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対人恐怖症な俺の異世界リハビリ生活  作者: 春眠桜
それぞれの旅立ち
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それぞれの旅立ち

ジークフリードが任地から帰還し、各々準備が整った日。帝都から全領地へ向けて布令が発せられた。


その布令にラドルア帝国全土が震撼する。


布令の内容は皇帝ディオールド・ラドルア突然の引退及び息子のニューワルド・ラドルアの即位。


それだけではない。軍事面において総司令の職に就いていたヘルダー元帥がその職を解かれ、帝都防衛長官に任じられた。


帝都防衛長官と言えば聞こえはよいが、傍目から見れば閑職へ追いやられ隠居同然の様なものである。



なんの前触れもなく起こったこの一大事件は、諸侯重鎮達に色々な憶測を生じさせた。



──前皇帝派だったヘルダーが新皇帝ニューワルドの不興を買い、代替わりにて左遷されたのではないか? まぁよい。軍備を整えつつ、騒乱に備えるのだ。


──権力闘争で抜きんでたヘルダー元帥を皇室は良く思っていなかったのか。生意気な生え抜き元帥が司令職を解かれた今、次代の軍権を奪取するのは我々だ!


──くっくっく、吉報だ。これで我が侯爵家が権勢を取り戻せる。


──皇帝ディオールド陛下は重病なのではないのか? それで急遽代替わりをしたのやもしれぬ。それにしても……


──邪神の件が片付いた今、ヘルダー元帥を左遷なさるとは……帝国で内乱が起こるぞ。くそっ、やっと平穏な世の中になったのに……



等々、憶測のほとんどは潜在的に帝国内で燻っていた野心を煽り、不穏な空気を蔓延させていく。


だが話題の中心にいる当人達はあっけらかんとしていた。


「父上も大胆な事をなさる。おかげで帝室に弓引く奸臣共を炙り出せるのですが……それにしても突然過ぎますよ」


新皇帝ニューワルドは呆れた様子でディオールドに心情を吐露する。


「余とヘルダー長官は一時的に帝都を離れなければならぬからな。全ては友の為じゃ」


ディオールドは良所の為だけに皇帝の位を息子に渡し、作戦に赴こうとしていたのだ。


「父上と師匠が動くのですか……どれほどの大業をなさろうとしているのですか? 」


ニューワルドは父であるディオールドが引退してまで成し遂げようとする事に興味を持ち質問する。


「なに、たいした事じゃないわい。ふぉっふぉっふぉ。ヘルダー帝都防衛長官よ、そうであろう? 」


「……突然すぎますし、大した事で御座います皇帝陛下。いえ、上皇陛下」


ヘルダー長官は顔に手を当て半ば呆れながら返事をした。


「父上……師匠も呆れているではありませんか。師匠、申し訳ありません」


「ニューワルド皇太子殿下……いえ、ニューワルド皇帝陛下。謝罪に及びませぬ。全ては皇室の繁栄の為でございます。それと……師匠と呼ぶのは控えて頂けませぬか? 色々と不味いのですが……」


ヘルダーを師匠と呼ぶ経緯はここに居る三人にしかわからない。


ディオールドたっての希望で、彼は戦闘における全てをニューワルドが幼少の頃から教育していた。


無論常に数多の戦場に赴くヘルダーだったので、稽古をつける時間は少なかったのだが。


それでも天賦の才というべきか、ニューワルドは戦闘技術から心得までヘルダーの予想を遥かに超える早さで身に着けた。


結果、お忍びでヘルダーに伴い、戦場にて実戦訓練を積み上げた変わり者だ。


当然父であるディオールドは戦場に赴く事へ当初反対していたのだが、身に着けた実力と押しの強さに根負けし、渋々許可を出した経緯がある。


「なにを言われますか師匠! 貴方がいなければ今の私は腑抜けた操り人形になっていたに違いありません! 師匠は私にとって恩人であり、人生の先輩であり、目標なのです! ですから師匠と呼ぶことは止めません! 」


権力を持つ者の宿命か、呼びもしない輩が常につき纏う。ニューワルドはその度にヘルダーによって鍛え上げられた武を持って、様々ないざこざや危機を乗り越えて来た。その事がヘルダーを尊敬する要因になっているのだ。


「あきらめろ長官、今や息子はお主の信奉者じゃ。それとな、余がこの度の禅譲を決めたのは例の件はもちろんじゃが、ニューワルドが皇帝という立場にも耐えれうると判断したからじゃて。誠立派に育ったものよ、ふぉっふぉっふぉ」


「すべては師匠の教えがあってこそです父上! 」


「その通りじゃな息子よ! 」


「あっはっはっはっは」「ふぉっふぉっふぉっふぉふぉ」


 「……」


高らかに笑う二人を見て、言葉の出ないヘルダーであった。




                  ◇



ディオールドとヘルダーを帝都へ残し、ソフィア達はジークの黒竜に乗って森の家までやってきている。


そこで最終確認をソフィアはしていた。


「もう一度確認しよう。情報を精査した結果、一番厄介な氷の鳥討伐には私が直々に出向く。同行者はシェルちゃんとフェル。二人共異存はないか? 」


『ありませんなの! そふぃあおねーさま! 』


「ヴォン! (とうぜんね! )」


元気よく返事をする二人を見て、笑顔で頷くソフィア。なぜかシェルはソフィアおねーちゃんではなく、おねーさまと呼んでいた。


「次にエルフの森へ出向き、世界樹の葉を取ってきてもらうのは……グリードとクレイグ両名だ。二人共頼めるか? 」


「なにいってんだお嬢。俺とクレイグがいりゃ世界の果まで余裕だぜ! 」


「全ては神の食事の為……コホン。ナイト殿の回復の為に全身全霊を持って任に当たりましょう」


ヴィクトール国内における任務故に、楽観視する二人。そんな彼らにソフィアは釘を刺す。


「気を抜くな。エルフの森深くにあると言われる世界樹。その葉を入手してエルフの森の結界を超えた者はこれまで一人もいないのだぞ? 何が起こるかわからない故、二人共気を引き締めろ! 」


「「はっ。了解です殿下! 」」


「宜しい。それでは次の──」


(なぁクレイグ。最近のお嬢雰囲気変わったよな? )


(確かに。以前にも増して御立派に成られた)


(本当に頼もしく見えるのは気のせいか? )


(いや、気のせいではない。底が見えぬ程の尋常じゃない力と覇気を備えているのは間違いない)


(だよな。俺達も負けてられないなクレイグ! )


(あぁ。修行あるのみだ)


「そこっ! 私語は慎め。まだ確認している最中だぞ」


「「失礼しましたっ! 」」


尋常ならざる眼力であのグリードとクレイグを制するソフィア。そんな様子を見たオースロックは驚きを隠せなかった。


(たいしたもんだ……お嬢は俺の知らぬ間に本当の将軍になっちまいやがった)


「それでだ。古龍の涙についてだが……ライラとジーク、其方ら両名で任について頂けるか? 」


ソフィアの言葉にジークフリードは静かに返答する。


「承知」


それに続きライラも返事をするのだが。


「賜りましたソフィアお姉様。このライラ、全てはナイト様、そしてお姉様の為任務を完遂する事を誓約いたします」


「二人共宜しく頼む」


ライラは明らかにおかしい返事をした。ソフィアとライラは無論姉妹ではない。にもかかわらずソフィアをお姉様と呼び、ソフィア自身その事を許容しているのだ。


「そして最後に。最も重要な任務であるこの森の家の防衛を……オースロック、頼めるか? 」


森の家の防衛。一見ただの留守番に聞こえる。


だが、そんな生易しいものではない。


各自が帰還するまで森の家を守ると言う事は、良所の死守を意味する。


ただでさえ魔物が闊歩する森。それに以前にもあったドラゴンの襲来。


それだけではない。邪神関連の危険が無いとは言い切れないのだ。


事前にそれらの情報を伝えられたオースロックは、戦場に赴く気構えで返答する。


「了解した。殿下の命に従い、このオースロック命を賭してナイト殿を守ります」


「オースロック……まかせたぞ」


「ははっ」


一通り説明を終え、役割を決めたソフィアは各自にある物を渡し、皆それを身に着けた。


そしてシェルと同化し転移門を出したのだが異変が起きる。


『シェルちゃん、門が機能してないぞ!? これはどういう事だ? 』


──申し訳ありませんソフィアお姉様。先日の大蛸退治にて力場がずれてしまい、影響が出ているみたいです……


『なんともならないのか? 』


──はい。至らないシェルをお許しください。それとお仕置きはご容赦頂きたく……


『それは無い故安心しなさいシェルちゃん。皆みての通りだ。転移門は機能しない故、これから言う通り行動してくれ』


ソフィアは次の様に指示を出した。


ジークフリードは黒竜と共にライラ、グリード、クレイグの三名を乗せ、エルフの森の入り口まで移動する。


そこでグリード、クレイグを下した後、ライラと共に古龍の居るであろうドラグーン山脈へ赴き任務を遂行する。


「ソフィアお姉様はどうなさるのですか」


疑問に思ったライラはソフィアに質問する。と同時にフェルが雄たけびを上げた。


──グォーーーーーーーーーーン!


『と言う訳だ。ライラ安心してくれ、私達はフェルちゃんに乗り、まずは港町ソローへ赴く。そこで其方から預かった氷の羅針盤を使って氷結の大地を目指す』


ライラから預かった氷の羅針盤。これはフリージュアにある古の祠から発見され、リード商会会頭のリード・ラッセルによって保管されていた物である。


氷の大鳥に何かしら関係があると思ったライラはソフィアに渡していたのだ。


「わかりました。ソフィアお姉様、御武運を」


『うむ。では参ろうか! 』


──おぉ!


こうしてソフィア達はそれぞれの赴く場所へ向かって行った。


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