御使い(シェル)の怒り(雷光)
どうも、きどないとです。
鎌おじさんとソフィアさんに同行者を呼び寄せてもらい、お二人あわせて7名の方々と一匹がいらっしゃいました。
今思えば軽率な発言だったかもしれません。
なぜあんなにイライラしたのか不思議なのですが、とにかく最短で邪神をぶっ飛ばしたかった衝動にかられて叫んでしまいまして。
皆さんの姿をみて後悔してしまいました。消耗していない方が一人もいなかったのですよ。
「ご無理を言ってすみません」
自然と謝罪の言葉がでました。
「おうにーちゃんよ、一体どーなってんだ?こちとら燃え上がった戦場で命のやり取りをしてたってのによ」
「親父の言う通りだぜ、意味がわからねぇ」
ごもっともな悪態をつかれてるのはソフィアさんの軍から来たオースロック・グリード親子
「……」
さっきから無言なクレイグさん
「「……」」
同じく無言なジークさんとライラさん
キツイです。対人恐怖症な俺には本当にキツイです。自分で招集をかけたのに。
「グルルルルル」
ジークさんのお連さん、黒竜さんが唸っています。コワイです。
「あー、えと。お話はお聞きとは存じますが、これからラドルア帝国・帝都に行きます。なにをするかと申しますと、私が邪神をぶっ飛ばしますので、事後処理をお願いしたく集まっていただきました」
「「は? 」」
「……」
いかつい親子が驚愕しながら「は? 」っていってるし、クレイグさんは無言のまま目を見開いてるし。
「「誠でございますか!? 」」
「グロオオオン! 」
ジーク・ライラさんは驚嘆しながら同じこと言ってるし、黒竜はジークさんに共鳴したのか雄たけびあげてるし。どうしよう。
「おかしな事ぬかしやがる、邪神を倒すだと? ハッ」
「おう親父、邪神ってなんだ?聞いたことねーぞ」
「たりめーだ、オレ様も初耳だ」
どうやらヴィクトール王国の方々は邪神の存在すら知らないみたいだ。けどクレイグさんの様子がおかしい。目を見開いて驚愕しっぱなしなんだけど、これって何か知ってるのかな?
まぁともかく
「最短で移動したかったので最小限の人数を集めたのですが、この状態だとキツイですよね……」
とくにライラさんとオースロックさんの状態がやばかった。
オースロックさん傷だらけで赤鬼みたいに真っ赤だし、ライラさんの右半身がとてつもない衝撃を受けたっぽい感じで鎧が無くなってボロボロ。女性なので目のやり場に困るんだよなぁ。
「まぁ……ジークの野郎と戦えばこーなるわ。これでもまだマシな方なんだがな! 」
「私は聖剣との交戦でこの有様です」
うーん、困った。元気で屈強な方々ならシェルに巻き付けてもらって俺が走って行こうとしてたが、この状態だとそれも適わない。
なにか解決方法を考えねば。
あ、そうだ
「なぁシェル、良い方法なんかない? 」
『もん! もんひらくの! 』
はい? もん? あ、門!? もしかして転移門ってヤツか?
「確認するけど、門ってどこか遠くへ移動できるやつか? 」
『あい! ぴゅーって! あい! 』
たいへん結構な情報ですよシェルさん! それでいきましょうよ!
「シェル、それで行こう。お願いできるか? 」
『あい! ないとおめめつぶって』
「やだ」
『!! 』
「おまえまた俺の意識刈り取ってナイショな行動取ろうとしてるだろ? 」
『だめー? 』
「だめだ。おまえはいつも俺を置いてきぼりで解決しようとしてるだろ? 」
『うぅー』
「俺の意識を刈り取らないってなら良いけど」
『うー! ないといじわる! 』
「ハンバーグセット」
『!!! 』
「デミグラス・チーズ・トマト三種の神器」
『!!!!!!! 』
「どうだ? ここまで譲歩してもやっぱりダメか? 」
『ほーしゅー! やぶったらめー! 』
「うん、破らない」
『あい! ないとおめめはんぶんつぶって! 』
お、どうやら交渉は成立したみたいだな。チョロいぜシェルよ!
シェルを抱えたまま俺は右目を瞑る。
◇
するとシェルは瞑った右目に手をかざし呟く
『共鳴貝』
光に包まれた俺達
本来ならここで意識が飛ぶのだが、左目はしっかりと見開いてる。うん、大丈夫っぽい。
光がおさまるとソフィアさんが驚きながら喋りだす。
「なんと、光白の騎士は其方だったのか、いや、この姿は」
続けて鎌おじさんが口にする
「半身が光白の騎士、半身が黒色の気を纏うこの姿。やはり人外の存在だったか」
なんだかわからないけど、どうやら変身したみたいだ。そういえばシェルは鎧になったのかな?
──主よ
うぉ!? なんだ? 頭の中で声が聞こえて
──うふふ、私です。シェルですよ
え、嘘。こんな大人びた声が、シェル!?
──はい、シェルです。少々恥ずかしいのですが
もしかして意識を飛ばしてたのって、声を聴かれるのが恥ずかしかったから!?
──主は乙女の気持ちを理解してください
すいませんでした。
──主よ、主の望みに答えた方々の傷を癒したいのですが
お願いできる?
──はい。
すると自分の口が勝手に動き出した。ちょっとあせったよ
『主の望みを叶えし方々、その身を癒しましょう』
『触貝』
右半身から無数の、まるで髪の様な触手が7名と一匹に触れ、その体がぼんやりと光りだす。
「な、なんじゃこりゃー! 」
オースロックのおっさんがそう叫び、周囲の者はみなオースロックへ視線を移す。
みるみる傷口が塞ぎはじめ、真っ赤な血染めの体が払拭されていく。それだけではない、重症をおったであろうライラの半身もみるみる回復していく。
「これは……」
無口なジークすら感嘆の声をだす。そう、普通ならあり得ない光景が広がっていたのだ。
シェルよ
──はい主様
回復ついでにもう一つお願いがあるのだが
──なんなりと
ライラさんの鎧も治してあげて。プルンプルンなものが丸見えだと困るでしょ。本人も、あと目のやり場にも
──なんて破廉恥な!
瞬間稲妻が俺の体を貫いた。
これが女神の御使いの怒りってやつか……なんでぇ……
俺はライラさんの鎧が修復されつつある姿をしっかりと目に焼け付けながら、意識を飛ばしていくのであった。




