ドーファの森の大討伐 森の主との出会い
「──と言うわけで、今日から俺達開拓民の仲間になったキドナイト殿だ」
「きどないとです。気安くナイトって呼んでください」
アルフレードに紹介され挨拶した俺に対し、開拓民の方々は盛大な拍手と共に歓迎してくれた。
普段入らない風呂やおいしい食事を用意し、果ては体の治療までしてくれた者に悪い気持ちは抱かないものだ。
それから俺は予定通りドーファ領内の事情について皆から聞きだした。
大体はアルフレードが問題視してる事と同じであったが、特に魔物の存在が開拓に影響を及ぼしている情報を得た。
そりゃ魔物がうろつく森の近くでのんきに畑仕事はできないもんね。
しかも一か月ぐらい前からその数が増えているらしい。これは早めに手を打たねば。
そう思った俺はアルフレードに予定を告げる。
「アルフ、これからの予定なんだけど」
「おう」
「これから森というか、森含めてドーファ領周辺の魔物を退治してくる」
突拍子も無い俺の話に、当然の様に止めに掛かるアルフレード。
「まてナイト。正気か?魔物って言ってもただのゴブリンだのオークだの雑魚だけじゃないんだぞ? 」
「正気だ。ニ、三日で帰ってくるから。その間打ち漏らしとかいたら心配なんで、領民全員で旅館内でくつろいでいて。食料はさっき言った通り、食堂隣の部屋に魔法鍋置いといたから。まかせたよアルフ」
「お、おい! 」
「ん、なに? あ、寝室の事?適当に割り振ってよ。人数分以上の部屋があるし、布団もあるから」
「違う、そうじゃない」
「んじゃーねー」
問答がめんどくさくなった俺は、納得のいかない様子のアルフレードを置き去りにして外へと出かけた。
◇
さっそく俺は集中して周囲の気配をさぐる。
海沿いには敵は居ないか、あとは街道沿いと森だな。
お、いたいた。街道沿いに少数発見、それと森は……なんかすげー数いる。あれは後回しだ。
俺は街道沿いにある気配をたどって全速力で接近する。
邪神をやっつけてから随分と力が付いた気がするなぁ。領主の館から結構な距離だったのにもう着いた。
「ブモォ! ブモォ! 」
おー、コイツはどっかで見たことあるな。たしかグリードが潰しまくってた、そう、オークだ。
ひーふーみーっと。全部で20体か。
──
───
数を確認したキドは、流れ作業の様にオーク達の首をもぎ取っていく。あまりの速さに断末魔すら無かった。
一応首だけ残しておくか。討伐した証明がないと不安になると思うし。
首以外をアコに吸わせた後、コヤから穴の開いた大き目の針とロープを創造する。そして針にロープを括り付けると、次々とオークの頭を繋いでいった。
なかなかグロいなコレ。
オーク討伐を済ませた俺は領主の館に戻り、玄関にオーク数珠を投げ込む。
あれだよ? いやがらせじゃないよ? アルフが見たらどんな顔するか楽しみなだけだよ?
それから俺はメインの森へ向かった。
──
───
眼前に広がる広大な森。その森全体から無数の魔物が蠢く気配を感じる。
こんだけ居ると数珠なんて作ってる場合じゃない。そうだ、アルフだけ連れて魔物が居なくなった確認をしてもらえばいいんだ。そうしよう!
あれだよ?決して確認するアルフがびびりながら森に入る様を見たいってわけじゃないからね。
討伐部位を放棄すると決めた俺は、森の端から虱潰しに魔物を狩り続けた。
種類は豊富で、こないだ手伝いで狩ったワーウルフやリザードドラゴンはもちろんの事、今まで見たことも無い魔物が沢山いた。
森の奥に進む程、数も強さの質も上がっているみたいで容易に首を取らせてくれない魔物が増えた。それでも結局首をもぎ取って殺すのだけれども。
森の木々の隙間から夕焼けの赤い光が差し込んできた。とりあえず今日はここまでにして続きは明日だな。
そう思った俺は以前にも創ったツリーハウスを用意し、森の木々よりも一際高く伸ばした。そしてベッドに潜り込み寝ることに。
本日はここで一泊!おやすみなさい。
◇
翌朝、高く伸ばした木の家へ朝日が差し込む。その光に急かされる様に俺は目覚めた。
おはようございます、キドです。
今俺は森に居ます。キャンプをしてるわけでも動物を観察してるわけでもありません。
昨日からひたすら森に居る魔物を狩り続けています。
俺は朝食のホットドックをかじりながら、コーヒーを飲みつつ眼下に広がる森を眺める。
景色は良いんだけど、数が多すぎるんだよな。ちょっとうっとおしくなってきた。
俺は朝食を済ますと、集中して気配を探る。おや?気配がまとまってるぞ?
昨日までは森全体に広がっていた魔物の気配が森の中心へと集まっている。
俺が狩り続けてきた影響か?いや、違う。何かを狙っているみたいだ。
集まった気配が少しずつ減るのだ。つまり、集まった先に何かが居て、魔物を返り討ちにしているという事を現している。
俺にとっては好都合だ。まとめて成敗する好機!
チャンスを逃すまいと、魔物が集まっている森の中心点へ走った。
◇
森の中心部。ここに縄張りを持つ巨大なメスのオオカミ、フェンリルが周辺に集まった様々な魔物達と対峙する。
森の生態系の頂点に君臨している彼女は、周辺の魔物達など普段意に返さない。
だが、今回は事情が違っていた。
普段フェンリルを避ける様に森で暮らしていた魔物達が、何かに追われる様に彼女の縄張りへ侵入してきたのだ。
それも多数の魔物が死に物狂いで襲い掛かってくる。
彼女はそれでも万全の状態ならば問題は無かったのだが、タイミングが悪すぎたのだ。
今彼女は身重なのだ。それも出産間近の状態である。
何とか魔物達をけん制しつつ、この場から離れようとするのだが、身重な体がそれを許さない。
徐々に魔物達の攻撃がフェンリルの体へ当たり始め、真っ黒い毛並みが赤く染まり始めていた。
◇
今俺は魔物を取り逃がさないように気配の集まる場所まで近づいている。
漸く視認できる距離まで来た。
そこで見たのは血まみれの黒いオオカミが、複数の魔物と対峙している光景だった。
それにしてもあのオオカミ、格上の気配がするのに何故あそこまで苦戦してるんだ?
不思議に思った俺は黒いオオカミを集中的に観察する。
巨大な体の中に小さい気配がある。なるほどな、あのオオカミ妊娠してるのか。
しかし不思議だ。なんで格上のオオカミにこのタイミングで襲い掛かってるんだ?それも捨て身覚悟で。
魔物の理由なんて単純だろうに思い浮かばない。
しばらく観察しながら、俺は理由を考えた。
昨日までは無かった行動
つまり俺が来てからこうなった
俺が魔物を狩り続けて、住処を追われた
追われた魔物はこの場所を通らないと反対側へ行けない何かがある
だから死に物狂いで格上のオオカミに挑む
挑まれたオオカミは身重で思うように動けない
結果血まみれで衰弱している……って俺のせいじゃね?
ちょっと負い目を感じるな。どうするか……とにかく目の前で親子共々惨殺されるのは良い気分じゃない。
よし、こうしよう。オオカミ以外の魔物を殲滅してその後に敵意を剥いてきたら狩ろう。うん、そうしよう。
そう決めた後、キドの行動は早かった。ある程度まとまっていた魔物達へコヤから創り出した巨大な大槌を振りかぶる。
反撃も出来きず、次々と肉塊になっていく魔物達。ひたすら大槌をふるキド。
数分もしない内に黒いオオカミを残し、他の魔物は肉塊となって土に埋もれていた。
「なぁ、お前の敵はいなくなったけど、お前は俺の敵か? 」
周囲を制圧した俺は、なんとなく話が通じると思いオオカミに話しかける。
すると黒いオオカミはその場に蹲り、小さなうめき声を上げだした。
『メガミ……ノ……ケンゾク……カ……』
俺は敵ではない事を確信しつつ、オオカミへ歩み寄った。




