討伐前夜の晩餐 壱
ここはどこだ?巨大なベットに横たわってる俺。
意識を戻した俺は知らない天井を見てふと思った。
あ、どうも。きどないとです。
煌びやかな装飾の施されてる屋敷の一室。わかるのはそれくらいだ。
なんでこんな場所に? それと
「なぜしがみ付いてるのだシェル」
スヤスヤと寝息をたてて気持ちよさそうだなおい。小さな手できっちり俺のジャージを掴んで離さない。
そんなシェルの寝顔を見て記憶がよみがえる。
「あ……ライラさんのプルプルをみてたら電流が走ったんだっけ」
そんな言葉を呟いた瞬間、シェルはカッと目を見開き起きると、間髪入れず俺の後頭部に頭突きをしてきた。
──ゴンッ
「痛いぃ」
『ないとのばか! 』
うぅ……なんてこった。寝起きの一撃とは思えない高火力な頭突き。
「こらシェル、暴力はいけません。そんな事をし続けてると俺は死んでしまいます」
『しぇるわるくないもん。ないとわるいんだもん』
どうやらうちのお嬢ちゃんはお転婆娘としてスクスク成長しているようだ。
「悪かった、気分を害してごめんな。ところでシェル」
『あい? 』
「ここどこだ? 」
『おじさんのおうち! 』
あぁそうか。鎌おじさんの家かって、いつのまに!? あ、俺が気絶してる間に移動したのか。
そうこうしてる内に重厚な扉が打たれる。
──コンコンコンコン
「はい、どうぞ」
ガチャ──
「失礼します」
どうやらこの屋敷のメイドさんらしい方の様だ。黒く綺麗な髪を束ねて、ものすごく清楚な感じの良い雰囲気。うん、ザ・メイドって感じだ、悪くない。
「お休みの所失礼いたします。私ナイト様のお世話を申し付けられております、ミリアと申します」
「恐縮です」
「さっそくですが、客間にて主人ヘルダーがお待ちですのでご同伴願えますでしょうか? 」
「わかりました。シェル、鎌おじ……ヘルダーさんの所にいくぞ」
『あい! 』
ということで俺達は、ミリアさんに案内されるがまま鎌おじさんのいる客間へ向かった。
しっかし広い屋敷だなぁ。廊下が物凄く広いし、調度品やら絵画やらたくさんあるし。貴族中の貴族みたいな屋敷だ。
数分歩くとこれまた立派といいますか豪華といいますか、巨大な扉が眼前に。
「ヘルダー様、ナイト様方をお連れいたしました」
──お通しせよ
扉が開かれて内装が目に入ってきたんだけど、どんだけ広くて豪華な部屋なの!?
巨大な縦長テーブルの上座に鎮座するヘルダーさん。右手側の席にはジークさんとライラさん、対面してるのはクレイグさんにグリードさん、それにソフィアさん。おや? オースロックさんがいない。どうなってんだ?っておい!
「なんでソフィアさんがきてるの!? 」
聞かれたソフィアは申し訳なさそうにゴモゴモと口を開く。
「それはだな……」
『そふぃあおねーちゃんが』
「御使い殿!それは内緒で──」
なにやら強引についてきたってのが真相らしいね、これ。
「来てしまったのならしょうがないですね。ところでオースロックさんは? 」
『そふぃあおねーちゃんがポイしてもんとじちゃえって! 』
「え」
「ガハハッ、あんときの親父の顔、傑作だったぜ!目ん玉まるくして叫んでやがった! さすが俺らのお嬢だぜ! 」
どうやらお転婆なのはうちのシェルだけではなさそうだ。
話といいますか言い訳といいますか、顔を真っ赤にしたソフィアさんいわく
軍を率いて帰国するだけでは防衛に不安がある
王国の盾と言われているオースロックさんが残れば不安も解消される
私はついていきたい
そうだ、オースロックを置いて行こう──
こういう事らしい。それにしてもポイって。
「まったく、精神的に成長しろ小娘」
鎌おじさん、まるでソフィアさんのお父さんみたいですよ。
「う、うるさい。しかたのない事だったのだ」
ソフィアさん、反抗期の娘さんですか。
それからヘルダーさん達と邪神討伐について予定を立てた。俺からは邪魔をしないでくれってのと、事後処理だけきっちりお願いした。
段取りはこうだ。
まずグリードさんが捕らわれたエルフ達の護衛に
帝都内全般の防衛はジークさん
邪神との戦闘直前までヘルダーさんとクレイグさんが付き添い
現皇帝一族の防衛をライラさんに
そして
「わ、私はなにをすればよいのか? 」
不安そうに尋ねてくるソフィアさん
「あー、えーっと。そうですね、お留守番、でいかがでしょうか? 」
──バンッ
テーブルが勢いよく叩かれ、音が室内に響く
「ななな、ナイト殿!いくらなんでもそれはないだろう! 」
「ハハハッ、そりゃ傑作だぜ!お嬢が留守番……クックック、腹がいてえって! 」
「おいグリード、貴様無礼であろう! 」
爆笑しているグリードさんと、顔を真っ赤にしてキィキィ喚くソフィアさん。でもまぁ留守番以外選択肢ないんだよね、実際。
危険度からいって最前線の俺達邪神組参加は当然却下。次点で邪神が重視するであろうエルフ達、それの護衛も却下。帝都全体の防衛には機動力が必須なのでジークさん以外無理だし。なにより帝国皇帝一族の護衛に王国の王女が参加するってのはもっての他だし。
日が陰って、そろそろ夜になる。そこで俺は提案した
「お腹もすいたんで、ご飯食べながら考えません? 」
俺の提案に鎌おじさんはそれもそうだな、と夕食の準備を指示しようとした。
そのときだった
『ないとー! 』
我が家の怒れるちいさな御使い事シェルが、甲高い声を発した。
「なになになに!? どうしたシェル!? 」
『ぶーっ! 』
「え、えええ!? 」
『は・ん・ば・-・ぐっ! 』
どうやら俺は大事な約束を忘れてたみたいだ。これからの事を思うと憂鬱さで気が重い。
シェルをなだめつつ、準備をしようとしていたヘルダーさんに事情を説明して取りやめてもらった。
それから皆さんに肉料理と酒は大丈夫か?と聞いて、俺は準備に取り掛かった。
肉料理とはもちろんハンバーグだ。
晩餐が今はじまる




