深層の柱
十数体刺殺したくらいか、ある異変に俺は気づいたんだ。
あ、どうも。きどないとです。今日もなんとか生きています。相変わらず人外以外との交流はありませんが。
今ゴブリンを駆除している真っ最中なんですが、なぜか俺が仕留めたゴブリン以外の断末魔が聞こえるんですよ。
その瞬間、貝殻が脈打ってるのですが気のせいでしょうか?
いや、違う。気のせいなんかじゃない。
脈打つ回数が増えてるのと同時に、シュパっと刺突する音と断末魔が増えてる。
もしかして
この貝殻ゴブリンに攻撃してるんじゃないか!?
下にある隙間からしか外が確認できない、うーん、窓とか出来たらなぁ。うん?
確か今の形状になる前に、貝に触れてなんて祈ったっけ
──俺を守る城と成りたまえ
あ
もしかして願いと魔力に関係して形状をかえられるのか?
だとしたら
内壁に手を添えて、願おう
外周が目視できる強固な窓を設置せよ!
瞬間体から魔力が抜き取られる感覚が襲い、同時に目の前の壁が変化する。
よし! 成功だ──
眼前に広がる円状の草原、そして崖の穴からワラワラ沸いて接近してくるゴブリンズ
貝殻の周囲には山のように折り重なる死体、さながら戦場です
そして俺は見た。貝殻外壁から複数の触手?らしきものが次から次へとゴブリンを刺殺していく光景を。
目算で100匹ぐらいと思っていたゴブリンズはその10倍近くいるっぽい
まるで蟻塚を破壊した後にワラワラと湧いて出てくる蟻のように次から次へと穴からでてくるゴブリンズ
これ油断して接近戦を試みてたら死んでたね。間違いない。
しかし我が城(貝)は圧倒的じゃないか! 刺突回数が増えるたびに、より強く、より早い攻撃を繰り出していく。一撃で数十体串刺しとか段々怖くなってきたんですけど。
ゴブリン遭遇戦がはじまって体感的に一時間ぐらいか、無数に湧いて出てきたゴブリンズに動くものはいなくなっていた。圧倒的殲滅、一方的な虐殺だった。
なぜだろうか、俺は達成感も無くただ無数の死体を眺めていた。
その時俺に異変が起きる。
──トスッ
あ、あれ
なんだろう
俺の腹になにか刺さって
内壁から伸びる一本の触手、間違いなく俺を突き刺している。
もしかして、俺って貝のエサ扱いだったのか?
あまりの事に驚いて痛みも無く、あれ? 痛く無いのだが。
そして脈打つ触手
──ドクン、ドクン
見た目ものすごく嫌な状況なんですが、脈打つたびに体の底から力が湧いてくるような感覚が俺を包み始める。
これは、一体……っていってええええええええええええええええええええええええええええええええ
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
……
体、が、壊れ、うぐぅうううううう。
まるで内臓を鷲掴みにされてる感覚だってって痛い痛い痛い
痛みが限度に達したのか、俺は気を失っていた。
──
───
────
ここは、どこだ
俺は何をしていた
あれ、この白い空間、覚えがある
あ
神様のいた場所だ
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい
神様がくるぞこれ、といいますか俺もしかして死にました!?
いや、それどころじゃない。死んだとかそうじゃない。
神様が来る
それはだめだ
コワイ
怖いんだ
他人との交流が
死より怖い
怖いんだ
交流するたびに自我が崩壊して、無へと帰する
そんな脅迫感が
貝
貝だ
俺は
貝
あぁ……だめだ
貝は俺を裏切った
刺したのだ
なら何を思えば良い?
あぁ、ダメだ
──これは独り言
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あ、?
──返事をしなくても良いのです
あ、あ、あ、あ
──独り言なのです
あぁ……
なぜか救われた気がした
神様の独り言をただ聞いてるだけなんだ
あぁ……
──矮小なる魂よ、汝恐れるなかれ。壊れかけた魂の深層には決して消えぬ渇望の柱があります
──相反する魂の輪廻、業を宿す矮小な魂よ
──願い、乞い、汝の思いを昇華せよ
──渇望は汝を裏切らない
──恐れるなかれ、恐れるなかれ
縁の先で、輪廻の後に──
──
───
────
──神様、ありがとうございます
ただ感謝の言葉しか思い浮かばなかった
そして俺の意識は覚醒していった。自身の意識、その変化に気付くことなく。