光白貝の騎士(シェルター)
貝殻は良所内人の顔に小さい両手を当てると、言の葉を口にする。
『神々より賜りし渇望の王』
『王の願いより神域にて生を授かり我は自らに問う』
『王の眷属たる我の望みは如何や』
──我の望み、即ち、王への祝福
『幸あれ』
刹那、神々しい光が貝殻と良所内人を包む。
それは一瞬の出来事であった。
ドラゴンは余りの出来事に現を抜かし、漸く口にする。
『貴様は、貴様は一体何者だ! 』
目の前に現れた者
光白貝の鎧兜を全身に纏い、顔には女神と思われる様な美しいマスク。
ドラゴンは思う。
我は悠久の時を戦い抜いてきた
様々な者達と相対し
天が裂け、地が割れるほどの戦いすら経験している
そして屠ってきた、だが
こやつは異様だ
さっきまで死にかけていた人間とは全くの異質な存在。
我の本能が叫ぶ
速やかに排除せよ、さもなくばその身に訪れるは死
ドラゴンは本能に従い口を大きく開け、全魔力を込めた大業炎を放つ。
──ゴガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
光白貝の騎士は左手を業火にかざすと、一言呟く。
『アコよ、全てを喰らいなさい』
まるで年老いた太陽が、別次元の質量を持つ暗黒星にその全てを吸われる様だった。
膨大な熱エネルギーが、か細い左手に吸い込まれていく。
ドラゴンは遠距離攻撃をすぐさま諦め、己の牙と爪で引き裂こうと突進した。
捨て身の突進だ
ドラゴンはすでに気づいている
戦いの日々が、その経験が気づかせたのだ
このモノを屠ることは適わない
ならば
せめて一撃を
我が生きた証を
その身に刻むまで
──グォオオオオオオオオオオオオオ
ドラゴンは咆哮とも悲鳴ともとれない声を響かせて、間合いを詰める。
だが
その牙も爪も届かない
『舞い踊れ光白錐貝』
光白貝の鎧から無数の錐貝が伸び出でて、ドラゴンの体を貫き拘束する
『グアァアアアア、マダダ、マダダァアアアア』
それでも諦めないドラゴンは暴れ狂う。全身を貫かれ、血しぶきをまき散らしながら。
光白貝の騎士はそんなドラゴンに哀れみも感傷も無く告げる。
『何かを欲するならば相応の対価が必要なのです。貴方はただ欲に飲まれた一匹のトカゲ』
『終わりにしましょう』
──トリダクナ
拘束されたドラゴンを飲み込むように、巨大なシャコ貝が現れ
──クローズ
閉じられた
周辺を静寂が包み込む
光白貝の騎士は虚空を見つめ、呟く。
『神々よ』
『数多の輪廻、その先に我が主の幸いがあるのでしょうか』