
「パムルぅ、もしかしてあの人達が女王様が言ってた迷い人ぉ? 」
「どうやらそうみたいですねプニル。あら? あの二人どこかで見かけたような」
まだあどけなさが残る二人のエルフがグリード達を視認し、記憶をたどっていく。
「プニル、あの二人は王国の関係者ですよ! 女王様と森へ帰る時に同行していた騎士ですよ! 」
「おいしぃ料理を出してくれたおにーさん? 」
「違います。その方とは別の人ですよ。ともかく敵対者や迷い人ではない様なので直接話してみます」
「ふぁーい」
突如として目の前に現れた幼いエルフに対し、グリード達は別段驚く事もなく話始めた。
「よぅエルフの嬢ちゃん達、久しぶりだな。俺達の事を憶えてるかぁ? 」
「こんにちは王国の騎士さん達。今日はどの様な件で森へ来たのですか? 」
「悪いんだけどよぉ、急な要件で来たんだ。女王様の所まで俺とクレイグを案内してくんねーか? 」
「もしや邪神関連のお話ですか!? 」
「パムルぅ怖いよぉ」
かつて邪神アークの件で長期間帝国に幽閉された経緯があり、必然的に警戒するパムルとプニル。
そんな二人へ安心させるようにクレイグが口を挟んだ。
「安心してください。現時点で邪神がでてくる可能性はありません。ですが重要な案件には違いありませんので、早急にミルレード女王様へ取り次いでもらえませんか? 」
「パムルぅどうするのー? 」
「どうもこうも王国の騎士さんが重要なお話をもってきてるのですよ?……わかりました。今結界に小さな入口を創りますので、そこからこちら側へいらしてください。プニル準備は良い? 」
「ふぁい! 」
プニルとパムルは片手を繋ぎ、残った左右の手をグリード達へと向ける。そして同時に言の葉を述べた。
「「森の扉よ来訪者を誘い給へ」」
するとグリード達の眼前に大人一人が通れる程の扉が現れ、ゆっくりと開かれる。
「おぉ、これで結界の中に行けるわけだな! クレイグいこうぜ! 」
「わかりました」
二人が結界内に入ったのを見届けると、プニルとパムルは開けた扉を閉め、改めて彼らに挨拶をした。
「「ようこそエルフの森へ」」
◇
ドラグーン山脈の奥地に広がる盆地の様な平坦な場所。そこには一匹の巨大な光白竜を中心に何百匹もの様々なドラゴンが待ち受けていた。
その光景に圧倒され、言葉が出ないジークとライラ。
だが予想外にも彼らへ人の言葉がこだました。
『おいそこの黒竜に乗ってる人間共! 何しにアタシらの住処までやってきやがった! 頭が高いんだよ、さっさと降りてこい! 』
圧倒されたと思ったら人の言葉で降りてこいと言う。思考が追い付かない二人だったが、当初の目的が頭を過り口を開いた。
「戦を仕掛けに来たわけではない。古龍の涙が必要故、出向いてきたのだ。用件が済んだらすぐに立ち去る」
「交戦する意思は無いのです。お話を聞いてはくれませんか? 」
ジークとライラの言葉を受けてさらに激昂した声がこだました。
『おい! お前らはアタシの話を聞いてなかったのか!? アタシは降りてこいって言ってんだ! さっさと降りてこい! ん……降りてくる場所が無いのか。お前ら邪魔だ! 』
元々無数の竜で犇めいていた盆地にジーク達が降りる場所は無い。それに気づいた声の主は邪魔だと叫び、次から次へと犇めく竜を投げ飛ばしていく。
何十もの竜が投げ飛ばされ、漸く声の主が姿を見せた。
外見は十歳にも満たない幼子の女児。頭には竜の角が生え、燃えるような赤い髪を靡かせている。
『おい! 場所を作ってやったぞ! さっさと降りてこい! 』
──
───
「……シャルロット。シャルロット! 黒竜よ、急ぎあの者の近くへ! 」
幼子の姿を見たジークフリードは、取り乱しながら叫ぶ。今は亡き最愛の妹の姿がそこにあったからだ。
「ちょっとジーク、おちついて! 」
ライラの制止も聞かず、黒竜へ命令するジークフリード。あっという間に降下すると、黒竜を飛び下り赤毛の幼児へ駆けつける。
「シャルロット! 私だ! 兄のジークだ! シャルロット! 」
常に沈着冷静なジークフリードには考えられない行動。あまりの事にライラも言葉を出せずにいた。
『な、なんだよお前は! おい、離せ! アタシはシャルロットじゃないよ! ちょっと、おいやめろ! 』
ジークは赤毛の女児を両手で掲げると、とびっきりの笑顔でクルクルと回る。
「奇跡だ! あぁ奇跡が起きた! シャルロット、もう離しはしないよ! 」
『アタシの名前はベリアだ! シャルロットじゃないってば! おい、そこの女! この男をどうにかしろ! 』
ベリアと名乗る赤毛の女児はライラに向けて助けを求めた。
「ジークがあんなに取り乱すなんて珍しい事もあるのね」
ライラは呆れつつ、二人の元へ歩み寄る。方や黒竜は、巨大な光白竜へ鋭い眼光を向け唸り声を上げた。
──グルルルルルル(久しぶりですね、王様)
──グルルルルル グルルルルル(グリムか、久しいな。してこれは一体どういう事だ? )
──グゴォルルルル(わかりません)
──グルルルル(そうか)
◇
グリード達はプニルとパムルの二人に先導され、エルフの森深くまでやってきた。
結界内の森は通常の森とは違い、あちこちに小さな転移門が敷設してある。
徒歩での移動ならニ、三日かかる所が、数時間もかからないうちに女王の居るエルフの神殿へとたどりついた。
「女王様、王国の騎士様をお連れしました。重要なお話があるそうです」
「そうです! 」
「プニル、パムル。ご苦労様でした。お二人を神殿内へお連れしてください」
「「はい! 」」
神殿の扉が開かれ、二人は中へと入って行った。
「お久しぶりですねお二人共」
女王ミルレードは笑顔でグリード達を迎え、一礼する。
二人は女王の前に跪き、挨拶を述べた。
「ミルレード女王様。この度突然の来訪をお許しください。つきまして──」
──
───
それから二人はエルフの森へ来た理由を正確に伝えへ、女王からの返答を待った。
返答を待つ二人は心底緊張している。
神樹である世界樹の葉を森の外へ持ち出す事は前例が無い事故、断られる可能性が高かったからだ。
数分の沈黙の後、ミルレードは口を開いた。
「事情はわかりました。女神フィリーア様のお告げと言う事もありますので、特別に一枚の葉を進呈しましょう」
「助かります女王様」
「但、これから言う事を肝に銘じてください。命に係わる事なのでしっかりと聞いてくださいね」
ミルレードは二人へ語り始める。
世界樹はこの世界エレーファの礎であり、始まりの木である
故にエレーファで生きる物にとって母の様な存在である
あらゆる生き物は木や葉に惹かれる
それは魔物でも例外ではなく、結界を離れれば間違いなく引き寄せてしまう
「ですので、エルフの森を出ましたら一刻も早く御使い殿に納めます様約束してください」
「「王国の騎士の誇りにかけて、女王様の約束を守る事を誓います」」
こうしてグリードとクレイグは世界樹の葉を入手し、良所の待つ森へと急ぎ向かう事になった。
◇
──グルルルルルル(グリムよ、其方らがここへ来た理由はなんだ? )
──グルルルルル (……古龍の涙を手に入れる為に来ました。 )
──グゴォルルルル(それがどういう事かわかって申しているのか? )
──グルルルル(女神の神託故、是非もありません。)
──グルルル(そうか。ならば全霊を持って相手をせねばならぬな)
黒竜と光白竜の会話が終わった時、周囲にいたドラゴン達は一斉にその場を離れた。
その事にジークやライラ、そしてドラゴニュートのベリアも気づく。
ライラによってジークから解放されたベリアは、光白竜へ向けて叫んだ。
『おい親父! 代替えの儀をおっぱじめるのか!? いきなりだなおい! 』
「代替えの儀とはどういう事ですか? 」
ベリアはライラの疑問に助けられた恩もあってあっさりと答える。
『ねーちゃんはアタシを助けてくれたからな。特別に教えてやるよ。代替えの儀ってのは竜の王座を巡って争う一騎打ちの事さ! 』
「何故今はじまったのですか!? 私達は戦いに来たわけじゃないのに……ジーク! 黒竜を止めて! 」
「是非も無し」
ライラの要請に対して、ジークはいつもの様に短く答えた。そして黒竜へ駆けつけ同化する。
こうしてドラグーン山脈の奥地にて、狂黒竜と光白竜の激闘がはじまった。




