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家族との合流 遊びの代償

どれだけ酒を飲んだのか、いつ宴会が終わったのか全く記憶にない朝。


俺は二日酔いの怠さとともに目を覚ます。


おはようございます、きどないと、です。どうやらここは城下町のはずれにある宿屋の一室みたいだ。


ベッドの側にはフェルが気持ちよさそうに寝ている。あれ、ベッドで寝てなかったのか。


ならこの温もりは一体何だ。まさか……


そう思った俺は温もりのする方向へ視線を向ける。


健康的に日焼けした肌、肩までかかった黒い髪、そしてこのデカく目に入る胸……まさか。


俺の隣でスヤスヤ寝息をたてる女性、間違いなくCランク冒険者ミルザだった。


「やっちまった……」


間違いなくやってしまった。


とにかくこのままじゃ不味い、そう思った俺はアコに体内に残るアルコールを吸わせると確認を取った。


「なぁアコ。昨日の出来事おしえてくれません? 」


──ホントウニタフデスネ。アキレマシタ


まじか……。こうなったら本人が起きてから直接話を聞こう。


俺はそう思いつつ、起こさないように朝食の準備をしはじめた。




                   ◇



ソフィアは王都に向けて昼夜問わず走り続けていた。


普通の馬なら潰れてしまう強行軍。


だが、ソフィアはシェルの力を借りて強制的に馬を回復させつつ走り続ける。


──胸騒ぎがする


昨晩から異常な胸騒ぎがするのだ。


見慣れた風景がソフィアの逸る気持ちを加速させる。


普段はおとなしいナイトが、酒が過ぎると好色男に変貌する。その事を身をもって知っていたソフィアは、いてもたってもいられないのだ。


「あ、ソフィア殿下だ! 」


「え、嘘。こんな早朝にソフィア殿下が居るはず……あ、ほんとだわ」


街道沿いに住まう村の住民達が、疾走するソフィアの姿を見て口々に驚きの声を上げる。


──あと少しで王都に到着する


ソフィアはそんな彼らにかまう余裕も無く、表情を引き締めて手綱を握り駆けつづけた。




                   ◇



「おはようナイト……」


色気を含む挨拶がベットから聞こえる。


「あぁ、おはよう」


「グォン! 」


俺とフェルはその声の主へ挨拶を返した。ミルザが漸く起きたのだ。


「調子はどうだ? 朝食用意したからよかったら食べてくれ」


暖かいコーヒーを差し出しながら朝食を勧める。


「あらありがとう、いただくわ。それにしても……」


嬉しそうにコーヒーを受け取ったミルザは、それを口にしつつ俺に話続ける。


「それにしても? 」


「貴方、本当にタフな男ね。昨晩あれだけしたのに、アタシより先に起きて朝食を用意するって信じられないわ」


「それって褒めてるのか? 」


「うふふ、馬鹿にしてる様に聞こえる? 」

 

「いや……なんでもない」


あんだけしたってどんだけだよ。とにかくこの状況を乗り越えなければ。


俺は心を隠すように、窓から見える城下町へ視線を移す。


そんな行動に何かを察したのか、ミルザは優しい声で喋り始めた。


「何も心配する事なんてないわ……アタシは貴方を縛らないし、迷惑を掛けるつもりも無い」


「どう言う意味だ? 」


視線を変えないまま、俺はミルザに問いかける。


「さぁ……想像にまかせるわ。貴方がよければだけど……たまにアタシを構ってくれると嬉しいだけよ」


「機会があったらな」


俺は短く答え宿代をテーブルに置くとフェルと共に宿を離れる。その時のミルザの表情を見る事は無かった。



                   ◇



場所は変わって王城の一室。国王ウィリスは王太子フレイと共に現状の確認をしていた。


良所が行った領地改革の成果、そして諸侯の反応が記載してある各書簡を広げて。


「父上、まさかこの短期間でこれ程の成果がでるとは」


「うむ。まさしく女神の御使いが成せる業だ」


書簡に記載してあった内容は、その場しのぎの開拓事業報告ではなかった。秋の収穫を迎えた後にも安定するであろう配慮が伺われる。


それだけではなかった。王室派の諸侯は皆感謝と共に良所を正式に紹介してくれと言ってきてるのだ。


暗に娘の婿にしたいので、王室から紹介してほしいとの事。


これは不味い。良所は王族でも正式な臣下でもない。


現状ソフィアの婿として認めているが、諸侯らには良所の名前を公式に発表していない手前断りづらいのだ。


発表したとしても、第二、第三の妃として嫁入りの嘆願が殺到する事は間違いない。


「これは色々と困りましたね父上……」


王太子フレイは真剣に悩む。


「ううむ、まさか諸侯らがここまで婿殿を気に入るとは」


国王ウィリスも予想外の事態に頭を痛めていた。


「ナイト殿に相談するにしても、それを受けるとは到底思えません」


「そうだな。とにかくソフィアが戻ってきたら婿殿を交えて話し合おう。ここで我らが悩んでいても何も解決はしない」


良所の女性問題を一旦棚上げしたウィリス・フレイ親子は、秋の収穫後に増えるであろう穀物の流通対策を練るのであった。




                  ◇



城下町を出てすぐにある草原の丘に俺とフェルは寝そべっていた。


「フェル、お前に言うのもなんだけど俺またやっちまったよ」


「グゥン? 」


フェルはどうしたの?と言わんばかりに尻尾を振りながら答える。


「どうしても酒が入ると盛っちまうんだよな。日本にいた頃なんてED同然だったのに。この世界に来てから心や体が変化してるんだよ」


そう。身体能力は勿論なんだが、性欲までも強くなっているんだ。


「いくら一夫多妻制がこの世界の常識っていってもソフィアに対して後ろめたさが残るんだよね」


俺はぼんやり空に流れる雲をみながらぼやく。


そんな俺に対して不意に話しかけてくる人物が現れた。


『私の所に帰ってくれれば問題はないぞ? 』


声がした方向へ顔を向ける俺。


「な、ソフィア。いつからそこにいたんだ?気配すら感じなかったぞ」


シェルと同化しているソフィアが真後ろに居た。どうやら転移門を使ったらしい。


『ふふふ、驚いたか? ナイトを探して王室派の領土を回っていたのだ。だが、どこにもナイトは滞在していなかったので急いで王都まで戻ってきたのだ』


「俺を探してって。戻るって知ってるのになんでだ? 」


『こういう理由よ』


ソフィアはそう告げ愛馬から降りると、俺に飛びつき口付けをする。


──


───


────


おいソフィア。自分から口付けしといてなぜ真っ赤になって下を向くんだ。


「何かあったのか? 」


突拍子もないソフィアの行動に俺は尋ねる。


『謝りたかったの。会いたかったの』


子供か。でも元気になってくれてほっとしたよ。父親ソックリで責任感が強いからなこの子は。


苦笑いをしつつ俺はソフィアを抱きしめ、耳元でささやく。


「ありがとう、そしてただいま」


『おかえりなさい』


再び口付けをしようとすると、私を紹介しなさいといわんばかりにフェルが間に割って入ってきた。


「グォン! グォン! 」


『これは……もしや伝説に聞くフェンリルではないか』


特徴的な漆黒の毛並み、そしてオオカミの王としての風格がソフィアにそう思わせる。


「そうだよソフィア、紹介する。名前はフェル、俺達の新しい家族だ」


「グォン! 」


そう挨拶するフェルに優しい顔を向けるソフィア。同時にソフィアの同化が解かれた。


『あたしはしぇる! ふぇるちゃんよろしくなの! あい! 』


「私はソフィア。よろしくねフェル」


「グォン! グォン! 」


フェルは尻尾を振りながら抱き着いたシェルを乗せて俺達の周りを走る。


「かわいいだろ? 仲良くしてやってくれ」


「もちろんよ、私達の大切な家族ですもの。ところでナイト」


「うん? 」


幸せな空気にピリっとした緊張感が張り詰める。


「帰ってくれば良いってさっき言ったけど、それだけじゃやっぱダメ」


「どういう事ですか、ソフィアさん」


プレッシャーが凄い、おもわず敬語になっちゃったよ。


「もし他の女性を抱いたのなら、その倍私を抱いて。一番愛されるのは私じゃなきゃ嫌」


「倍ですか……」


そんな問答をしていると、不意にアコが珍しく声を出した


『タイヘンデスネマスター。ニジュッカイモイトナミヲスルナンテ』


おいアコ。なにソフィアにちくってんだよ。さすがに二十回は一辺に出来ません、助けてくださいソフィアさん。


「良い事を聞いたわ、ありがとうアコさん。さぁナイト、おうちへ帰りましょう」


『イエイエ』


「はい……」


こうして俺達はソフィアに連行されるように城内にある寝床へと向かったのであった。


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