はじめまして
淡く白い光が空間を照らしていた。貝殻の中だ。
なんで寝て……あぁ、そうか。俺神様の独り言を聞いてたんだっけ。
それより刺された腹はどうなったんだ。あれ?
穴は開いてない、痛みも無い。
とりあえず確認しないといけないことが多々ある。
まずは貝、お前だ。
「おい貝殻、聞こえてるんだろ?お前に聞きたいことが山ほどある」
……
反応は無いけど俺は問い続けるぞ。ゴメンナサイを言わせるまでな!
「喋らなくていい、むしろ喋るな。対人恐怖症の俺は声を聴くだけで吐く。体が震える、恐怖で気が狂いそうになる。そこで、だ。触手を一本だせ。話はそれからだ」
……にゅる
やればできるじゃないか。天井から大きさ控えめの触手が垂れ下がってきた。
さぁ尋問開始だ。
「初めに重要な事を聞く。お前は俺の敵か? 味方か? 敵なら左右に揺れろ、味方ならそのまま動くな。さぁどうなんだ? 」
……
動かない。味方ってことでいいのか。
「味方ってことでいいんだな?ならなぜ刺した? 敵じゃないけどエサって事なのか? エサって事なら揺らせ、そうじゃなきゃ動くな」
……
動かない、か。エサでもないんだな。きどちゃんちょっと安心したぞ。
ならなぜ刺したんだ? うーん。
しばらく沈黙する俺と触手。そんな中俺はある変化に気付く。体の表面をあったかいナニかが流動しているんだ。漫画や小説によく書かれるオーラってやつか?
ついでだ、貝に聞いてみるか。敵や捕食者じゃないんだし、さんづけしよう。
「貝さんよ、ちょっと教えてほしいんだがいいかい? 貝だけに」
……
ダジャレがいけなかったのか!? コイツ無反応だよ。きどちゃんまたもや顔真っ赤だよ、恥ずかしすぎるだろ!
「貝さんスミマセンでした。教えてほしい事があるのですがよろしいでしょうか? よければ揺れて──」
謝っちゃったよ、貝さんにゴメンナサイさせる以前に謝っちゃったよ!
──すると垂れ下がっていた触手がポトリと落ちて、発光しながら形を変えていった
な、何。え、ダジャレがいけなかったの!? どーしたの貝さん、怒ったんならきどちゃん謝るよ。精一杯謝るよ!
めっちゃ光っとる。なにがおこるんだ
しばらくして光がおさまり、目の前に一人の幼子が現れた。
──巻貝を帽子代わりにかぶり
ホタテ貝のようなワンピースに身を包み
くりっくりの目で俺を凝視している──
俺は固まっていた
不思議と恐怖感はない。嘘だろ、普段なら慌てふためくのに。
意を決して俺は口を開いた。
「キミは貝さん、でしゅか? 」
かんだ。引きこもりの弊害が炸裂した。齢30過ぎのおっさんが目の前にいる幼子風の貝さんにでしゅか?って、耳も顔も真っ赤だよ。
──コクリ
巻貝帽子のついた小さな頭が返事をする。
おぉぉおおお。コミュニケーション、いっつあコミュニケーション。何年振りだろう、あぁ……
歓喜した俺を他所に一瞬悪寒を感じた。
──ゾクリ
ふと我にかえる
ってまてよ、まてまて。何か大事な事を忘れてる気がする。なんだ、えーと、えーと
あ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
思い、出した。
──ユニークスキル──
壊れかけた魂(呪)LV1
生物に対し直接交流を計ろうとすると生命が削られる
削られた生命に対しLV相当の苦痛上昇効果
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい
このままだと、きどちゃんがやばい
きどちゃんの命がやばい
やばい
慌てる俺を見上げながら
幼子貝さんは、左手の人刺し指を口元にさしつつ右手をピコピコ上下に振っている。
その仕草に気付いた俺だがそれどころじゃない。むしろ会話をしたら即死すらありえる。
しかめっ面で首を左右に振る俺
お構いなしに喋らせろアピールをする貝さん
だめだって貝さん。きどちゃん死にたくない、死にたくなぁああああい
痺れをきらせたのか幼子貝さんが俺の鳩尾めがけて突っ込んできた。
──ぐはっ
うそだろ、こんな小さな体になんて力を秘めてんだ。
相変わらずの仕草のまま、キッっと俺を睨む貝さん。
わ、わかった。物理で死ぬなら喋って死のう。
「貝さん、喋っていいよ」
甲高い声が耳に刺さる。
『プハ~、もう! 主様! おそい! 』
「はじめまして、だな。呪いですぐにサヨナラだとおもうけど自己紹介だけでもしよう。俺の名前は、ないと。きど ないと、だ。貝さん、君の名前は? 」
『アタシは貝殻! 主様の因子より生まれた眷属、貝殻! 』
「あぁ、スキル名が名前なのか、短い間だけどよろしくな。あと様付とからしくないから【ないと】か【きどちゃん】でよんでくれ」
『あい! ナイト~! 』
「おー! 」
『ないとー! 』
「おー! 」
『ないとー! 』
「さすがにしつこい! 」
『ごめんなしゃい……』
そんなやり取りをして俺は笑った。何年ぶりだろう、他人と交流して笑ったのは。
呪いの効果で死ぬ危険があるのに。
「あぁそうだシェル、死ぬ前に色々聞きたいんだ。良いかい? 」
『しぇる? 』
「あぁ、シェルターだからシェル。女の子っぽいしいいだろ。それとも嫌か? 」
『しぇる! しぇる! アタシはしぇる! しぇるしぇーる! 』
どうやら喜んでるみたいだな。まぁそれはそれとして
「シェル、眷属のお前なら俺の呪いについてわかることはあるか? 」
『うん! めがみさまいってた! しゅてーたす? をみろみろって! 』
おぉ、そーだった! ステータスをみれば情報が載ってるやもしれない。すっかり失念していた。てか、シェルは神様と繋がってるのか?まぁそれは後で聞こう。
良し、さっそくステータスみるか。ウィンドウを表示して、ぽちっと、な!
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良所 内人 種族 人間
称号 貝を統べし者
LV 80
HP 1700/1800
MP 255/300
STR 800
VIT 900
INT 150
DEX 200
LUK 50
──ユニークスキル──
壊れかけた魂(呪)LV3
生物に対し直接交流を計ろうとすると生命が削られる
削られた生命に対しLV相当の苦痛上昇効果
不解呪
渇望LV3
神々の贈り物。望みを叶える因子を与える
LVによって因子の数が変わる
対価 因子の交差により知的生命体の接触が増える
因子1 貝殻シェルター・周辺の魔素を取り込みHP・MPの回復を促す。召喚者のLVに応じ成長する。召喚者の魔力を注入すると開閉する。召喚者が外にでると防具として体に付着する。魔力を注入すると元に戻り、召喚者が中に入ると閉じる。
装備時各ステータス+800※魔力減少デバフ付与
因子2 未確定
因子3 未確定
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おぉ!? すげーレベルあがってる! でもなんでだ? ま、いっか! 異世界だし!
それより呪いのユニークスキルの詳細をチェックチェック、っと。
嘘だろ……
──不解呪
どうやら異世界ライフはきどちゃんに厳しいようです……