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愚かな魔手

「ええい、ウィリスらから詫びの使者はまだ来ぬのか」


広大なウィリアム領の中心にある巨大な屋敷から怒号が響く。


ベルーラは日が経つにつれて苛立ちが募っていた。


それもそのはず、ひと月もしないうちに王室派が音を上げ和解の使者を立てると思っていたからだ。


それが使者はおろか書状の一つも寄こしてこない。密偵達からの報告によると流通封鎖による混乱すら起きてないと言うではないか。


「一体何が起きているというのだ」


ベルーラの焦りと苛立ちの矛先は、この件を提案したジルド伯爵はもちろんのことその配下でもあるドンド男爵まで波及していた。


「侯爵閣下、この状況は私にも予想外でございまして……」


苦虫を噛み締める様にベルーラへ取り繕うジルド。


だがそんな物は関係無いとベルーラが激怒する。


「貴様の策であるぞ。このままではこちらが笑いものになるではないか。それだけではない、穀物の流通を止めた故、収入が激減しておる。さらには何故か岩塩の収入すら減っていると聞くではないか」


「も、申し訳ございませぬ」


そんな二人のやり取りを相も変らぬ不遜な態度で割り込む男がいた。


「父上、だから申し上げていた通り実力を持って思い知らせばよかったのです。ジルドごときの浅知恵を真に受けて結局このザマ、今からでも遅くはないでしょう」


ベルーラの息子であり、跡取りのカイン・ウィリアムである。


「カインよ、実力行使とはどの様な考えを持っておるのだ? 」


さすがにこの状況では沽券にかかわると思ったのか、浅はかな行動しかとれない息子の策を聞こうとする。


「盗賊に成りすまして王室派の物流を混乱に落とせばいいのです。ついでに村々を焼き払えば生産力も落とせましょう」


「なるほど。このまま手をこまねいているより遥かに良いわ。カインよ、其方にまかせる。だが王室派のやつらに気取られるなよ」


「当然ですよ父上。ではさっそく準備に取り掛かります」


こうしてカイン・ウィリアムを中心に、事態が動こうとしていた。




                  ◇




「しっかしあいつら動かないなぁ」


俺はベルーラって貴族達が動くまでの間、暇を潰していた。


今いる場所は王都ではない。ドーファの森を東へ抜けた場所にある中立派の領地エルフィリアに居る。


なぜ王室派ではない中立派の領地にいるかというと、いくつかの理由がある。


主な理由はドーファの森に居た魔物を殲滅させたことにより、お隣のエルフィリア領主ダーインズ・オットーが勘違いをして天変の前触れだと王室へ急ぎ報告をしてきた事だ。


これに対し、当事者の俺が説明をするという立場でエルフィリア入りをした。


二つ目の理由は俺の女性問題である。ソフィアに連行され、精気を根こそぎ搾り取られた後の出来事だ。


俺は国王一家と王室派の書面を見つつ話し合いをした。


内容は各諸侯がいたく俺を気に入ってる事、そして彼らの娘を嫁としたいので正式に俺を紹介してほしいと多数綴られていた。


俺は即、ソフィアの婿だから全て断りを入れてくれと国王に言ったのだが、色々と面倒になるらしい。


正式にソフィアと結婚をする旨を諸侯に対し公に発表したとしても、側室としての打診が数多に上るのは確実で、へたに公に出来ないらしい。


そこで一つ目の理由をこれ幸いにおもった国王は、ほとぼりが冷めるまで俺をエルフィリアへ向かわせたのだ。


そして三つ目の理由。俺にとってはこれが最重要だった。


ベルーラの企みを知った俺は経済的にやり返したが、どう考えてもそれで諦める様なヤツではない。ああいう傲慢で我欲の強いヤツは必ず行動を起こすと思っていた。


そんなヤツが流通封鎖を打ち破られたら何をするか。そう、こちらの流通経路を襲ったり、近隣の村を襲ったりする実力行使にでるであろう。


俺はそれを待っていた。確実な証拠があれば、心置きなく潰せるからだ。


だからこそ、ベルーラの本拠地であるウィリアム領に一番近いここエルフィリアに来た。


あえて不満を言うならば、俺は一人で滞在してるわけではない事だ。


「ところで君たち、どうしてここにいるの? 」


飽きれた様子でついてきた人達に話しかける。


「ダッハッハ。そりゃアレよ、お嬢の警護にゃ俺達が必要だからな! 」


「殿下の警護は最重要の任務にて当然です」


ハラペココンビもとい、グリード・クレイグはさも当然の様に返答する。


「なぁ、ソフィア。新婚旅行じゃないんだぞ?対峙する敵を殲滅させる為に来てるんだぞ? 」


「あらやだ、新婚旅行だなんて……ナイト大好きよ」


話を聞きなさい、話を。最近緊張感が無くなってる気がするんだよねこの人たち。



俺はエルフィリア領主ダーインズとの面会を終え、領土の一部を間借りさせてもらっている。


天変地異の前触れではなく、俺自身が魔物を殲滅させた事と森の主のフェンリルであるフェルをみせた事でダーインズは殊の外喜んだ。


その際にウィリアム領に一番近い土地を借りたのだった。


そこに拠点を創り上げたのだが……



『ないとはんばーぐおかわり! あい! 』


「グォン! グォン! 」(私も! 私も! )


「にーちゃんもっと強い酒のもーぜぇ! 」


「あぁ神よ、今宵も感謝致します。私に再び神々の晩餐をお与えしていただいた事を心から──」


「はいナイト、あーんして」



この様である。


別にあれですよ。一人気ままにエルフィリアの観光をしつつ、酒場に繰り出しておねー様方と懇意を通じるとか思ってたわけじゃないっすよ。


ちゃんと馬鹿貴族の動きを監視する目的で来たんですよ。本当ですって。


でもまぁ勝手知ったるなんとやらってヤツですか、不思議と居心地は悪くない。


「しっかしナイトのにーちゃんよぉ、ほんとは一人で来たかったんじゃねーのか? 」


「あぁ? 何言ってんだよグリード」


「こないだ羽目外してたにーちゃんはすげー楽しんでたからよぉ! エルザのヤツに引っ張られて店でてったときは傑作だったぜぇ! 」


「あ、馬鹿! 」


おいグリード。貴様時と場所を弁えろって! 何余計な事をいってんだよ、その件でこないだ大変な事になったんだぞ。


「グリード、詳しく聞きたいわね」


ソフィアさん、俺の襟首掴みながら笑顔で青筋を立てるのやめてください。


「あぁ、じょ、冗談だよお嬢。早とちりすんなよ。な、なぁ? ナイトのにーちゃん」


「ふーん、ナイト。後でたっぷりお話しましょうね? 」


「はい」


グリードお前当分メシ出してあげないからな。腹減ったらエルフィリアの町でくってこいよ。



                  ◇



良所達がエルフィリアに滞在していた頃、ベルーラの息子カインが子飼の傭兵団を引き連れてウィリアム領を出発しようとしていた。


「お前たち、話をした通りだ! 近隣の村を焼き払いつつ、街道を行きかう商隊をかたっぱしから襲え! 」


──へい


「配った黒いローブを頭からしっかりかぶれ、身元がバレれば面倒になる。まぁ貴様らは身元など元から無いようなものだが。クックック、ハッハッハッハッハ」


高笑いをすると、傭兵団へ向けて最後の激を飛ばす。


「いいか、あの高飛車な小娘を窮地に落とすぞ。奪え、燃やせ、そして殺し尽くせ! 」


──ウォオオオオオオオオ


カインを先頭に、真っ黒のローブを身にまとった一団は手始めに近隣の村へと出撃していった。


月には雲がかかり闇は一層深くなる。



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