表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
対人恐怖症な俺の異世界リハビリ生活  作者: 春眠桜
異世界エレーファ漫遊編
79/123

若さ故の暴走


別邸に着くと俺はシェルと同化し門を出した。そして帝都にあるヘルダー元帥の館へと向かった。用件はもちろんフリージュア家の事である。


慌てて止める二人を強引に説き伏せた後の強行であったのだが。


門をくぐった俺達はヘルダー元帥の気配を探り、彼が執務室に居る事がわかると扉をそっと開けて中を覗く。


だがそこにはヘルダー元帥の姿が無い。目に映るのは机に積み上げられた書類の山だけだ。


「ライラが欠けるとこうも書類が溜まる物なのか……」


書類の山の向こう側から聞き覚えのある声がする。ヘルダー元帥その人だ。


彼は日頃から政務に追われてるらしく書類の山と格闘していた。


いきなり声を掛けたら良い反応が見られそうだな。


そう思った俺は気配を完全に消しつつ書類の山へと忍び寄り、時を見計らって声をだした。



『鎌おじさんこんにちわ』


「うわぁああああ」



驚きの声と共に書類の山が崩れる。勝手知ったる自宅の執務室で完全に気を許していたヘルダー元帥は、相当慌てふためいたらしく椅子からひっくり返ったみたいだ。



『お忙しそうですが、少しお時間宜しいですか? 』


「ナイト殿……現れる時はもっとマシな現れ方をしてくれ。とんでもない醜態を見せてしまった」


『内緒にしておきますからご安心ください。所で──』


「あぁ。またもや火急の要件で来たのであろう? とりあえずそこの長椅子に腰掛けてくれ」


それから俺達はフリージュア家の現状についてヘルダーに報告しはじめた。


──


───


「ふむ。相変わらず厄介事の渦中にいるのが趣味みたいだな」


『そんな趣味は持ち合わせておりませんよ』


「して、ライラと母君のレイラ婦人は無事なのか? 」


『現在別邸にて保護しております』


「ならば話が早い。陛下に上奏する故、その間一時的にレイラ婦人を我が館にて保護しよう」


『その後は? 』


「陛下からお墨付きを頂ければ帝国内に居る限り安全は保障される」


なるほど。最高権力者から身の安全を保障されればうかつに手も出せないと。


ついでにお願いしてみようかな?


『お手数ですがフリージュア領主宛に俺の事について布令をだしてはいただけませんか? 領主が何も知らない状態だと暴走しかねないので。でもまぁその時は滅ぼすだけですけど』


「前にも言ったが……ナイト殿、くれぐれも無茶をするな。早急に陛下へ上奏する故、レイラ婦人とライラを館まで連れて来てくれ」


『ありがとうございます。さっそく二人を連れてまいります』


ヘルダー元帥は話を終えると机上にある鈴を鳴らしメイドのミリアさんを呼ぶ。


そして事の次第を告げると足早に皇宮へ向かった。


俺達はミリアさんに挨拶を済ますと門をくぐり、すぐに二人を連れて再び現れる。


「お久しぶりですレイラ様」


「久しぶりねミリアさん。色々と迷惑を掛けてしまうけれど宜しくお願いしますね」


どうやらレイラさんとミリアさんは顔見知りみたいだな。随分と親し気に会話をしている。


「ではナイト様、レイラ様は私の方でお世話をさせて頂きますのでご安心下さい」


ミリアさんがそう言い、一礼するとレイラさんを伴って執務室を後にした。


『これで暫くは安心ですねライラさん』


「本当にナイト様は強引なんですね。ですが……本当にありがとうございました。これでお母様も救われます……」


一安心出来たのか、気丈なライラさんが涙を零した。俺は慌ててハンカチを創り出し、涙を拭いながら話しかける。


『大好きな人の家族の悩みです。解決して良かったですよ』


話の流れで物凄く直球な告白をしてしまった。これはどうするべきか……うーん、わからん!


俺は恥ずかしくなって話を変えようとしたのだが、顔を真っ赤にしたライラさんが抱き着いてきた。


「ナイト様本当にありがとうございます……」


『あ、あの。ライラさん。流れで告白みたいな事をしちゃったのですが……一応返事を頂けますか? 』


実に無粋な質問をした俺だが後悔は無い。しっかりと気持ちを言葉で聞きたかったからである。


「……はい。私も……ライラもナイト様をお慕いしております……」


想いが重なった俺達は互いに目を合わせ瞑る。そして唇を重ねようとした時、執務室の扉が慌ただしく開いた。


開かれた扉から二人のご婦人が転がり込んでくる。


「もう! レイラ様ったら押さないでください! 今良い所なんですよ! 」


「どう言う事ですのミリア? 自分だけ楽しもうったってそうはいかないわ! 」


驚きのあまりライラと共に扉の先へ視線を向ける。


そこには床に寝転ぶミリアさんと覆いかぶさるレイラさんが言い合いをしていた。


「「あっ」」


俺達の視線に気づいた二人は間の抜けた声を出し固まるのだが、こっちはこっちで恥ずかしすぎる。


何とも言えない空気に耐えきれなかった俺達は慌てて門をくぐり、とりあえず森の家へと逃げだしたのであった。




                  ◇




「ライラさん、さっきはごめんね。ちょっとびっくりしちゃって思わず連れ出しちゃった」


「とんでもないです! こちらこそお母様が粗相をしまして……すみません……」


フリージュア家の晩餐でろくな食事もしていなかった俺達は、テーブルを囲って楽しく食事をしていた。


「いえいえ。レイラさんが思ってた以上にお茶目な方と知れて嬉しかったですよ」


「ヘルダー様のお屋敷に居るミリアさんとお母様は長い付き合いがありまして……はしゃいでしまったみたいです。お恥ずかしい……」


「気にしすぎですよ。逆にはしゃげる程心に余裕が生まれたと思えばうれしいじゃないですか」


「うふふ。そうですね、ナイト様の仰る通りです」


楽しく会話をしている俺達に同化を解除したシェルがハンバーグを頬張りつつ話しかけて来た。


『ないとー』


「ん? どうしたシェル」


『らいらおねーちゃんとちゅうのつづきしないの? 』


おいシェルよ。俺はそんなおませな子に育てた覚えは無いぞ?


「シェル。ハンバーグもっとたべたくないか? 」


『たくさんたべる! あい! 』


ふっ、伊達に長い付き合いじゃない。シェルの話を逸らす事など朝飯前ならぬハンバーグ前なのだ。


そして俺は無粋なシェルの質問を聞かされたライラさんへのフォローも欠かさない。


意外とお酒がいける口のライラさんへお洒落なカクテルを創り差し出す。甘めのカクテル、名付けてキドすぺしゃるだ。


「ライラさんいきなり変な質問をして御免ね。お酒も色々創れますし、ゆっくりくつろいでください」


「──なのですか? 」


ん? なんだ? 俺の言葉にライラさんの言葉が重なってよく聞こえなかったぞ?


「御免ライラさん。今何て言いました? 言葉が被って良く聞こえなかったのです──」


「──たくないのですか? 」


たくないのですか? たくない? ええ、今宅内ですけれど。


言葉が読み取れずキョトンとしている俺に焦れたのか、ライラさんは大きな声を出して迫ってきた。


「ナイト様はしたくないのですか!? 」


「え、えー!? 」


随分と積極的になったライラさん。やはり十八歳という若さは抑えきれないみたいだ。


「そりゃ当然したいですよ。只、今は食事中で──」


俺が食事中だと諫めだした時、すっかりハンバーグを平らげたシェルが高い声を出した。


『じれったいなの! 』


言葉を発した後、シェルはライラさんに抱き着き強制同化する。


何をする気だシェル。


『あぁああああああああ』


同化したライラさんは急に妖艶な声を上げ床に倒れ込んだ。


「ちょっと! 大丈夫ですかライラさん!? 」


あせった俺は急いで駆け寄り、ライラさんを介抱しながら声を掛ける。突然の事だったので気が気じゃない。


そんな俺の心配を他所にライラさんはゆっくりと俺の首へ両手をまわし、しっかりと掴むと口を耳元へ近づけ囁き始める。


『うふふ。ナイト様……捕まえましたよ』


直後、彼女は強引に口付けをし始めた。


もうこうなったら勝負するしかないじゃないか。残弾に若干の不安があるが致し方ない。


俺は覚悟を決め口付けをしながらライラさんを抱きかかえると、二階の寝室へと向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ