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対人恐怖症な俺の異世界リハビリ生活  作者: 春眠桜
ヴィクトール王国への帰路
30/123

何も考えず言葉にする行為は代償を伴う

──ガラガラガラ


馬車が車輪を響かせて道を駆ける。


その音と振動で先程目が覚めたんだ。


おはようございます、きどないとです。


あれ、俺なにやってたんだっけ? ここはどこだ。それにしても馬車? しかもベッドで寝てる?


まだ意識が完全に覚醒してない、現を抜かしてる状態の俺に向かって元気な声が耳に入ってきた。


『ないとーおきたー! 』


「んぁ……おぉ、シェルか。おはよう」


『おはよー! あい! 』


うちのお転婆娘は今日も健在です。


「なぁシェル、今どんな状況だ?それと俺なにやってたんだっけ──」


今の状況がさっぱりわからない俺はシェルに説明を求めたんだが、それを遮るようにやかましい甲高い声が響いた。


「ナイト殿! 目が覚めましたか! 」


「うわぁああああああああああ」


思わずうわぁああああなんて恥ずかしいリアクション取っちゃいましたよ、えぇ。


俺の面にくっつくほど顔を近づけて、見覚えある輝く金髪の若い女性が叫んできたのだから。


「ソ、ソフィアさん!? 」


「あぁ、私が誰だか分かるのかナイト殿。よかった、本当によかった……」


今度は目に涙を溜めて、号泣しそうな勢いだ。正直寝起きにはキツイ。状況が解らないのなら尚更だ。


「お、落ち着いてくださいソフィアさん」


とりあえず俺はソフィアさんを落ち着かせて、この状況に至るまでの説明をしてもらった。


その説明の過程で俺の記憶は鮮明になっていく。


そうだ、邪神アークを討伐したんだった。


それからシェルとアコヤに他の人たちを救ってくれってたのんで意識が飛んだんだった。


ソフィアさんの話だと他の全員無事のようだ、お願い聞いてくれたんだな。


「ありがとなシェル、アコヤ」


『えっへん! シェルはよいこなの! おねーさんなの! 』


──テレマスユエ返答シマセン


シェルは相変わらずだが、なにこのツンデレ仕様のアコヤは。照れますって返事しちゃってるし!


「それでソフィアさん、鎌おじ、ヘルダーさん達は今なにしてるの? 」


「あぁ、死神達は大丈夫だ。まぁ色々と大変だったのだが」


大変? なにかトラブルでもあったのか? 気になるじゃないか。


「大変とは? それとここはまだ帝都なのかな? 」


「いや、ここはもう帝都ではない、帝国ではあるが。ラドルア帝国とヴィクトール王国の国境付近の町を抜けた所だ」


え、なにそれ。


「国境……えぇ!? てか、邪神討伐からどれだけ時間がたってるの!? 」


「あれから3か月経過している」


「は? 」


嘘だろ。3か月気を失ってたとか、この異世界に来て初めての体験じゃないか。


「余程邪神との戦いに消耗していたのだろう。御使い殿は心配いらないと言っていたが、一向に目覚めないナイト殿が心配で心配で……」


ソフィアさんまた涙目になってますよ。


「大丈夫ですよソフィアさん。もう泣かないでください」


「な、泣いてなどいない! 安心してるだけだ! 」


やっぱからかうとカワイイな。顔真っ赤にしてプイっと逸らす仕草はありですね。


まぁ大人の色気は皆無なのですが。あ、思い、出した。


「ライラさんとの約束──」


『なーいーとー! 』


「うっ」


うちの小さなお転婆娘が寝ている俺の首にまたがり、小さな両手で口を左右に引っ張ってきた。


「わにすんだほしぇふ」


『ないとのあたまぴんくでいっぱい! めー! 』


やめてくれないかシェル。いかに家族とは言え、紳士の領域を覗こうとするのはルール違反だ。


『めー! 』


「わ、わかっかから、てをははひて! 」


半ば引き離すようにシェルを両手で抱え、枕元に置く。


「まだ寝起きなんだ、ゆっくりさせてくれよ」


『ぶー! 』


「ナイト殿、ちょっと良いか? 」


「はい? 」


まてまてまて、真っ赤な顔を逸らしてモジモジしてたソフィアさんが眉間にしわを寄せて凄んでくるのは一体なんでだ?


「ライラ殿との約束とは一体何の話か?説明してほしいのだが」


意味が解らない、なぜ俺は今攻め立てられている。


どう説明しようか迷っていた時に、馬車は急停車し、御者の叫び声が響いた。



──ま、魔物です! 敵襲!



その叫びを聞くや、ソフィアさんは風の様に外へ飛び出した。


俺もそれに続く。正直体はだるかったのだけど、何もしないわけにはいかないからね。


動き出した俺の肩にはお転婆娘がしっかりと座っておりますし。


「ナイト殿は寝ていてくれ、まだ病み上がりだ」


「そうはいってもソフィアさん、女の子一人にまかせるのは気が重いじゃないですか」


「私一人なはずは無かろうに。ほら、後ろに続く馬車を見ろ」


そうソフィアさんに言われて後ろを見ると、見覚えある男共2人が馬車から飛び出し駆け寄ってくる。


「いよぉ、ナイトのにーちゃん。無事だったようだな! 」


「ナイト殿、御無事で」


グリードさんとクレイグさんだ。


「お二人共、無事でなによりです」


「あっはっは、俺は頑丈だけが取り柄だからな! 」


あいかわらず元気の塊みたいだなグリードさん。それとクレイグさんも壮健でなにより。


「二人共挨拶は後だ! くるぞ! 」


ソフィアの声に即座に反応する二人。


「あ、あぁ? なんだ、オークの群れじゃねーか。脅かせやがって、お嬢とクレイグは下がってな」


どうやら魔物はオークみたいだ。オークってあの豚と人を合わせた感じの魔物ですかね?


「ブモォオオオオオオオオオオオオオオオ!」


あ、はい。どうやらそうみたいですね。


雄たけびを上げながら迫りくる十数体のオーク。


それに対し、まるで街中を散歩しているように近づくグリードさん。


「ブヒブヒうっせーんだよ、豚もどきが! 」


得物の大槌を大きく振りかぶると瞬間オークの血が舞った。


断末魔すら無い圧倒的一撃


数体のオークは文字通り肉塊に化けた。


「ブモォオオ! ブモォ! 」


残りのオークたちはそれでも怯まず、グリードさんに襲い掛かる。


だが、その突進も無駄に終わった。


無数の打撃を繰り出すグリードさんになす術無く、次々と肉塊になり、そして全滅した。


強いねグリードさん。たしかヴィクトール王国の盾って言われてるオースロックさんの息子さんだったっけ。


しっかし、街道のど真ん中にオークの死体が山になってるのはどうしたものか。


「お嬢、すまねえ。道が塞がっちまった」


「はぁ、グリード、すまないではないだろう」


「まぁやっちまったのはしょうがねえって! 面倒だが、まとめて燃やすか」


ん? 燃やす? ちょっとまって、もったいないじゃない。アコヤに吸わせてご飯にしたほうがって……


あぁ……腹へった。色々と思い出してしまった。3か月何もくってなかったんだっけか。


「燃やすのはまってください。それと皆さんは今日食事取りました? 」


その言葉がいけなかった。


すっかり忘れていたんだ。


この人たちは邪神討伐前夜の晩餐で


俺が出した料理の虜になっていたことを。



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